経済

日本経済の動向

原油暴落がもたらした「水没金利競争」のわな|成長なき外需依存が招く世界経済の長期停滞化

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

 原油価格の暴落は資源ブームや新興国ブームの見直しのみならず、各国の金融政策に多大な影響をもたらしている。原油安に伴う物価の下落によって、各国が異例の金融緩和を続けているのだ。
 世界各国が「金利水没競争」で自国通貨安の誘導を行う「近隣窮乏化策」で乗り切ろうとしているが、成長なき外需依存は世界経済の長期停滞化を招きかねない。

1

自国の通貨安誘導を行う「近隣窮乏化」

図 経常収支の地域別推移


資料:IMFよりみずほ総合研究所作成

 今日の世界経済の異例な状況を象徴する二大現象は、原油価格の暴落とマイナス金利の状況ではないか。原油安の経済は、資源ブームの終焉や新興国ブームの見直しをもたらしているだけでない。原油安に伴う物価の下落は、各国の中央銀行を異例の金融緩和に踏み切らせ、有史以来のマイナス金利(金利水没)が生じている。
 先進国の需給ギャップは2007年を大きな転換点とし、その後足元に至るまで大幅なマイナスを続けている。この背景には、日本が1990年代から続くバランスシート調整にあるなか、欧米も2007年のサブプライム問題、翌年のリーマンショック後にバランスシート調整に陥るという大恐慌以来の局面を迎えたことがある。米国はその調整から出口を見つけつつあるが、世界全体では依然として大きな後遺症を抱えている。
 右図は世界の地域別にみた経常収支の推移である。今日、欧州は世界最大の経常収支黒字の地域である。大幅な赤字を続けていた南部ユーロ圏の収支が、2013年以降、緊縮財政の結果大きく改善し、足元は黒字に転じる状況にある。もともと黒字であるドイツは、依然かたくなに緊縮財政の姿勢を続けている。今日の欧州の状況は、経常収支の面からはユーロ高になるべき状況を、「金利水没」という捨て身の戦略で、無理やりユーロ安に誘導しているようなものだ。単一通貨であるユーロ制度を守るべく、南欧の赤字是正を行うがためにユーロ圏は財政政策を封印し、他国からの需要(外需)に依存すべく、自国の通貨安誘導を行う「近隣窮乏化」を採っていると言える。
 世界各国は「金利水没競争」による自国通貨安の近隣窮乏化策で、不況から脱出をしようとしている。それらの施策は各国にとっては「正常化」であるが、全体では「合成の誤謬」を引き起こして世界に原油安経済と異例の金融環境をもたらしている。

2

緊縮財政と金融緩和のポリシーミックス

 従来、日本を中心とする経常収支の黒字地域は、財政支出を中心に内需拡大を迫られた。しかも今日の世界では、需要不足に伴う長期停滞不安が顕現化している。しかし、2月9日~10日にイスタンブールで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、「金利水没」を促すECBの異例な金融緩和対応に対して物価安定のための措置としてお墨付きを与えただけで、結局、財政政策による自律的な成長の回復は示されていない。しかも、今回は2008年以降の世界の危機を「4兆元の公共投資」で救った中国でさえ、金利を引き下げて外需に依存する状況だ。世界中が財政の緊縮と過度な金融緩和のポリシーミックスに依存している。
 本来、世界各国は財政拡大を含め、各国独自に需要を作り上げる「21世紀のマーシャルプラン」、「21世紀版ノアの方舟」が必要だ。しかし、そうした世界的合意が実現するまでに至らない軋みを世界各国が抱え始めている。こうした世界の不安の中では、原油価格の下落や、金利水没は予想以上に続くかもしれない。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ