経済

日本経済の動向

先行する欧州では失敗の歴史 軽減税率を日本で導入する必要はあるか

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

消費税の逆進性を緩和するために、食品などに対する軽減税率の導入が検討されている。
だが、先行する欧州諸国では当初の目的が達成されていない。
実際に食品にゼロ税率を導入した場合の税負担効果を試算すると、逆進性対策としては有効ではないことが分かる。
消費税の逆進性を是正するために最も有効な給付付き税額控除の導入について解説する。

■ 軽減税率は消費税の逆進性対策にならない

 政府与党は消費税の逆進性を緩和するために、食料品などに対して軽減税率を導入する方針である。軽減税率導入の理由として欧州諸国の多くが軽減税率を導入していることがよく指摘される。確かに、軽減税率はポピュリズム的に国民受けする政策であるが、実際には欧州諸国において実務面では失敗とされ、初期の目的が達成されていないとされる。理由としては、軽減税率は逆進性対策として効果的でないこと、軽減税率が適用される品目の線引きが難しいこと、軽減税率を求める政治的な圧力が生じやすいことが挙げられる。欧州諸国では、ポピュリズムの観点から軽減税率を導入して、元に戻せないことに悩んでいるのが現実である。そうした環境下、あえて軽減税率を日本が導入することには、冷静な議論も必要というのが基本的発想である。

■ 低所得者の税負担を抑える給付付き税額控除

 食品にゼロ税率を導入した場合の税負担効果を試算すると、軽減税率は有効な逆進性対策になっていない。低所得者の方が消費に占める食費の割合は高い(エンゲル係数が大きい)ため、一見、軽減税率の恩恵は低所得者に向かうように見える。ただし、絶対額で評価すれば、高所得者の方が多くの食料品を消費しているため、高所得者ほど軽減税率の恩恵を受ける。さらに、高所得者の消費の中にぜいたく品が含まれる場合、より問題が大きくなる。
 理論上、消費税の逆進性を是正するために最も有効とされるのは、給付付きの税額控除の導入である。下図に示されるように、食料品へ軽減税率を導入しても逆進性の緩和は限られる一方、給付付きの税額控除では低所得者に大きな恩恵が及ぶ。消費税率が一律(10%)である場合は低所得者ほど税負担率が高くなるが、給付付き税額控除を導入すると、低所得者ほど税負担が低く抑えられる。実務的には所得税を払っている人には減税、所得税を払っていない人には税が還付される。給付付きの税額控除は、今後導入が予定される社会保障・税番号制度(マイナンバー)を利用すれば正確な所得制限をかけることができるため、高所得者にはその恩恵が及ばない。

図 軽減税率と給付付き税額控除の比較


資料:総務省「全国消費実態調査」(平成21年調査)より みずほ総合研究所作成

 

■ 欧州の失敗を踏まえて導入是非の議論を

 筆者も委員の一人として参加する政府税制調査会では、2014年6月11日に軽減税率に関する検討状況が示され、軽減税率に関する意見交換も行われた。その中で印象的だったのは、数名の軽減税率導入に賛成の委員を除き、学識経験者を中心に圧倒的多数が軽減税率の導入に反対で、逆進性の是正には給付付き税額控除の導入が望ましいとの見方をしていたことだ。参加した過去1年半の税制調査会でここまで意見が集約されたことも珍しい。こうした中、日本では新たに軽減税率の導入される際には、あらためてその是非を慎重に議論すべきではないかというのが本論の趣旨である。しかも、一度その導入を行えば、それを元に戻すことは政治的に不可能だ。先行する欧州ではその導入は失敗の歴史であったことが明らかになっているものを、あえて日本に導入することの判断には冷静な議論が必要ということだ。

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