技能振興部長 奥村 伸人 氏
昨年11月28日(金)~12月1日(月)に「第52回技能五輪全国大会(あいち大会)」が開催され、ものづくりを中心とする全41職種に、23歳以下の若手技能者約1,200人が参加し、熱戦を繰り広げました。主催団体の中央職業能力開発協会・技能振興部長の奥村伸人氏に、大会総評と、技能向上に関するお話を伺いました。
昨年末の技能五輪全国大会 来場者22万人と史上最高
――ものづくりに携わっている人たちに向けた技能競技大会について教えてください。
第52回技能五輪全国大会「建築大工」部門表彰の様子(2014年開催)。優勝した㈱大沼建築の若林信さんは今年技能五輪国際大会へ出場予定
当協会が厚生労働省と共催する技能競技大会は、3つあります。20歳以下の学生らを対象にしている「若年者ものづくり競技大会」、23歳以下の「技能五輪全国大会」、年齢オープンの「技能グランプリ」です。さらに技能五輪全国大会の優勝者等から選抜され出場する「技能五輪国際大会」は、ワールドスキルズインターナショナルという国際組織が主催しており、当協会がその会員組織として日本代表選手を派遣しています。以上4つの大会は、技能のスキルアップ、技能労働者の地位の向上、さらにはものづくり技能の素晴らしさ・重要性について多くの方々への認知拡大などを目的としています。また、技能者にとってこれらの大会に出場し、より良い成績を取りたいという目標を持つことは、仕事に対するモチベーションの面でも大きな意義になると考えています。
――技能継承にも役立っていますね。
ええ、大会に出場する選手を育てるために会社を挙げてサポートしますし、何年もかけて上位入賞を狙うという会社もあります。例年大会に技能者を出場させるような会社は、かつての選手が新しい選手を育てるために指導者になるという循環ができています。人に教えるということは、指導者自身を最も大きく成長させますし、技能継承もうまくいっていると思います。
――今回の技能五輪全国大会はいかがでしたか。
開催地の愛知県は、トヨタ自動車を始め全国有数の製造業が盛んな土地柄です。そうした環境もあって、出場者は1,200人と過去最高を記録しました。例年の大会は各部門の会場を1~2カ所に集中させて開催しますが、今回は愛知県内の8つの市、13会場に分散させました。開催前は観覧者の集客に不利になるかと危惧しましたが、各自治体を巻き込んだ愛知県の作戦が功を奏し、小学校がバスを仕立てて見学に来るなど、連日各会場ともに熱気に包まれました。
――子どもたちにとっては、ものづくりの現場に直接触れることができて、得難い経験だったでしょうね。
ええ、最高の経験になったと思います。子どもの保護者が製造業に携わっているケースも珍しくなく、「お父さん・お母さんはこんな仕事をしているのか!」と初めて知った子どもも多かったはずです。各市での盛り上がりもあって、結果的に来場者数約22万人(出店等の併催イベント含む)という、史上最高の記録を樹立しました。
Q. 所属の企業、学校の入社・入学時における参加職種に関わる知識・技能の有無
「知識、技能をほとんど有していなかった」の回答が過半数(56%)を占め、次いで「基礎的な知識、技能を有していた」が3割強(38%)となっている。技能五輪で通用する技能の習得は、入社・入学してからが大半であることがわかる。
Q. 優勝選手は所属の企業、学校に入社・入学して何年目か
優勝選手の53%が「2年目」という回答は注目に値する。つまり、1 回目もしくは2回目の技能五輪挑戦で、半数が金賞を獲得していることになる。次いで多いのが「4年目」(22%)で、これは十分な訓練の積み重ねの成果であると言える。
負担も大きいが得るものも大きい
――技能五輪出場に際し、会社の負担はどれくらいでしょう。
これはケース・バイ・ケースですね。ただ工業系の職種の場合、通常の仕事を続けながらトレーニングをしていてはメダルは獲得できません。技能五輪の競技課題に合わせたトレーニングが欠かせないので、相応の負担は必要です。
――お金もかかりますか。
技能五輪国際大会への出場を目指して全国大会に参加している企業の場合、選手に選ばれた若者は、会社の仕事から外れて、数年間技能五輪のためだけに訓練するそうです。専門の指導者も付くので、人件費だけで大きな金額になります。でも、その企業が金メダルを取れば技術力の高さの象徴になりますし、メディアにも取り上げられ個々の社員の誇りにもなるでしょう。相当な負担でしょうが、競技会に参加すること自体が会社全体の技能レベルの引き上げになっており、得るものも大きいと思います。
――全国大会常連の会社はそこにメリットを感じているんですね。
かつて上位入賞常連だった会社が「自社内で技能大会をやるから」等の理由で10年以上不参加だったことがあります。しかし、長いブランクの後に社内から「卓越した技能者の育成のためには、技能五輪に参加する必要があるのではないか?」という声が上がり再挑戦していただいている事例があります。他社の技能を見ることで、自身の技能レベルを知ることができるのだろうと思います。このようにより多くの企業や学校から、技能競技大会を技能者育成の目標・ツールとして活用していただくことが、主催者として嬉しく思うところです。
離職防止に効果大
――社内に人材育成システムを持っていない中小企業も多いと思います。そんな会社がスキルアップを図るにはどうしたらいいとお考えですか。
厚生労働省の技能検定を受験してみることをお勧めします。3級、2級、1級、特級と徐々にステップアップしていく、それを目指すことで仕事に対するモチベーションも違ってくると思います。
――技能五輪に出場するという目標、あるいは上位入賞を狙うための努力というのは、離職防止に効果があるのでしょうか。
技能競技大会に参加するには、社内の教育訓練が充実している必要があり、技能者を大事にしていることの証しですので、全体的に離職率は低いと思います。今回出場企業の担当者にも話を伺いましたが、離職率は低いようです。
――建設業界では離職率の高さがよく話題に上ります。
離職率が高い会社は「どうせ辞めるから」と人材教育に注力しない空気になり、次第に社員の技能レベルが下がります。この悪循環を何とかしないといけない。その意味では、若い人にキャリアパスを提示してあげることも大切だと思います。「○○の資格が取得できれば○○職になれるよ」と、具体的な道筋を見せてあげる。身近に目標ができれば、もう少し頑張ってみようかという気持ちになりますから。
――目標は大事ですね。
目標の話に関連しますが、技能五輪全国大会の各競技の優勝者は、今年8月にブラジル・サンパウロで開かれる第43回技能五輪国際大会の日本代表になります。建築大工の部門では、山形県寒河江市の㈱大沼建築・若林信さんが金メダルを獲得し、国際大会への出場を決めました。同社は7年目の挑戦で栄光に輝きました。国際大会で優勝できれば「世界一の大工」の称号が得られるわけで、大きな目標になるでしょう。皆さんもぜひチャレンジしてほしいですね。