経済

日本経済の動向

自国主導で「中国経済圏」の拡大を狙う理由|中国経済の「中程度の高成長」は維持されるか

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

中国の習近平政権が積極的な外交を展開している。特に太平洋地域でのインフラ建設や経済統合といった分野でプレゼンスを強化しているのには、国内の経済問題の解消という背景がある。中国経済は30年近く2桁成長を維持してきたが、ここに来て「中程度の高成長」へと成長率の水準がシフトしている。中国政府はいかに持続的成長の実現を進めようとしているのかを解説する。

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外交積極化の背景に国内の経済問題解消

表 2013年、2014年の数値目標と実績値


※貿易総額伸び率は名目米ドル建て
(資料)
2013年国务院政府工作报告
(『中央政府门户网站』2013年3月19日、*2015年1月22日アクセス)
政府工作报告(全文)
(『中央政府门户网站』2014年3月14日、*2015年1月20日アクセス)
国新办就2014年国民经济运行情况举行发布会
(『中国网』2015年1月20日、*2015年1月20日アクセス)、CEIC Dataなどからみずほ総合研究所作成

 中国の習近平政権は、2014年に精力的に外交を展開した。特に同年11月に北京で開催されたAPECでは、アジア太平洋地域でのインフラ建設や経済統合などの幅広い分野での外交攻勢を積極化させ、存在感を高めた。なかでも顕著なのが、鉄道や道路といったインフラ建設の分野でのプレゼンス強化だ。具体的には、①「シルクロード経済ベルト」および「21世紀の海のシルクロード」(以下、2つをまとめて「一帯一路」)と呼ばれる対外交流強化策と、②これらに象徴されるインフラ建設計画を資金面でサポートするためのアジアインフラ投資銀行(AIIB)およびシルクロード基金などの創設である。
 外交積極化の背景には、アジア地域を中心とした中国の国際社会での影響力拡大、その観点からの対米けん制という政治的動機がある。同時に、積極的な覇権拡大には中国の経済問題の解消が背景にある。第1は、中国の生産能力の過剰問題の緩和のために米国主導のTPPによる経済圏の形成ではなく、自国主導での「中国経済圏」の拡大を行うこと。第2は、中国西部地域の開発促進である。特に、「一帯一路」による周辺諸国との経済交流活性化で西部地域の発展を促すことが重要視されている。第3には、エネルギーの安全保障強化の観点がある。
 今日の中国政府の対応は、景気下支えを強めつつも、+7%前後の水準に成長率を誘導していくことを考えている。2014年には中国の実質GDP成長率が前年比+7.4%となり、中国政府は財政・金融政策による景気下支えを図りつつ、「+7.5%前後」という成長率目標を達成することに成功した(右表)。2015年度の成長率目標は、過剰生産能力の調整のための投資抑制が必要なことから、「+7.0%前後」に引き下げられる公算が大きい。この程度の減速であれば雇用の安定も保てるだろう。

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2桁成長から「中程度の高成長」へシフト

 中国政府は最近、中国経済が「新常態(ニューノーマル)」に移行しつつあることを強調している。ここで「新常態」とは、30年近く維持されてきた2桁の成長から「中程度の高成長」へという成長率の水準シフトを指す。その政策の狙いは、構造改革を行いつつ持続的成長の実現に経済を導くことである。そのためにも中国政府は先述のように経済外交を積極化させている。すなわち、生産能力過剰問題解消、西部開発、インフラ拡大を志向する「一帯一路」、資源制約の解消を目指したエネルギー協力の強化だ。中国は自由貿易体制など既存の国際秩序からの恩恵を受けつつも、同時にアジアという観点、途上国という側面から中国自らの影響力、中国経済圏の拡大という姿勢をとると展望される。その結果、今後も既存の国際秩序との摩擦が生じる場面も出てくるだろう。

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