経済

日本経済の動向

小売業、宿泊・飲食サービス業で強まる人手不足感|訪日外国人需要の増加が国内雇用を創出

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

内需の低迷が続いているにもかかわらず、
小売業や宿泊・飲食サービス業といった業種で労働需給のひっ迫感が強まっている。
この背景には、訪日外国人需要(インバウンド需要)の増加がある。
今回は、このインバウンド需要増加の雇用創出効果や、今後の展望などについて解説する。

 
1

2015年のインバウンド需要増は約27万人の雇用創出

図 インバウンド消費の品目別シェア(2015年)


(注) 2015年各四半期の品目別消費額(1人当たり)に訪日外国人数を乗じることで、四半期別の各品目消費額を計算。その数値を合算した年間消費総額から品目別のシェアを算出。 (資料)日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」よりみずほ総合研究所作成

表 インバウンド需要による経済・雇用創出効果(産業連関分析)


(注) 観光庁「訪日外国人消費動向調査」の調査品目別に「購入者単価×購入率×訪日外客数」を計算し、訪日外客による品目別購入総額を算出。品目別購入総額を、各産業への新規需要として計上することで、1 次波及効果(原材料波及効果)、2 次波及効果(家計迂回効果)を試算した。 (資料)総務省「産業連関表」、「労働力調査」、日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」よりみずほ総合研究所作成

 2015年の訪日外国人数は1,974万人と前年比5割もの大幅増となり、2020年に2,000万人としていた従来の政府目標はほぼ達成された。国内景気が停滞する中、インバウンド需要の増加は、数少ないプラス要因といえる。
 2015年のインバウンド消費は前年比1.5兆円増加の3.5兆円に上った。品目別にみると、宿泊料金や飲食料費のほか、買い物代などのシェアが大きく()、とりわけ小売業や宿泊・飲食サービス業にとってインバウンド需要の増加は大きな追い風と言える。
 そこで産業連関分析を用いて、財消費や関連サービスまでも含めた、インバウンド需要の影響を試算すると、2015年のインバウンド消費による経済効果は、生産誘発効果が6.8兆円、付加価値誘発効果が3.8兆円、雇用創出効果が63万人となる()。そのうち、2014年と比較した追加的な雇用創出効果は26.7万人で、業種別にみると、恩恵を一番受けるのは小売業の12.9万人、次いで宿泊・飲食サービス業の3.9万人となる。
 また、雇用創出効果が表れるまでには一定のラグがあるため、2016年の雇用を下支えする見通しである。なお、足元ではインバウンド消費の中身に変化が生じているといわれており、持続的な雇用創出のためには、インバウンド需要の広がりにも留意する必要がある。

2

求められるサービス業の競争力強化

 インバウンド需要の取り込みによる経済成長の維持については、オーストラリアが参考となる。資源安のなか、オーストラリア経済が予想以上に底堅い成長を保つ背景には、サービス輸出が拡大し、雇用環境が改善していることがあげられる。同国の2014年の財・サービス輸出の内訳をみると、旅行サービスと専門サービスの輸出は合わせて全体の10%超に上り、天然ガスよりも高いシェアを占め、サービス業はオーストラリアの主要輸出産業となっている。
 サービス業も含めて、発展するアジアの恩恵を獲得するのが今後の日本の成長戦略であるとすれば、日本にとってオーストラリアの対応から学ぶべき点は多い。インバウンド消費は、国際収支統計上はサービス業の輸出にあたる。これまでの、サービス業は輸出できないものという発想の転換が必要になる。同時に、これまで日本では製造業による物の輸出が中心という発想であったが、こうした発想からの転換も必要だ。
 今日、日本のサービス業の生産性の低さが問題とされているが、海外に目を広げたインバウンドの影響が、こうした状況からの転換のカギを握っている。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ