人材確保・育成

建設産業を支える女性たち
 いま、建設産業では国を挙げて女性の進出を応援している。その活躍が期待される中、早くから男性社会に進出した彼女たちは、まさに〝建設産業のジャンヌ・ダルク〟と言えるのではないだろうか。
 今回本誌では、10名の女性経営者、技能者、技術者の皆さんにお話を伺うとともに、いまをときめく彼女たちの素顔と本音に迫った。

建設産業を支える女性たち|父からの難題を受け止めて 私なりのやり方で守りたい

㈱大瀬建設 代表取締役 佐々川 和子さん

父からの難題を受け止めて 私なりのやり方で守りたい  家業の建設会社を手伝うため、中学卒業後すぐに社会人となった佐々川代表。
 起業家で行動派のご尊父をずっと支えられてきました。そんなお父様が教えてくれた「人を大切にする」という志と、お父様と起業する中で培った経営のノウハウを活かして、現在3社の代表を兼務しています。


㈱大瀬建設 代表取締役  佐々川 和子さん Kazuko Sasagawa

PROFILE/プロフィール
 新潟県魚沼市に拠点を構える㈱大瀬建設の代表。今年で創業60年を迎え、主に地元の土木工事や除雪を担う。㈱大島自動車整備工場ほか廃棄物処理を行う㈱新生も経営。現在は新潟県建設業協会の女性部会の部会長も務め、障がい者受け入れも行うなど、地元の人材確保・育成に注力している。
 

 趣味はお菓子づくり(マドレーヌやチーズケーキなど)。娘に防腐剤の入っていないケーキを作ってやりたいという思いから始め、近年は、協会や部会のイベント、児童支援でのクリスマス、バレンタインデーなどでも披露。大島自動車整備工場では年間900通ほど、手書きで車検案内の手紙やバースデーカードを書くのが日課。
 
 


経理畑一筋に歩いた それが経営者としての礎

 ㈱大瀬建設の代表だった父は、次々に事業を立ち上げる起業家でもありました。父が私の弟のために㈱大島自動車整備工場を設立したのは昭和41年。さらには建設会社の一部門として砂利業や生コン事業を始め、平成14年には㈱新生を設立し産廃事業も展開してきました。若くして社会人となった私は、父が事業を立ち上げるたびに、経理や書類の手続きをすることになるのですが、誰も教えてくれるわけではありません。
 私は父と一緒に毎日のように営業に回り、母と共に経理を見てきました。必死で勉強する中で、平成16年大瀬建設、2年後に大島自動車整備工場の代表にもなったものの、当時は多額の負債を抱えておりました。思い起こせば、父は私の経理能力を信じて債務整理をさせるために代表にしたのでしょう。当時は自分に生命保険をどのくらい掛ければ返済できるか、などということまで考えました。
 あれから10年、社員みんなで頑張ってきた甲斐もあり、現在は経営も改善しました。大変なことばかりだったけど、父の難題を受け入れ続けたから、経営者としての今の私があるのかもしれません。

 

聞き手:建設業振興基金 今田 香織

父の志は、私のやり方で続けていきたい

 経営者として会社を立て直すために、まずは社員の教育に力を入れました。3社の代表を兼務しておりますが、1人での采配には限界があります。細かい部分までは目が届きませんからね。そこで、社員にはできるだけ自立を促し、社員が自身で采配できる社風をつくる必要があったのです。"私は名ばかり社長でもいい"、会社を発展させるために、社員を有能な管理職に育てることが不可欠だったのです。そのため、30代の社員は株を分けて取締役にしています。私は「事故だけは気を付けるように」とみんなを送り出すだけです。
 14年前に入社した常務は社員や現場を取りまとめてくれます。また、大島自動車には銀行との交渉ができる若手社員がいます。経理にも強く私に代わってお金の面を仕切ってくれる。本当に心強いです。私は自分の経験から、"経理に強い会社は打たれ強い""人が育てば会社も育つ"と信じています。できる人間が成長してくれれば、複数の会社だって経営していけると思うのです。
 最近は県内でも人材不足が課題になっています。Uターンで新潟に帰ってくる人も多く、人づてで私のところに来てくれます。こんな山奥に来てくれる人を大切に受け入れたいから、未経験でも採用します。代表になって初めて気が付いたのですが、両親は本当に社員を大切にする人でした。給与もボーナスもしっかり出していた。「人を大切にする」という父の志は私のやり方で続けていきたい。

 

.女性部会主催の「女性の集い」には、部会員のほか建設業協会の会員企業で働く女性なら誰でも参加できる .折り紙建築 .お手製マドレーヌ

飛んでくる矢を受け止めてみては?

 一昨年から女性部会の部会長を務めています。当時の部会長から推薦されたことがきっかけでした。頼まれたら断れない性分の私ですが、引き受け続けることで会社にも迷惑が掛かってしまうと思い、会社に戻って常務に相談して決めることにしました。常務は、「飛んでくる矢があれば、それを受け止めてみては?」と、背中を押してくれたのです。そうですよね。ずっとそうしてきたのだから。
 女性部会は、新潟県建設業協会の19支部が集まって平成11年に設立しました。会員企業勤務の女性が対象で会員は現在438名、会員企業の全女性社員の約5分の1ほど。その数は少しずつ増えているところです。年間を通して、講演会やセミナー、社会貢献活動などのボランティア、小学生を対象とした親子で参加する「折り紙建築」教室などのイベントも開催しています。
 最近、業界内で女性の活躍が注目されていますが、大手ゼネコンのような都市部の人たちは別として、工事の大半は郊外で、工期も1カ月ほどの現場が多いと思います。トイレや更衣室などのハードを整備するのは現実的に難しいでしょう。
 企業がまず手掛けることができるのはソフトの部分。仕事が長引いたとき子どもを預かってくれる保育所、家庭に何かあったときに相談できる会社のような、母親になっても社会人生活を続けられる環境が必要です。
 当社にも女性技能者がいますが、この業界は女性に厳しい慣習が根強く、なかなか現場へ出してもらえない、資格取得のタイミングや昇級も男性と同じスタートラインに立てないことが多い。当社では、男女の給料は同一です。社員が母親なら、子どもの運動会といった学校行事や通院などの相談もありますので、男女問わず休ませます。そういった判断をしたとき、一晩かけてよく考えながら受け入れることもあります。人材を大切にすることが企業の責任ですから。女性従業員からそのような相談を受けたら、ぜひ女性の側に立って考えてみてほしいです。

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