国土交通省が2016年度から導入した「i-Construction(アイコンストラクション)」は今後、工事現場の外観も大きく変えていく可能性がある。その特徴は、従来の図面に代わり、パソコン上に構造物の3次元モデルを作り、そのデータを活用して設計や施工、維持管理を大幅に効率化することにより、生産性向上を実現できることだ。海外情勢も踏まえて、未来の工事現場はどうなるのかを占ってみよう。
建設ITジャーナリスト 家入 龍太(いえいり りょうた)
BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける日本でただ1人の建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」で、建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。関西大学非常勤講師として「ベンチャービジネス論」の講義も担当している。
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i-Constructionとは何か
建設現場にパソコンやインターネット、デジタルカメラなどのICT(情報通信技術)機器が導入されて久しいが、屋外の現場で作業員が鉄筋や型枠を組んだり、バックホーで土を掘削したりする風景を見ると、1964年の東京オリンピック時代とあまり大差は感じられない。
事実、土工やコンクリート工は過去30年間、ほとんど生産性が伸びていない。国土交通省のデータで1984年と2012年を比較すると、1,000㎡の盛り土法面整形工を行うのに、作業員数は16人から13人に減っただけだ。また、コンクリートポンプ車でコンクリートを100㎥打設するのに要する作業員数は12人から11人と、わずか1人しか減っていないのだ。
しかし、国土交通省が2016年度から導入した「i-Construction」(以下、i-Con:アイコン)によって、工事現場は見えないところから少しずつ、変わり始めている。そのうち、工事現場の外観も大きく変わっていくだろう。
土工、コンクリート工、施工時期の平準化
国土交通省は、3Dマシンコントロールなどを使った情報化施工や、構造物の3次元モデルを使って設計・施工を行うCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)、ドローン(無人機)やロボットを使った構造物の点検・補修など、様々なICT関連の技術の導入や開発を進めてきた。
これらは、建設プロセスの設計、施工、維持管理のそれぞれの段階で技術開発や実用化が行われてきた。
一方、i-Conとは、これまでに実績を上げてきたICT活用を、設計から施工、完成検査へと"一気通貫"でまとめることで、3次元モデルなどのデータをスムーズに連携させて、建設プロセス全体の効率化と生産性向上を実現するための取り組みなのだ。
石井啓一国土交通大臣は、2015年11月24日の記者会見で「全体として技能労働者1人当たりの生産性について、将来的に5割向上の可能性がある」と語った。
また、2016年9月12日に開催された未来投資会議で、安倍晋三総理は「建設現場の生産性革命」について「建設現場の生産性を2025年までに20%向上させることを目指す。そのために3年以内に橋やトンネル、ダムなどの公共工事の現場で測量にドローンなどを導入し、施工、検査に至る建設プロセス全体を3次元データでつなぐ新たな建設手法を導入する」と語った。
i-Conでは「トップランナー施策」としてまず、過去30年間、生産性があまり改善されていない土工とコンクリート工をターゲットとして生産性向上を狙う。
土工では測量から設計、施工計画、施工、そして完成検査という業務の流れにICTを全面的に活用した「ICT土工」を推進する。コンクリート工は規格の標準化などを行い、全体最適の導入を目指す。そして施工時期の平準化によって、効率的に行うことを目指している。
これに伴い、「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」や「ICT活用工事積算要領」など、調査・測量から設計、施工、検査、積算基準までをカバーする16もの新基準が導入された。
ICT土工のイメージとは
例えば、測量ではドローンによる空撮写真をもとに、短時間で高密度な地形の3次元測量を行う。
地形の3Dデータは設計や施工計画に引き継がれ、現況地形と設計図面を3Dモデルによって比較し、切り土量や盛り土量を自動算出する。
そして施工では、3Dマシンコントロールや3Dマシンガイダンスなどの制御機能を搭載したICT建設機械を3次元設計データで自動制御して施工を効率化する。
最後の検査でもドローンによる空撮写真などを使った3次元測量で検査を行い、出来形書類をなくし、検査項目を半減させる。
プレハブ工法でコンクリート工を効率化
コンクリート工はいまだに現場で鉄筋や型枠を組み、ポンプ車やバイブレーターを使ってコンクリートを打設する従来からの工法が幅を利かせている。
i-Conでは、鉄筋のプレハブ化や型枠、部材のプレキャスト化を大幅に導入することで、省力化や工期短縮を狙う。
例えば、型枠自体が建物や構造物の一部となる「打ち込み型枠」の内部に鉄筋かごを装着した部材を工場生産することで、現場作業を大幅に減らすのだ。現場では搬入された打ち込み型枠を積み重ね、中詰めコンクリートを打設するだけだ。
鉄筋や型枠を組み立てる高所作業がなくなり、コンクリート打設後の脱型作業も不要となるので、安全性の向上や廃材の発生防止効果も期待できる。
また、ラーメン構造の高架橋などでは、各部材の規格やサイズを統一し、定型部材を組み合わせて施工する工法も導入されそうだ。これにより設計や施工は打ち込み型枠よりもさらに単純化できるだろう。
3次元モデルの導入がi-Conを可能に
これまで、パソコンやインターネット、電子入札、CADなどのICTツールが建設業に導入されてきたが、今なぜ、i-Conが始まったのだろうか。それは測量、設計、施工の各建設フェーズで、3次元モデルを扱えるツールが普及してきたからだ。
従来の2次元図面ベースの設計・施工では、現況地形や既設建物や構造物などを完全に表現することが難しかった。設計も施工時に部材同士の干渉が発生したときに、現場で修正する必要があった。そこで「現場合わせ」に柔軟に対応しやすい従来の工法がいまだに幅を利かしていたのだ。
しかし、ドローンや3Dレーザースキャナーなどによる3次元測量や、CIMソフトなどの3次元ベースの測量・設計ツールを使うと、現場の地形や仮設、構造物の隅々までを精度よくパソコン上で表現できる。そのため、施工時に発生する様々な問題も現場合わせに頼らず、パソコン上でかなりのことを検討し、解決できるようになった。
その結果、問題ないことが確認された構造物の3次元データを使ってICT建機での施工や、プレキャスト部材の工場生産、出来形管理などを効率的に手戻りなく進めることが可能になった。
i-Conは、3次元モデルならではの強みを建設現場に持ち込み、生産プロセスを抜本的に変える取り組みなのだ。