経済

日本経済の動向

世界経済減速の中、国内企業収益に10兆円以上の恩恵|日本経済を下支えする円安・原油安効果

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

世界経済の成長期待が揺らぐ中、海外売上高の減少や日本からの輸出低迷などを通じた日本企業の収益への影響が懸念されている。一方、現在の日本経済は、円安や原油安による恩恵に下支えされている。
今回は、この世界経済減速の影響とそれを打ち消す円安・原油安の恩恵、ならびに今後の経済動向の注目点について解説する。

 
1

日本企業の海外進出の加速

 グローバル化の流れのなかで、日本企業の海外進出は加速している。その結果、海外進出が拡大するにつれて、収益の海外依存度も高まっている。海外現地法人の売上高(円ベース)は2013年度に約243兆円となり、2004年度対比で49%も増加した。経常利益についても約10兆円と、2004年度対比61%増となっており、海外現地法人は日本企業にとって重要な収入源となっている(図1)。

図1 海外現地法人の売上高・経常利益の変化(全産業)


(資料) 経済産業省「海外事業活動基本調査」よりみずほ総合研究所作成

 
2

世界経済減速の影響

 製造業の現地法人売上高をみると、既に世界経済減速の影響が現れている。製造業の海外現地法人の売上高(ドルベース)は、2014年10~12月以降前年割れを続けている。2015年4~6月期は前年比▲4.9%と、リーマン・ショック以来約6年ぶりの減少幅を記録している(図2)。
 主因は、売上高の約半分を占めるアジアでのマイナス幅の拡大と、約3割を占める米国の伸び悩みにある。
 もう一つの懸念材料である輸出をみると、2015年7~9月期の輸出数量指数が2四半期連続で低下するなど、不振が続いている。当社の試算では、2015年度前半の輸出数量の減少トレンドが続くと、経常利益が前年度比6兆円押し下げられる。輸出下振れによる企業収益への影響は相応に大きいとみて良いだろう。

図2 海外現地法人の売上高の推移(製造業)


(注)  ドルベースの売上高。前年比は調査対象の入れ替えを考慮して算出されているため、実績値から求めた値とは一致しない。
(資料) 経済産業省「海外現地法人四半期調査」より、みずほ総合研究所作成

 
3

円安・原油安の恩恵

 上記のように世界経済の減速が企業業績にマイナスの影響を与える状況にあるが、円安と原油安が海外からのマイナスを上回る恩恵となり、企業収益の押し上げに寄与していることを認識する必要がある()。

表 みずほ総合研究所による円安・原油安の影響試算


(資料) みずほ総合研究所作成

 
4

追加対策が必要な局面も

 今日の日本経済は、2012年の景気後退以来の状況であり、アベノミクス始まって以来の逆風局面と考えることが出来る。ただし、3年前と大きく異なるのは、為替が円安に転換し原油が安くなっていることだ。従って、今後、海外要因によりマインドが一段と悪化する不安は続くものの、こうした不安の拡大を遮断すべく、円安を維持することが重要になる。今は日本経済がアベノミクス始まって以来の正念場にあるため、追加的な政策対応も必要になりやすい。今後、金融政策の追加策が必要になるのは、円高不安が生じたときである。また、海外要因が企業マインドに影響を与えやすいため、経済対策の実施や「アベノミクス2.0」によりマインドに影響を与えることも必要になる。日本経済は円安と原油安に下支えされているゆえ、国内に向けては賃金上昇で恩恵が及ぶことも必要だ。

 

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