経済

日本経済の動向

今年度中に政府目標「2,000万人」達成も|訪日外国人数見通しとマーケティング戦略

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

メディアでも報道されている通り、訪日外国人観光客が大幅に増加している。
このペースでいけば、政府目標である「2020年に2,000万人」は程なく達成し得るほどの勢いだ。
こうした動きに対応し、小売りやサービス業では今後、アジアの「休暇商戦」を見据えた動きが重要になる。
ここでは、最近の訪日外客事情と独自試算から、今後の小売り・サービス業に対する視座をご提供する。

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本年度の訪日外客は1,900万人まで増加も

図 訪日外客数の試算~政府目標は大幅に上回る?


注:2015年以降はみずほ総合研究所による機械的試算値であるため、結果には相当の幅をもってみる必要がある。
資料:日本政府観光局(JNTO)などより、みずほ総合研究所作成

 年初来、銀座界隈は外国人観光客で大にぎわいだ。は訪日外客の推移とその展望を示したものだ。政府は2020年を目標に訪日外客2,000万人の達成を掲げている。2013年にその水準は初めて1,000万人を超え、2014年は1,341万人と大幅に上昇した。今年2月は中国の春節(旧正月)に当たり、中国からの観光客が急増したため、単月の訪日外客数は前年同月比+57%増の139万人と過去最高を記録した。
 こうした2月の中国からの観光客の急増と、いわゆる「爆買い」は、当初一時的な現象とされたが、4月のお花見シーズン、それからタイの旧正月(ソンクラーン)に当たる4月13~15日には、タイからの観光客も増加した。2015年は昨年を大幅に上回るペースで訪日外客数が増えており、に示したように、1月から4月の前年同期比が年末まで続くとして計算すると、訪日外客数は今年1,900万人程度まで上昇し、政府目標の2,000万人は2020年を待たずに達成される可能性が高いともいえる。

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アジアの「休暇商戦」をビジネス化せよ

 従来、日本の小売業界は「ニッパチ」として2月・8月を消費が鈍る月としていた。しかし、いまやそうした「常識」が一転し、今後は春節を含め、アジアにあるさまざまな「休暇商戦」を考慮に入れたビジネスモデルが重要になるだろう。中国関係者によれば、今年は7・8月の夏休みシーズンの観光も大幅に増加する見込みだといい、10月の国慶節の休み(10月1日~7日)を日本の小売・観光業者は十分に認識しておく必要がある。
 今年4月、中国から観光客の急増で、日本各地のホテルの稼働率は上昇し、宿泊料金も上昇した。ある大手ビジネスホテルでは、毎日の需給状況で変動する宿泊料金が5万円まで上昇したことが話題になったほどである。
 また、よく知られている通り、訪日外国人の中で中国の買物代金額は1人1泊当たり約31,000円と全体平均の約13,000円に比べ突出して大きい。こうした点をよく認識した上でのマーケティング戦略も必要になってくるだろう。
 従来からの発想の転換も必要だろう。日本経済は製造業を中心とした製品輸出に依存し、非製造業では基本的に「輸出」が困難だった。一方、訪日外客の消費は非製造業分野も「輸出」が可能となることを意味している。
 観光庁の調べでは、中国人の1回の旅行における消費金額は約30万円とされる。家計調査での日本人1人当たり1年の消費金額は約120万円であることから、中国人観光客が4人来れば、人口が1人増加した効果を生む。中国人観光客の呼び込み拡大は日本の人口問題への対応につながるともいえよう。
 これだけ訪日観光客が増加し、日本の製品やサービスを体感することで、本国に戻って彼らが日本製品や日本を見直せば、さまざまな好循環が生じよう。また、中国からの観光客増加は中国政府の日本へのスタンスの改善を最も素直に示したものともいえる。日本への投資が増加するのも同様に、日本に対する「見直し」が生じているからではないか。日本人が意識する以上に海外投資家は日本を見直し始めているのではないか。

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