人材確保・育成

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「女性活躍から考える担い手確保セミナー」開催|働きたいと思える建設業へ 女性の活躍から建設業の未来を考える

主催:日本工業経済新聞社

 なぜ今、女性の活躍が求められるのでしょうか。建設業で働きたい女性の本音はどこにあるのでしょうか。また、女性採用に取り組むと建設業にとってどんなメリットがあるのでしょうか......。その現状と課題を探るとともに、女性活躍の具体策から建設業の未来を考えることを目的に、5月15日、機械振興会館(東京都港区)において、「女性活躍から考える担い手確保セミナー」(主催・日本工業経済新聞社)が開催されました。

 
 第1部
 講演
 



 基調講演 女性が働きやすい環境づくり 特に長時間労働の改善が必要

 厚生労働省 雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課長 小林 洋子
 
 

 厚生労働省に入省して27年になります。これほど女性の活躍推進への追い風が強いのは初めてではないでしょうか。その背景には労働人口の減少があります。2060年には高齢者人口4割、労働人口5割になると言われ、年々労働人口が減少していく中で、安倍総理は、アベノミクスの3本目の矢「成長戦略」の中核に「女性の活躍」を掲げました。
 少子化が進む中、なぜ女性の雇用を推進するのか。女性が働きに出ると子供を産めなくなると思われますが、そうではありません。日本では夫が家事・育児に関わる時間は国際的に見ても低水準ですが、夫が家庭に関わる時間が長いほど、女性の継続就業の割合と出生割合は高い傾向にあります。政策次第では両方を上げることができるのです。
 女性が出産時に離職する理由の1つに労働時間が挙げられます。長時間労働が家庭との両立のネックになっているのです。海外と比較しても時間当たりの生産性が高いとは言えません。今後は高齢化が進み、介護の問題も出てきます。制約のある労働時間の中で、生産性を高めるような働き方を考える必要に迫られているのです。
 建設業界では、依然女性の採用に消極的な企業もありますが、女性が育児休業を取得しやすく、仕事のやりがいが高い職場では、継続就業率が上昇しています。女性だけではなく、男性も含めた担い手の確保に直結する職場改革を、各企業が真剣に考える必要があります。今後も民間企業と力を合わせ政策を推進させる所存です。

 


 特別講演 なにより、自身が認められ、成長を実感できる環境づくりが重要

 会社の現場監督合同会社代表 市場 真理子
 
 

 私は中小企業の現場改善のコンサルティングをしています。若くして起業したため、当初はコンサルタントというより現場に入り込みやすい「現場監督」という肩書きを考え、仕事をしてきました。これまで見てきた業種について、今日はその一端を紹介したいと思います。
 女性が活躍できる環境づくりが推進される中、「本当に女性が必要なの?」という声も多く聞きます。結婚、出産で辞めてしまう、女性用の設備投資が必要など、多くの課題が懸念されているようです。では、建設業における女性起用のメリットとは一体なんでしょうか。「能力にムラがなく優秀な働き手が多い」「気配りができ、会話力がある」「コミュニケーション能力に長けている」「現場の雰囲気が明るくなる」「柔らかい対応で、お客様からの反応が良い」などが挙げられます。実際、私もマンションの改装工事の際にベランダに男性職人が来ると緊張をしましたが、女性職人の日は安心感がありました。お客様との対話もクレームになりにくいと聞いています。女性は高い潜在的な労働力を多く持っているのです。
 私のクライアントで、魚市場にある会社があります。現在、接客を向上するためのコンサルティングを行っていますが、従業員の皆さんは休日を返上して熱心に改善に取り組んでくださっています。魚市場といえば、場外なので冬は寒く、夏は暑い。朝3時始業で拘束時間も長い、決して良い環境とはいえません。しかし、この会社では若手が定着し、女性の就職も増えています。理由は、会社が出資して教育の場を与えるなど、自身が認められ、成長を実感できる場があることです。これは、働く人のやりがいになる要因を実験した結果でも実証されている、社員が定着し成長する重要なポイントです。
 「女性が働きやすい職場とは」と尋ねると、女性専用の設備や制度面を挙げる人が大半です。しかし、それ以上に「自分が認められること」「成長を実感できること」という条件があれば会社に定着するものです。承認や成長を実感できる仕組み作りが大切です。これは、建設業で長く生き残っている会社で当たり前のこととして取り組まれていることです。

 
 第2部
 パネルディスカッション
 



 女性が働きやすい職場づくりは業界全体に課せられた責務

コーディネーター 内田 俊一 (一財)建設業振興基金 理事長
パネリスト 小林 洋子 (前出)
  市場 真理子 (前出)
左近 雅美 千葉住設㈱ 専務取締役
谷川 峰子 ㈱松尾工務店 鉄筋工事部 責任者
井上 千鶴 ㈱松尾工務店 積算部


 
女性というハンデをどうやって跳ね返したのか

セミナーには男性も多く参加した

内田 最近の建設業経営者の中には、真剣に女性の活躍について考える人も少なくありません。しかし、その半面、「どうしたらいいか分からない」「本当に大丈夫なのか」といった声もあります。最大のバリアは、男性の心の中にあるのかもしれません。ここでは「女性活躍に向けた課題と具体的対策」について、皆さんと考えてみたいと思います。
 谷川さんは、建設現場での経験も長く、事業主としても活躍されていますが、克服しなければならないことも多かったのではないでしょうか。
谷川 私は30年前に鉄筋工事会社に事務員として入社し、現在は工事部の責任者です。女性でも続けられますし、責任も大きかった。それが私のやりがいにも直結したと思います。職人さんの多い職場ですから、最初はなかなか受け入れてもらえなかった。「ネコの手でも借りたい」という声に積極的に手を挙げ、「意外と役に立つじゃないか」と顔も覚えてもらう。力仕事は男性に負けますが、大きな声で挨拶するなどしてハンデを克服しました。社長も多くのことにチャレンジさせてくれました。
井上 私の場合、施主や協力業者との交渉で「女か? 本当に大丈夫か?」という目で見られたことも多かったですね。信頼を得るには時間がかかりますが、その都度きちんと話すことが大切です。
左近 私が設備業界に入ったのは8年前ですが、新築工事の申請で役所に書類や図面を提出するとき、担当者が不安そうな表情をしたんです。それで、もっと顔を売ろうと毎日役所に顔を出して笑顔で挨拶して回りました。すると3週間目くらいには役所の担当者にも覚えてもらい対応が変わってきました。現場の職人さんとの距離も、挨拶と笑顔の持つパワーで縮められると思います。

男性が意識すべきは「女性の話をしっかり聞く」こと

内田 小林さん、女性にとっての公務員の仕事環境はどうでしょう。
小林 私が入省した当時は、女性は関係者と交渉をする仕事などが得意でないとされ、重要業務が任されないことも多い状況でした。重要案件には関われませんから、評価を得ることもままなりません。でも、2000年くらいから風向きが変わり、女性を排除したら仕事が回らないような世の中の風潮になってきたんです。
内田 左近さんは、女性社員の能力を引き出すためにどんな工夫をしていますか?
左近 どんなに小さなことでも、やりがいを見つけてあげる。育休後の女性はさまざまな不安を抱えています。中には、仕事にやりがいを見つけられない人もいます。そういう人には「笑顔で挨拶しましょう!」とアドバイスしています。小さなことでもやりがいにつながるのです。
市場 職場コミュニケーションの改善セミナー『もて男講座』はとても評判が良いですよ。大半の女性は話すのが大好き。男性が女性と話すときは、まず相手の話を聞くことを意識するのがポイントです。


小林氏


市場氏


左近氏


谷川氏


井上氏

仕事にやりがいを感じられるか そこが一番の課題ではないか

小林 部下に期待を伝えることも大事。私は他の省庁に出向くこともあり、さまざまな女性職員と会話を交わします。「あなたにこれをやってほしい」と、こちらが求める役割を明確にしてあげることが、その人のやる気につながります。
井上 どうしても仕事を休めないときに、今子供が熱を出したらという不安は常にあります。今は両親、主人のサポートがありますが、こういった支えがなかったらと思うと心配になりますね。子育ては、女性だけでなく、社会の役割という柔軟な考えが認識されるようになれば変わってくると思います。
内田 女性が建設業界で活躍するには、いろいろな困難があることは事実です。でも、それを乗り越えていくのは、結局、その仕事にやりがいがあるかどうかが重要だと感じました。女性、若者を含む全ての労働者が「自分の一生を託したい」と思える職場づくりが、建設業界全体に課せられた責務だと思います。本日は長時間、ありがとうございました。

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