創業から今年で21期目を迎える土佐工業㈱(千葉県船橋市)。
柴田社長は業界の経験や知識もほとんどなく、お父様の勧めでこの世界に飛び込み、まさにゼロからスタートを切ったそうです。今では社員20名、千葉県内では著名な柴田社長に、創業の経緯や会社発展の秘訣、女性の社会進出に関するお話をお伺いしました。
土佐工業㈱ 代表取締役社長 柴田 久恵さん Hisae Shibata
PROFILE/プロフィール
建築、土木、管工事まで、地域住民の暮らしを支える土佐工業。民間工事はもちろん、公共工事の実績も豊富。船橋市男女共同参画優良企業にも選ばれ、地元では抜群の信頼度を誇っている。
現在、6歳、3歳、0歳の乳幼児3人を持つ母親としても大忙し。普段は保育園にお世話になっていますが、風邪などで預けられない場合は、社長室に即席ベビーベッドを作ることも。仕事に追われる日々でも、お子さんの顔を見ると疲れが吹っ飛ぶそうです。
念願かなって21歳で起業 ゼロからのスタートだった
小さいころから独立志向が強く、将来は美容院を経営することを夢見て、高校卒業後に美容専門学校に入り美容師免許を取得しました。しかし、就職した美容院はスタッフ各々の個人的な技術を重視する傾向が強く、「チームプレー」に憧れていた私はそれに嫌気がさして早々に退職すると、土建業の職人である父から手伝いを頼まれて、何の知識も持たずにこの業界に飛び込みました。最初は2トンのダンプトラックを運転して資材の運搬から、スコップで土を掘ったり、浄化槽を解体したり......。仕事内容としては、悪臭まみれで汚いし、とても若い女性が働く職場ではありませんでした。ですが、「チームで一つの仕事をやり遂げる」というところが私に向いていたんでしょうね。車の運転が好きだったこともありダンプにもすぐ慣れ大型免許も即取得したんですよ。
そのころは個人事業主。元請会社専属の協力業者として現場をこなしていました。その元請担当者から「千葉に行けば仕事が山ほどある」と聞かされて、川崎から家族全員で引っ越したんです。
しかし、実際はすぐに仕事が途切れてしまい、不安定な生活に。その時に「自分で会社を経営してみたい」「自ら仕事を取りに行く体制に変えたい」と考えて、思い切って会社を創立。こうした経緯の中で、21歳の女性経営者が誕生しました。
❶.ご自身の抱く理想の経営像には、今回「建設業経営者研修」でも講師を務められた坂本光司教授(法政大学大学院)のお考えが多大に影響しているそうだ ❷.創業当時、重機で現場作業中の柴田社長 ❸.社員の皆さん。本社前にて
社員の幸せを通して社会に貢献する
今でこそ建設現場に女性の姿が散見されるようになりましたが、社長になった当初は、男性の中に女性は私のみ。現場で別会社の職人さんに挨拶しても、父が社長だと思い込まれ、私が名刺を差し出すと「へぇ~」と驚かれたものです。「すごいね~」と言ってくださる人もいる半面、「女のくせに生意気だ!」と言われたこともありました。そんな状況の中始めたのが、下水道工事の受注に関わる資格取得の勉強です。経営の安定化には公共工事の仕事が不可欠。そのため建設業登録のための国家資格を取得し、「上下水道の指定工事店」になりました。以降は自治体や元請会社から直接仕事をいただけるようになり、社員も増え、業績も安定の方向に向かいました。しかし、順風満帆とはいかず、リーマンショックの翌年だったと思いますが、赤字に転落したこともありました。業界全体が冷え込んで、非常に厳しい状況でした。このころ父と私は事あるごとに経営方針でぶつかりました。かつて社員80名を抱える土建屋の社長でもあったベテランである父の意見は尊重したいと思いましたが、時代の流れにそぐわないと感じることもしばしば。そんな苦しい状況ではありましたが、「ここで終われるか!」と奮起し、今度は経営者としての勉強に励みました。
さまざまなセミナーや講演会に参加したり、異業種の経営者とも親交を深め意見を交わしました。経営改善のためなら何でも吸収しようと思ったのです。そのころ得た知識や情報は現在の経営に大きく役立っています。当社の経営理念『会社の目的は社員の幸せを通して、社会に貢献すること』も、そういった勉強会での収穫です。例えば、社員旅行や忘年会などのイベントには、必ず家族を招待しています。家族の支えがあるから仕事が出来る。社員の家族にお礼が言いたいという気持ちです。今年は、法人設立20周年にあたるので記念に、大型バスを仕立てて東京ディズニーリゾートへ行く予定です。その日が来るのが楽しみという家族の声が聞けて、私もとても楽しみなのです。
昨年8月、三咲稲荷神社納涼祭にチームTOSAとして出店(ボランティア)。「スーパーボール」「わたがし」等の他、昨年はふなばし産品ブランドPRキャラクター「船えもん」の宣伝係も担当。例年日の入りとともに徐々に客足は伸び、完売まで行列が続くそうだ
真に「働く女性にやさしい社会」の創造へ
私は現在、母親として3人の子どもを育てながら社長業を続けています。働く一女性の立場から忌憚なく申しますと、現在の日本社会は決して「働く女性にやさしいとは思えない」状況です。最近、私自身もそうした問題に直面しました。
昨年8月に3人目の出産を終えて、近隣の認可保育園を申し込んだところ、私の置かれている状況が考慮されずに、待機児童扱いになってしまいました。私にはすでに保育園に預けている子どもが2人いて、共稼ぎで、夫は埼玉県に単身赴任中と、どう考えても保育所の入所判定では点数が高くなるはずです(状況に応じて加点され、点数が高いほど入園が早まる仕組み※)。なぜ点数が低いのか市の担当者に問い合わせると、「経営者は加点の対象にならない」というのです。私は経営者ですが、ベビーシッターを雇えるほどの高額所得はない、同様な境遇の女性経営者は少なくないと思います。
最近はよく「女性が輝く社会の実現」という言葉を耳にしますが、その実態は、依然働く女性に厳しいと言わざるを得ません。ぜひ、現状を見直して、真に「働く女性にやさしい社会」を創り上げてほしいと願います。
※千葉県船橋市の場合、保育園の入所は「船橋市保育の実施に関する条例施行規則」に基づき、父母等の就労時間・家庭状況等により数値化、点数の高い方から決定される。