経済

日本経済の動向

求められるマインドの転換|投資、賃上げを抑制する期待成長率の低下

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

企業収益が高水準にあるにもかかわらず、設備投資や賃上げの動きが鈍いものとなっている。
この背景には、企業が先行きに対する自信を持てないことがある。
この状況の打破には官民一体でマインドを改善する動きが求められよう。
そこで今回は、期待成長率と設備投資ならびに賃上げの関係などについて解説する。

 
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弱含む企業の先行き期待

図1 期待成長率の推移


(注) 期待成長率は業界需要の実質成長率(5年間)。 (資料)内閣府「企業行動に関するアンケート調査」より、みずほ総合研究所作成

図2 期待成長率と投資性向、賃上げ率


(注) 投資性向=設備投資÷キャッシュフロー、キャッシュフロー=経常利益×0.5+減価償却。     賃上げ率は主要企業の値。期待成長率は各年(度)とも前年度調査の値を表示。 (資料) 内閣府、財務省、厚生労働省資料より、みずほ総合研究所作成

 2016年2月26日に内閣府から公表された2015年度の「企業行動に関するアンケート調査」によると、今後5年間の業界需要(実質)の期待成長率は、全産業平均で0.95%と、前年調査の1.34%から大きく低下した(図1)。製造業はリーマン・ショック直後に実施された2008年度以来の、非製造業は3年ぶりの低水準となっている。日本経済は踊り場にあり、輸出・生産は上向きつつあるものの、個人消費は弱含んだままである。このため、企業は先行きに対する自信を持てず、それが期待成長率の低下に表れているといえよう。そして、期待成長率と投資性向、賃上げ率の動きをみると、両者がパラレルに推移していることから、企業による投資や賃上げが、フォワード・ルッキングな意思決定に基づいていることが示唆される(図2)。
 今日、企業収益が最高益の水準にもかかわらず投資が盛り上がらず、また、雇用環境が1990年代の水準まで戻っているにもかかわらず賃金上昇が思うようにならない。このような「謎」を解く鍵は、期待成長率が盛り上がらない点に帰着する。アベノミクスで期待成長率は一定水準まで高まったものの、2000年代半ばの景気回復期の水準にまでは戻らなかった。しかも、バブル崩壊以降の長期的な低下傾向からも完全に脱してはいないように見える。

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官民一体となったマインド転換の
取り組みを

 今後を展望すれば、海外環境が不透明な中、期待成長率が大幅に高まると考えるのは非現実的だ。一方でもう一段の下方屈折を避けることが重要であろう。今日の異例なマイナス金利の背景には、自然利子率の低下という現実がある。こうした傾向は日本に限らず、世界的な傾向でもある。しかも、日本は、期待形成が適応的期待(adaptive expectation)となっており、バブル崩壊後の長い履歴に影響を受けやすく、一旦、期待が落ち込んだ状況からの蘇生は容易でない。こうした状況はデフレ均衡からの脱出と類似した側面もある。
 バブル崩壊後の縮小均衡、企業のリストラモードの中、企業行動のあり方、先行き期待の低下が定着してしまった状況を元に戻すには、外部からの大きな圧力を人為的に加え、「意識」を転換させるしかない。インフレへの対処とデフレへの対処には非対称性がある。デフレマインド(リストラマインド)転換には、政府と民間が一体となって、敢えてマインドの転換を促すような「劇薬」がないと、なかなか実現できない。期待成長率の一段の下方屈折を避けながら、マインドが改善するモーメンタムを、政府・日銀・民間一体で押し上げる機会を探すことが課題といえよう。

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