企業経営改善

3. i-Conの効果は「実物」と「情報」の一致にあり

建設ITジャーナリスト 家入 龍太

 
 3
 i-Conの効果は「実物」と「情報」の一致にあり

 
 
情物一致こそ、生産性向上の要
CIMモデルにより、建設業は製造業と同じような生産性向上が期待できる

 i-Conの効果には、いろいろなものがあるが、代表的なものを挙げると次のようになるだろう。

 (1)‌着工前に現場や構造物の姿を3Dモデルによってリアルに見られる  (2)‌3Dモデルで工事の試行錯誤を行うことにより、現場での手戻りをなくせる  (3)‌「現場合わせ」を少なくし、工場でのプレハブ化がしやすい  (4)‌インターネットで3Dモデルを共有し、場所を問わずに仕事ができる  (5)‌コンピューターによる自動化により、省力化が実現できる
 これら以外にも、i-Conの効果はいろいろあるだろう。では、i-Conによる生産性向上のポイントはどこにあるのだろうか。
 それは、現場や構造物とそっくりそのままパソコンが理解できる3Dのデジタルデータ(CIMモデル)として表現し、様々な設計や検討、シミュレーションをパソコン上で行うことにある。これまで現場で資材や人工を使って行ってきた試行錯誤や手戻りなどの失敗も、極力、パソコン上で行い、うまくいった設計や手順を現場で実行するのだ。
 つまり、現場→CIMモデル→現場という流れを作ることで、パソコンの力を借りて現場の様々な課題を、効率的に解決し、生産性向上を実現するわけだ。
 この「CIMモデル」という言葉だが、3Dモデルの中に構造物の材質や仕様などのデータベースを入れ込んだものなので、ややこしく思う人は「CIMモデル」を「3Dモデル」と読み替えてほしい。
 現場や構造物がCIMモデルというデジタルデータになることで、パソコンはその形や材質、構造などをかなり理解できるようになる。その結果、人間に代わってパソコンが設計や施工、維持管理などの業務を手伝ってくれるようになるのだ。

手順1
現場をパソコンに取り込む

 筆者は現場や構造物とそっくり同じようなCIMモデルを作ることを「情物一致」と呼んでいる。「情」とは情報(CIMモデル)、「物」は実物(構造物や現場)を意味する。情物一致によって、実物の代わりにCIMモデルを使って、パソコンの力を借りながら様々な仕事ができるのだ。
 i-Conによって全国の工事現場で幅広く使われるようになったドローン(UAV、無人機)は、土工現場の「情物一致」の第1段階である実物をデジタルデータ化するのに欠かせない道具になっている。
 ドローンから空撮した数百枚の写真をパソコンで処理すると、航空測量と同じような原理で地表面の形をCIMモデルで表現することができる。
 前の月に撮った写真と、今月撮った写真でCIMモデルを作り、比較すると前月より盛り上がった部分は盛り土、下がった部分は切り土としてパソコンが認識し、それぞれの体積を自動計算してくれる。
これまでは、実物の現場をかけずり回って「点」と「線」で測量した結果から、苦労して土量計算していたが、ドローンで現場をCIMモデル化するとパソコンにこうした大変な作業を任せることができるのだ。

手順2
パソコン上での様々な検討

 現場や構造物をCIMモデルとして、コンピューター上で再現できると、「情物一致」の第2段階としてCIMモデルを実物の代わりにして、様々なシミュレーションが行える。
 例えば、工事の手順を検討する場合は、CIMモデルで表した現場に建設機械や構造物の部材を置いて、建機が現場に入れるか、クレーンのブームが構造物と干渉しないかといったことを、模型を動かすような感覚でシミュレーションできる。
 また、「情物一致」はこれからできる物に対しても有効だ。例えば鉄筋コンクリートの橋桁を施工するとき、紙図面による設計では複雑に入り組んだ鉄筋やPC鋼線の干渉部分を完全に把握することが困難だった。
 こうした構造物もCIMモデルで設計すると、ソフト内蔵の「干渉チェック」という機能で、部材同士が3次元的にぶつかっている部分を自動的に検索し、見つけてくれる。太い鉄筋は現場で曲げ直すのは難しい。あらかじめCIMモデル上で事前にこうした失敗を検出し、設計を修正できるおかげで、現場では手戻りがなくて済むのだ。

手順3
CIMモデルを構造物として実現する

 様々な検討を行い、ベストの結果を集約したCIMモデルという情報は、「情物一致」の第3段階として、現場で構造物として実際に作られることになる。
 ここで最近、注目されているのがICT建機だ。といっても、土木工事の現場では情報化施工のツールとして使われてきた3Dマシンコントロールや3Dマシンガイダンスのシステムを搭載したブルドーザーやバックホー、ロードローラーなどの重機だ。
 従来は紙図面の縦断図や横断図から施工用のデータを手作りしていたが、i-Con時代のICT建機は、CIMモデルのデータを引き継ぎ、現場で実物として実現するマシンという位置付けに変わってきた。
 いわば、"地球用の3Dプリンター"のようなものだ。例えば、道路の盛り土や切り土をCIMモデルで設計すると、ICTブルドーザーがその形通りに盛り土や切り土を作ってくれるのだ。
 製造業に比べて建設業の生産性が低いのは、前者が同じ物を何万個も大量生産するのに対し、建設業は一品生産だから、という説明がこれまで多く行われてきたように思う。これまでは確かにその通りだったが、今や情物一致が行えるCIMモデル内で試行錯誤や失敗が行える時代になった。
 一品生産でありながらも、パソコンの中で何回も施工を繰り返すことによって、大量生産の製造業と同様に生産性を高めることは、不可能ではなくなってきた。

 
 

 

ページトップ

最新記事

  • 5. 未来のi-Conを占う

    5. 未来のi-Conを占う

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    当面のi-Conでは、トップランナー施策として上げられたICT土工やコンクリート工、施工時期の平準化に主眼が置かれているが、今後は建設フェーズ全体の最適化を図るため、...続きを読む

  • 4. IoT、ロボットとの連携で建設業が成長産業に

    4. IoT、ロボットとの連携で建設業が成長産業に

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    約20年間にわたって下がり続けてきた建設業の労働生産性(1人当たり、1時間に生み出す価値の金額)をよく見ると、ここ数年はわずかに回復基調に転じていることが分かる。...続きを読む

  • 3. i-Conの効果は「実物」と「情報」の一致にあり

    3. i-Conの効果は「実物」と「情報」の一致にあり

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    i-Conの効果には、いろいろなものがあるが、代表的なものを挙げると次のようになるだろう。(1)‌着工前に現場や構造物の姿を3Dモデルによってリアルに見られる...続きを読む

  • 2. ICT土工を中心にi-Conが急拡大

    2. ICT土工を中心にi-Conが急拡大

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    従来の労働集約型工事とは大きく異なるi-Con工事だが、国土交通省の強力な推進体制により、発注数は当初の予想を大幅に上回るペースで拡大している。...続きを読む

  • 「i-Construction」は 建設現場をどう変えるのか?|1. i-Constructionとは何か

    「i-Construction」は 建設現場をどう変えるのか?|1. i-Constructionとは何か

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    建設現場にパソコンやインターネット、デジタルカメラなどのICT(情報通信技術)機器が導入されて久しいが、屋外の現場で作業員が鉄筋や型枠を組んだり、バックホーで土を掘削したりする風景を見ると、1964年の東京オリンピック時代とあまり大差は感じられない。...続きを読む

最新記事一覧へ