人材確保・育成

指導する先生方のレベルアップで生徒たちの技能も上達してきた

指導する先生方のレベルアップで生徒たちの技能も上達してきた | 造園連

一般社団法人日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上 花子氏

 技術者の高齢化が進み、世代交代の必要性に迫られている造園業。しかし、近年は少し事情が変わってきたという。ガーデニング人気に後押しされる格好で、造園系の職業高校が増加し、資格受験者も着実に定着するなど、環境が次第に整備されてきたのだ。そこで一般社団法人日本造園組合連合会の理事・事務局長である井上花子氏に、造園業界の現状と今後の展望についてお話を伺った。


指導者の上達につれ生徒たちの技術力も向上

一般社団法人日本造園組合連合会  理事・事務局長  井上 花子氏

―造園業でも若年層が慢性的に不足している状況が続いていると思いますが、その要因をどのようにお考えでしょうか。
井上 まず一つは、現在の農業高校の状況。先生方の中には、実社会で造園業を学ばずに教壇に立っている方も少なくありません。いわば“実業未経験者”ですね。教科書で学んだことをそのまま生徒たちに教えてきたものの、実地の訓練では教科書に載っていないことも出てきます。例えば、飛石では石のざらざらした面を上に、つるつるした面を下にするのが正解ですが、教科書には載っていません。中には“逆のやり方を教えてしまった…”といった先生もいるほど。
―人事異動の義務化も指導力不足に拍車をかけていると聞いています。
井上 そうですね。長年野菜づくりを指導してきた先生が“来年度は造園の指導を”と辞令が出される現状があるんですね。まずは先生方の現場力向上の必要があると気づきました。自分の指導力に不安を覚えている先生が大勢いるんですよ。
―先生方の技術向上なしに、生徒の技術向上はあり得ませんからね。
井上 そういった方々が平成22年度より始めた「造園実習指導力向上研修会」に毎回多く参加されます。
 研修会は参加者の能力と目的に合わせ、初級コース、中級コース、五輪コースの3つに分かれ、熟練技能者が講師となり直接指導します。この事業は厚生労働省ものづくり立国の推進事業の企画競争で受託しているものです。
―どんなことを指導するんですか。
井上 造園の基本技能がほとんどですが、セメントの正しい塗り方、道具の使い方といった「今更誰に聞けばいいの?」といった内容もあります。皆さんが一様におっしゃるのは、「一から勉強したい」。講習会では実地の作業を行いますが、実際に体験することで生徒の思いや、生徒が知りたいツボが分かるようになるようです。技能五輪を観てもらえばわかりますが、指導者の上達につれ、みるみるうちに生徒たちの技術力も向上するようになってきました。

 造園教育機関の指導者を対象としたプログラム(例)

※造園技能士とは?
実務経験によって資格が1級、2級、3級に分かれる。試験は年2回(2月・8月)実施され、学科と実技試験の結果によって合否を判定。試験では、造園工事の作業や施工、見取り図などの実技と測量・関係法規・安全衛生といった専門的な問題が出される。


造園技能士の取得で自立心が芽生えてきた!

―ところで、国家資格である造園技能士※に学生が受験できるようになって何か変わりましたか?
井上 検定受験では基本的に何から何まで一人でやらなくてはなりません。すると学生にも自立心が芽生えてくるようで、これは非常によかったですね。当初は「受験料が高くて親が払ってくれないのでは」などと否定的な意見もありましたが、それでも当時の厚労省にいち早く検定の必要性を申し出ました。とにかく早く作ってしまうことが大事だと思っていたので、半年ほどのうちに課題を仕上げたのです。
―今ではすっかり定着してきました。
井上 ええ、資格制度は本当に作って正解でした。3級はそれほど難関ではありませんが、中には難易度の高い2級を取得する高校生も出ています。雇う側にとっても2級取得者は印象度が違うし、就職にも有利になっています。3級の試験の合格率は7~8割程ですが、今年からは「資格を活かして、ぜひ若手技能者になってほしい」という厚労省の熱い期待もあり、後期にも3級は一部の都府県で実施されます。さらに造園系学科だけではなく、園芸科やガーデンコースなどの生徒も3級受験をするようになり、裾野が広がっています。
―技能に対する欲が出てくると、目標とすべき存在として技能五輪がありますね。都道府県大会、全国大会、その先に国際大会があって、若手技能者にはいい刺激になっているのではないでしょうか。
井上 中には国内大会だけで十分だという方もいます。国内大会を目指すだけでも選手はめきめきと腕を上げ、顔つきはまるで別人のように変わります。礼節が身に付き、段取りもうまくできるようになりますから、そこを目的とする指導者や雇用者にとってはわざわざ国際大会を目指す理由はないというわけです。もちろん金銭的な事情もあるでしょう。
―練習に必要な経費もかさみますしね。
井上 確かに当初は材料の手配だけでも負担になるといった意見が多く、現在は、安価で全国どこでも調達できる材料に変更しました。過去の大会参加者から頂いた要望なども踏まえて現在の形態に落ち着いたんです。ぜひこれを盛り上げて若者の技能のレベルアップにつなげたいと思います。

初級コース 中級コース 技能五輪コース
初級コース 中級コース 技能五輪コース

若者の待遇面はまだまだ改善の余地がある

参加者へのアンケート調査

―若者に対する待遇面の問題はどうでしょうか。
井上 雇い主の側に“教えてあげている”、“修業”という意識が抜けないのでしょうか。専門学校などに最低賃金すれすれの初任給の求人票も提出する会社があると聞きました。さすがに先生方も技術技能を学べる会社でも、アパートで一人暮らしとなると生活費もかかりますので、社会保険などの処遇も含めて待遇の改善をしてほしいと言っています。
 若者に庭造りの魅力だけではなく、将来的に一生を托せる業界にしていかないと、意欲ある若者が他産業に流出してしまいます。
―2020年に東京オリンピックの開催も決定し、人手が足りなくなるのは目に見えていますしね。
井上 ええ、前回の東京オリンピックの際に駒沢オリンピック公園が誕生しましたが、それと同様に、新しい公園の新設への期待もあります。しかし、その半面、それに対応できるだけの人手が確保できるかどうか、その心配もあります。樹木や下草などの材料の確保にも不安が残ります。人材と材料の確保については今後も訴求していく予定です。
―分かりました。本日は貴重なお話、どうもありがとうございました。

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