手順1
現場をパソコンに取り込む
筆者は現場や構造物とそっくり同じようなCIMモデルを作ることを「情物一致」と呼んでいる。「情」とは情報(CIMモデル)、「物」は実物(構造物や現場)を意味する。情物一致によって、実物の代わりにCIMモデルを使って、パソコンの力を借りながら様々な仕事ができるのだ。
i-Conによって全国の工事現場で幅広く使われるようになったドローン(UAV、無人機)は、土工現場の「情物一致」の第1段階である実物をデジタルデータ化するのに欠かせない道具になっている。
ドローンから空撮した数百枚の写真をパソコンで処理すると、航空測量と同じような原理で地表面の形をCIMモデルで表現することができる。
前の月に撮った写真と、今月撮った写真でCIMモデルを作り、比較すると前月より盛り上がった部分は盛り土、下がった部分は切り土としてパソコンが認識し、それぞれの体積を自動計算してくれる。
これまでは、実物の現場をかけずり回って「点」と「線」で測量した結果から、苦労して土量計算していたが、ドローンで現場をCIMモデル化するとパソコンにこうした大変な作業を任せることができるのだ。
手順2
パソコン上での様々な検討
現場や構造物をCIMモデルとして、コンピューター上で再現できると、「情物一致」の第2段階としてCIMモデルを実物の代わりにして、様々なシミュレーションが行える。
例えば、工事の手順を検討する場合は、CIMモデルで表した現場に建設機械や構造物の部材を置いて、建機が現場に入れるか、クレーンのブームが構造物と干渉しないかといったことを、模型を動かすような感覚でシミュレーションできる。
また、「情物一致」はこれからできる物に対しても有効だ。例えば鉄筋コンクリートの橋桁を施工するとき、紙図面による設計では複雑に入り組んだ鉄筋やPC鋼線の干渉部分を完全に把握することが困難だった。
こうした構造物もCIMモデルで設計すると、ソフト内蔵の「干渉チェック」という機能で、部材同士が3次元的にぶつかっている部分を自動的に検索し、見つけてくれる。太い鉄筋は現場で曲げ直すのは難しい。あらかじめCIMモデル上で事前にこうした失敗を検出し、設計を修正できるおかげで、現場では手戻りがなくて済むのだ。
手順3
CIMモデルを構造物として実現する
様々な検討を行い、ベストの結果を集約したCIMモデルという情報は、「情物一致」の第3段階として、現場で構造物として実際に作られることになる。
ここで最近、注目されているのがICT建機だ。といっても、土木工事の現場では情報化施工のツールとして使われてきた3Dマシンコントロールや3Dマシンガイダンスのシステムを搭載したブルドーザーやバックホー、ロードローラーなどの重機だ。
従来は紙図面の縦断図や横断図から施工用のデータを手作りしていたが、i-Con時代のICT建機は、CIMモデルのデータを引き継ぎ、現場で実物として実現するマシンという位置付けに変わってきた。
いわば、"地球用の3Dプリンター"のようなものだ。例えば、道路の盛り土や切り土をCIMモデルで設計すると、ICTブルドーザーがその形通りに盛り土や切り土を作ってくれるのだ。
製造業に比べて建設業の生産性が低いのは、前者が同じ物を何万個も大量生産するのに対し、建設業は一品生産だから、という説明がこれまで多く行われてきたように思う。これまでは確かにその通りだったが、今や情物一致が行えるCIMモデル内で試行錯誤や失敗が行える時代になった。
一品生産でありながらも、パソコンの中で何回も施工を繰り返すことによって、大量生産の製造業と同様に生産性を高めることは、不可能ではなくなってきた。