経済

日本経済の動向

M&A目的の株式投資や研究開発投資の増加など|企業の投資活動の新たな流れ

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

企業の設備投資が伸び悩んでいるとの指摘があるが、GDPの設備投資統計に反映されない新たな形での投資が増えている点に注意が必要である。
すなわち、海外投資やM&Aを行う目的での株式投資、研究開発費やのれんなどの無形資産投資が増加している。
今回はこのような企業の投資活動の新たな流れについて解説する。

 
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経済統計と実感・実態のかい離

 わが国の2015年7~9月期のGDP成長率は、12月発表の改定値で年率プラス1.0%に上方修正され、2四半期連続のマイナス成長を免れた。ただし、上方修正の要因は在庫投資の修正によるもので、明るい材料とは言い難い。また最終需要に力強さが欠けている点は変わっていない。10~12月期の成長率はゼロ近傍と予想され、景気の回復感は数字に表れにくい。ただ、実際にそこまで景気が悪いという実感が世の中にはないのが実情ではないか。この背景には、過去3年で株価が倍以上になっていること、為替が超円高から50%以上もの円安になり、その結果、海外を中心に企業業績が過去最高益に近くなっていることなどがある。
 ただし、企業業績が良くても設備投資に結びついていないとされ、企業は現金を溜め込むだけとの批判がある。昨今、政府は企業に設備投資を促す新たな仕組みを作ろうとしているとされる。しかしながら、企業には慎重な姿勢が残存するものの、新たな形で企業が資金を使う兆しが生じている。問題は、この新たな設備投資がGDPの設備投資に計上されないため、企業の資金が使われ始めたことの認識が出来ない点にある。

 
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高まる企業の投資意欲

 企業による海外投資やM&Aを行う目的の株式投資はすう勢的に増加している(図1)。しかし、こうした投融資資金は原則としてGDPに計上されない。また、図2は企業の資金需要の推移を示したものであるが、ここからは、企業収益が改善してキャッシュを増加させ、その資金を投融資資金(特に株式)に回していることが読み取れる。
 さらに、最近、設備投資に関して市場参加者の実感が統計と相違している理由としては、研究開発費やのれんの増加など、無形資産投資が増加し、これが従来基準の設備投資として計上されにくいことも挙げられる。加えて、中古設備の購入やメンテナンスにより、新設設備投資が抑制されていることもある。また、基礎統計では中小企業のファイナンスリース活用投資の一部が捕捉されていない可能性もある。昨今のR&D関連投資はIT関連の割合が高いが、クラウドの活用によってIT関連投資の効率化が進み、能力対比の投資単価が減少した結果、設備投資が増えてみえないという可能性もある。
 また、先行きの不確実性が強いことで、投資に慎重な企業の姿勢が続くものの、企業業績が堅調なことから老朽化設備の更新等が再び顕現化してくる可能性もある。
 以上を踏まえれば、企業の慎重姿勢は続くものの、少しずつ資金を投資に振り向ける姿勢に転換しつつあり、われわれはこのことを重視する必要がある。

図1 企業の保有資産(有形固定資産・株式)


(注)1.対象企業は、全規模・全産業(金融・保険は除く)ベース。
   2.株式は固定資産として計上している株式。
   3.投下資本は、純資産、短期借入金、長期借入金の合計。
(資料)財務省「法人企業統計」より、みずほ総合研究所作成

 

図2 企業の資金需要の推移(後方四半期移動平均)


(注)1.後方4四半期移動平均値。全規模・全産業(金融・保険は除く)ベース。
   2.その他設備資金は、設備資金需要全体(有形固定資産の増減+減価償却費)から新設設備投資を
      引いたもの(土地の増減+土地以外の譲受振替等-土地以外の売却滅失振替等に当たる。例えば、
      中古品の購入がプラス、売却がマイナスとして表れる)。投融資資金は無形固定資産資金や投資
      その他の資産資金(株式、貸付金など)、繰延資産。その他短期資金は在庫投資や企業間信用など。
(資料) 財務省「法人企業統計」より、みずほ総合研究所作成

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