経済

日本経済の動向

1985年当時と状況が似ている 「逆オイルショック」が経済に与える影響

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

原油価格の下落が目立っている。
ここ数年1バレル=100ドル前後で推移していたが、米国のシェール革命でOPECの価格支配力が低下したことなどにより、昨秋以降から急落が始まった。
今回は、「逆オイルショック」ともいえる原油価格の下落が起きている背景と、世界経済に与える影響について解説する。

■ 原油価格「高止まり」のつっかえ棒が外れた

 原油価格(WTI)は2014年12月に50ドル台の水準まで低下した。銅と原油の相場は11年までは連動した動きを示していたが、11年以降、銅価格が中国の景気減速と連動して低下に向かう中、原油相場は地政学的な不安などもあって高止まりの状態が続いていた。中国を中心とした世界的な需要不足、設備投資の停滞によって資源価格全般に低下圧力がかかっても、原油価格はその影響を受けなかった。しかし、景気の減速傾向が続き、特に14年前半は世界的にも期待外れとなった低成長の中、これまで原油価格を高止まりさせていたつっかえ棒が外れ、一転して原油価格が大幅な調整に陥ったと考えられる。2015年1月に入り投機的売りが強まり、ピークから半値以下の50ドル割れの水準にまで低下している。
 原油相場は基本的に需要と供給の2つの要因によって規定される。一般的には供給要因が注目されやすいが、その潮流を定めるのはやはり需要要因であり、それを補完して供給要因が加わることが多い。今回の需要低迷の背景には、2000年代後半の先進国の低成長に加え、中国も含めた足下の新興国経済の減速がある。供給要因としては、米国のシェール革命で中東の原油生産を中心にOPECの価格支配力が低下したことも大きい。

■ 30年前にもあった「トリプルメリット」

図 1985年と比較した最近の原油価格(WTI)推移


注:直近値2015/1/2 資料:Broombergよりみずほ総合研究所作成

 今回の状況について、筆者は30年前に起きた原油価格の急落との類似性を強く意識してきた。当時、この「逆オイルショック」は、1970年代の大幅な石油価格の高騰、石油危機の反動として生じた側面もあった。85~86年には60%以上の下落が生じたが、今回もすでに50%以上の下落が生じている(右図)。
 みずほ総合研究所では15年の見通しを考えるに際し、「トリプルメリット」の要因として 金融緩和、 財政拡大、 原油価格を挙げ、原油価格の下落を重視してきた。85年当時も今回同様に「トリプルメリット」として、 円高、 低金利、 原油価格が指摘されていた。世界経済は、80年代前半の世界的な金融引き締めに伴い低成長状況にあり、原油需要が低下していた。さらに、新たな北海油田の存在でOPECの価格支配力が揺らいだことも大幅な原油価格の下落につながった。

■ ロシア経済のリスクに特に留意が必要

 1980年代後半に生じた原油価格の下落は、日米欧の先進国経済の底上げにつながった。すなわち、原油価格の下落が物価下落を招き、それまでのインフレから物価水準の大幅下落が意識されるようになった。その結果、各国中央銀行の金利引き下げ余地を拡大し、各国で株式を中心とした資産価格の上昇が生じた。一方、産油国を中心に新興国では債務累積問題という深刻な経済問題が生じた。地政学的には、大幅な原油価格の下落は当時最大の原油産出国であったソ連の影響力低下を招き、それがソ連の崩壊の一因になったともされる。
 今日においても、原油価格の下落は日米欧の先進国の景気底上げ要因となる。一方、産油国を中心とした多くの新興国にとって、原油価格の下落は経済が不安定化する要因になりやすい。原油に大きく依存するロシアの状況には留意が必要であろう。なお、市場動向を考えると原油価格の下落は物価や金利の低下の要因になると同時に、各国中央銀行の金融緩和余地を一段と広げやすくする。実物投資が鈍い中、緩和マネーが資産価格を上昇させやすいのも80年代と同様である。

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