京都府立宮津高等学校建築科
建築科長
小谷 保雄 先生
昨年12月、国土交通省と建設産業人材確保・育成推進協議会主催の『高校生の作文コンクール~「建設業の未来」を担う高校生の君たちへ~』において、京都府立宮津高等学校建築科1年生・黒田佳奈さんが『国土交通大臣賞』を受賞しました。
同校では、小型ハウス「ままごとハウス」や木製ベンチといった木製作品を、府の公共施設や被災地に寄贈してきました。学校と地域が連携し、地域貢献に直結した実践的な授業が評判を呼び、各所から集まった生徒たちが意欲的に授業に取り組んでいます。そこで、建築科長・小谷保雄さんと生徒の皆さんにお話を伺いました。
間仕切りパネル[2011年]
避難所生活でのプライバシーを守るために製作。福島県へ届けた。
木製ベンチ[2012年]
北近畿タンゴ鉄道宮津駅に寄贈。
寒い季節にも木の温もりが伝わる。
製作中のパーゴラ[2013年]
丹後あじわいの郷からの要望で、腐食の進んだパーゴラの建て替えを行った。
「誰かのために」と思えば、意識と姿勢が変わる
2011年に東日本大震災が発生しました。福島県郡山市では今も原発事故による放射線の影響で外遊びの時間が制限されていると聞きます。ままならない日常を送っている子供たちを思うと、私もとても苦しく、胸が痛みました。「少しでも子供たちが楽しい時間を過ごせるように、『ままごとハウス』を届けたい」と考えて、2012年、京都府を通して福島県に提供を申し出ました。同年8月、私たちが作った「ままごとハウス」を郡山市の幼稚園へ届けることになったのです。
以前より地元の幼稚園には「ままごとハウス」を寄贈し、その際は完成品を届けていたのですが、郡山市へは屋内に設置する都合上ばらして届けることになりました。トラックが幼稚園に到着し、当校の生徒たちが園児の目の前で組み立ててみせると、園児からは「お兄さん、お姉さん頑張れ!」と大きな歓声が上がり、それはまるで真夏の太陽にも似た、まぶしいほどの笑顔で力いっぱい応援してくれるのです。声援を背にして、組み立てる生徒の腕にも力が入ります。目の前の子供たちのために頑張るのです。初めて「誰かのためにものをつくる」という意識が芽生え、生徒たちはみるみるうちに姿勢が変わっていきました。
ボランティアの本質が分かったような気がした
「ままごとハウス」の被災地への寄贈は、新聞でもずいぶん取り上げられました。記事を見た幼稚園から「うちにもぜひ欲しい!」と、合わせて15棟のご要望をいただいたんです。去年、一昨年と合わせて7棟、郡山市の幼稚園に寄贈しました。残すは8棟。震災以前は年に1~2棟、期間にしておよそ1年を製作に費やしていましたが、一刻も早く子供たちに届けてあげたいので、今ではその半分の期間で倍ほどの数を製作しています。スケジュールが非常にタイトなので、生徒もみんな忙しく、放課後や夏休みを利用して作業する場合もあります。それでもみんなとても楽しそうに取り組んでいます。やはり「待っている人がいる」ことが生徒をつき動かすのだと思います。「期日までに間に合わせなければ」と思うようになり、時間や工程管理的な意識もだんだん身に付いてきました。なかにはリーダーシップが芽生えてきた生徒もいて、その子がまた一生懸命作るんですね。するとその姿を見た別の生徒が「自分も頑張らないと」と思うようになり、結果、みんなの士気が上がるんです。同じ「ものづくり」にしても、待っている人がいるのと、単なる授業の課題として作るのとでは、学ぶ姿勢がまったく違うんです。
寄贈先の幼稚園の先生から、「ままごとハウス」のその後の様子を伺いました。砂場の横に設置した幼稚園では、カップに砂を入れて「レストラン屋さんごっこ」が流行っているそうで、また別の幼稚園では、柱から柱へロープを渡し、そこへ洗濯物をかけて干す「洗濯ごっこ」が流行っているとか。バザーで食券売り場として活用するといったお話も伺いました。遊び方は無限。思い思いに活用していただいてうれしい限りです。
「ままごとハウス」を届けて程なくしてお礼の手紙やイラストが届きました。なんだか思いが込み上げてきて、「ボランティアってこういうことなんだな」とボランティアの本質が分かったような気がします。
地域が生徒に勉強の場を与えて
当校建築科では、これまでにもバス停や間仕切りパネルを始めとした数多くの木製作品を手がけ、公共の施設などに寄贈してきました。私たちの活動を気にかけてくださる方も多くて、新聞記事などから当校の取り組みを知った地域の方が「こういうものを作ってほしい」と言って、生徒に製作の場を設けてくださるのです。そのときに必要な資材は、発注者や、生徒の頑張りを応援したいという府や市の方で出していただいています。言ってみれば、地域が生徒に勉強の場を与えているようなもの。地域全体で生徒を育てているんです。