経済

日本経済の動向

2015~20年で「6.5兆ドル」|日本の経済成長を支える「アジアインフラ投資」

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

 高齢化や人口減少、あるいは社会保障費の増大など、日本経済の今後を語る上でのキーワードはやや悲観的なフレーズが多い。
 一方で、中期的に見ると、アジアのインフラ需要という日本にとって経済活性化につながる要素があることも事実である。
 今回は、当研究所が行った試算を基に、アジアのインフラ需要の見通しをご紹介する。

 
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3つの押し上げ要因「トリプル・プッシュ」

 みずほ総合研究所は、先般、2020年を視野に入れた『内外経済の中期見通し』を発表した。
 今回の中期見通しにおいては、2020年以降も1%台の安定的な成長が続くとしている。確かに、2020年以降の人口減少に伴う下押し圧力は大きいが、3つの押し上げ要因「トリプル・プッシュ」(バランスシート調整要因の剥落に伴う押し上げ、五輪需要、アジアのインフラを中心とした需要)での底上げに注目したことが特徴である。
 なかでも重視したのが、アジアを中心とした世界のインフラ需要であり、それが日本に寄与することである。2015年から10年にわたる世界のインフラ投資の累積額を当研究所では、これを約33兆ドル(約4,100兆円)と推計した。分野別では道路が9.6兆ドルと最大で、次いで電力7.0兆ドル、上下水道6.8兆ドル、通信5.5兆ドル、鉄道2.6兆ドル、空港1.2兆ドル、港湾0.4兆ドルと続く。さらに維持・補修など、当該推計値に織り込まれていないインフラ投資もあるので、実際の投資ニーズは33兆ドル以上になるとみている。

 
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インフラ投資需要は従来試算より大

表 アジア圏のインフラ投資必要額(2015年〜2020年、2015年〜2025年)


(資料)ADBI、IMFより、みずほ総合研究所作成

 ここで試算した世界全体のインフラ需要のなかで、大きな割合を占めるのが、アジアにおけるインフラ需要である。右表は同じく2015年から10年間のアジア圏のインフラ投資必要額を試算したものだ。この試算から得られた結果こそが、今回の中期展望で日本の成長が押し上げられるシナリオを取った背景にある。
 これによると、中期見通し期間(2015年~2020年)のインフラ投資必要額は6.5兆ドルで、10年間では14兆ドルとなる。その中では、東アジア・東南アジアの電力、道路(南アジアも)の需要が大きい。これまで一般的に用いられてきたアジアのインフラ投資額試算はADBI(アジア開発銀行研究所)によるもので、その規模は8.3兆ドル(2010年~2020年累計)とされてきた。今回の試算は、時期の差はあるものの、従来の一般的な見方を大きく上回るものである。さらに、試算には国をまたがるインフラ投資が含まれないため、金額はさらに膨らむ可能性もある。分野では電力や道路の分野が多く、地理的には東アジア・東南アジアの割合が大きい。
 以上で示した世界のインフラ需要は、世界全体の経常黒字額(=カネ余り、投資不足)と比較しても大きく、こうした規模のインフラ需要が実現すれば、世界の金融市場の資金需給を一変させる可能性がある。これは同時に、巨額なインフラ需要を実現する金融インフラも必要になることを意味し、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が脚光を浴びる背景にもなっている。
 一方で、アジアの多くの国々は財政難にあり、また、国内では厳しい銀行規制があり資金配分が効率的に行われていない。日本としては、潤沢な資金をいかにアジアの成長資金として役立てるかが今後重要になってこよう。

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