人材確保・育成

建設業の担い手不足にどう向き合うか ~担い手の確保や女性活躍等の更なる促進に向けて~

戸田建設株式会社 代表取締役社長(一般財団法人 戸田みらい基金 理事長)今井 雅則 氏
一般財団法人 建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 

 
 

 
 ベテラン層における課題
 

 
図2 建設就業者の経年推移
内閣府「国勢調査(H2,7,12,17,22)」より作成

内田 担い手の問題というと若者のことばかり注目されますが、ベテランはどうなっているのか気になっていました。その点はどう思われますか。
今井 技能者の賃金は40歳くらいまでは全産業平均に近いところまで賃金が上がっているというデータがあります。ただ、その上の年代では下がっているのが現状です。今後、現場での働き方が、力仕事だけではなくなってくると、年齢に応じた活躍ができるように変わってくる。生産性を上げるための取り組みに成果が出てくると他産業並に賃金の上昇が望める可能性は大いにあります。
内田 国勢調査の結果を5年ごとに追ってみると、20代後半から30代、30代後半に入るとき、40代に入るとき、それぞれのタイミングで建設業から他産業に人が流れていっている(図2)。働き盛りで腕もある中核部隊がこぼれていってしまうのは問題だと思います。40代前半から職人さんたちの賃金が下がっている。そのころの年代はちょうど子どもたちが高校や大学に入学する時期で、そこから先給料が下がるとなると先行きが心配になるのは無理もありません。
 戸田建設では、登録基幹技能者の評価にいち早く取り組んでこられましたが、そういう形でベテランがきちんと評価される仕組みというのは必要です。
今井 現場が終わった後、職長の中には、自らすすんで「自分がふさわしい仕事をしていたか作業所長に評価してほしい」という人もいます。プライドを持って仕事をし、それにふさわしい役割をもっとやっていくというプラス思考の人もいます。そういう意味では、コミュニケーションをよくして、きちんと評価する。もし駄目だったらきちんとそれを伝えて育てていくという姿勢が非常に重要だと思います。収入がアップするだけでなく、モチベーションや責任感など、違うところでの効果は非常にあるようです。
内田 良いお話ですね。目の前の出来高だけ見れば落ちていくかもしれないけれど、チームで見るとか、前工程・後工程とのつなぎといった難しい部分での役割とかをきちんと評価する。新たに建設業界全体で取り組む「キャリアアップシステム」というのは、全体を追いかけていきますので、これをうまく活用しながらベテラン層の処遇や評価をどうしていくのか考えていかなければならないと思います。
今井 先ほど働く内容が多様化してきているという話をしましたが、本人の人生から考えると、建設業の中だけでなく、今まで培った技量や資格とかを利用し、他の産業で活躍することもよいと思うのです。他産業への転職も選択できるような仕組みを作り、一人一人が自分のロードマップを作れるようになると一番いい。
 例えば、建設産業ではIT化の必要に迫られています。この産業で少ない年齢層は35歳くらいですが、その前後の年齢層の中でIT関係に勤めている人は多い。しかし、IT産業は年齢が高くなるにつれ技術力を保つのが難しくなる部分もある。ちょうどそういう人たちが建設業にきてくれると、今、建設業で必要としているIT化の部分に対応できる。そういう産業間での流動化は非常に有効だと思います。
 また、建設業の中でも、年齢が上がっても若いころと同様に働けというのではなく、技術を伝承していくのに必要なポジションを与えるとか、安全管理などBIMだけではできないところが必ずあり、そこを補填していくような立場、仕事の内容が必要だと思います。体力に関係なく活躍できるような、上手い組み合わせができればいいと思います。

 

 
 女性の活躍推進について
 

 
図4  建築施工管理技術検定2級・実地合格者増加率
図6 自分の能力を伸ばすため
内閣府「若者の考え方についての調査(H24)」より作成
図3  建設業経理士(2級、H27上期)合格者
図5 達成感や生きがいを得るため
内閣府「若者の考え方についての調査(H24)」より作成

内田 仕事の状況が変わっていくということでいうと、女性の活躍の場ができてくることにもつながりますよね。
今井 当然そうなりますね。今、当社でもかなり女性が入社しています。当社は医療・福祉施設関連の工事が多く、お客様の発注権限者が女性というケースも当然出てきています。また、女性が多い看護師さんの実際の発言力は強く、それに対応するもの作りをしていかなければならない。女性が提案を作りこんだり図面を引いたりする方がお客様の要望に合うものができ、結果として利用者にもやさしい施設ができるということもある。女性の特性を生かした分野はもっと増えてくると思います。
 トンネルでも、ボーリングマシンがもっと発達してくると、ずっと事務室にいてバーチャルで見ながら対応できるようになります。そうなると高齢の人でも女性でもできる職場はどんどん増えてくると思います。
内田 就業者に占める女性の比率は、日本の産業全体では約43%、欧米先進国とほぼ肩を並べる水準まできています。ところが、建設業は約14%です。男の職場だと言ってしまえばそれまでなのですが、女性から見たら建設業は働く選択肢にほとんど入っていない。労働市場の約半分を占める女性から相手にされないままで、人材獲得競争を迎えると大変厳しいと思います。女性の活用はうまく使えるところは使えばいいという選択科目ではなく、いまや必須科目だと思います。
 本財団で実施している 2級建設業経理士 の合格者の比率を見ると、どの年齢層においても圧倒的に女性が多い(図3)。
1級も完工高40億円以上の企業に所属している人の割合でみると女性の方が多い。また、 建築施工管理技士 合格者の伸び率をみると、女性が伸びている(図4)。頑張っている女性たちをきちんと評価するというところが出発点だと思います。
 内閣府が行った若者の意識調査で、「仕事に何を求めるか」という問があります。達成感や生きがいを求めるという答えは年齢層を問わず女性の方が高い(図5)。一方、自分の能力を伸ばすことを求めるという答えは男性の方が高く、しかも経験を積んで年齢が上がるほど高くなっている。それに対して女性は、年齢が上がるほど下がっています(図6)。達成感や生きがいはやり遂げてこそ得られるもので、粘り強さは女性のほうが高いということではないか。男性が年齢を追うごと、経験を積むごとに高くなっているのは、成功を得られているからだろうと思います。女性はもしかしたら、そういうチャンスを与えられていない、その差が現れた結果ではないでしょうか。
今井 女性が男性化する必要はないと思います。今まで建設業では、女性を評価するための評価軸、評価の基準、評価方法がなかったのでしょうね。同じ量をこなせるかどうかだけではなく、質をどうやって評価していくかだと思います。
 それにしても、現在の女性が年齢を追うごとに仕事に自分の能力アップを求める比率が低下していくとしたら問題ですね。新入社員の採用で見ていても、女性の方が男性よりはるかにハキハキしているし、やりたいこともきちんと持っています。
内田 建設の現場で、半分が女性である必要はないと思っています。現場の3分の1が女性だったら、その代わりバックオフィスは3分の2が女性であるとか、業界全体として、半分が女性になるそうした工夫がいるのだと思います。たとえば、建設業経理士など資格試験をもっと女性が受けやすいようにする手立てを講じる一方、取得した女性がもっと評価されるような仕組みを考えていかなければならないとも思っています。
 建設業経理士は、これをずっと突き詰めていくと経営の状況が見えてきて、社長に進言できる。そのことを資格取得した人たちに教えていきたい。中小の建設会社では、奥様が経理をやっているケースも多い。女性向けの経営者研修なども考えてみたいと思っています。

 

 
 海外人材の活用
 

 

内田 担い手の問題として、海外の人材の活用については、どのようにお考えですか。
今井 今、海外人材の受け入れについては、国の方でも検討している最中なので、「みらい基金」でも様子を見ながら助成を実行していきたいと思いますが、基本的には国内ではなく、海外工事のレベルを上げるための活用と捉えています。
 国内が人材不足だから、海外の人材を使いたいという会社はあるかもしれません。一方で、建設産業全体の賃金が上がってきているのに、安い労働力が入ってきていいのかという考え方を持っている人もいます。
 基本的に、日建連でも、現在の労働力はバブルの頃と比較しても、数字的には足りた状況にはなっていると認識しています。海外人材の受け入れは、日本の企業が海外で仕事をするときに、日本で研修を受けた知識を生かし、海外での仕事のレベルを上げていくという活用を考えています。「みらい基金」でも、労働力としての頭数にとどまらず、研修を受けに来た人々が資格を取ったりレベルを上げたりすることを支援していきたいと考えています。
内田 製造業でも東南アジアは現地国の経済発展により、国内に雇用の場ができ、賃金競争が大変になっているそうです。中国の研究機関では2030年を境に中国の人口は減少に転じると発表しています。日本で人口減少が始まる15年くらい前に若い労働人口が減り始めている。おそらく中国もそろそろ人が足りなくなってきて、外国の若者が必要だということになってくるでしょう。
 日本は入管制度が厳しいから日本に来たい海外の人が来られない、これさえ緩和すればいくらでも人は来ると思っている人がいますが、これからはそうはならない。受け入れるからには日本国内で育てて一人前にするくらいの気持ちでやらないと来てくれなくなると思います。
今井 製造業でも中国の賃金が上がってしまったため、日本国内に機械化した工場をつくるなど、日本に帰ってくる会社が増えている。そういう意味では、海外に労働力を求めるというのはなかなか難しいことになっています。
内田 専門工事業者が自前で作り上げた 利根沼田テクノアカデミー という職業訓練校の1期生の訓練状況を見に行きました。受講生が20人程いて、インドネシアなどから来た若者が日本人と一緒に2カ月間の訓練を受けていました。便利使いするのではなく、訓練を受けてもらってきちんと育てる。まさにここでの姿がいま求められていると思いました。

 

 
 多様な働き方ができる産業に
 

 
図7 若者の生活不安
内閣府「国民生活に関する世論調査」より作成

内田 若者たちは、どんどん将来に不安を持ち始めています(図7)。こんなふうに若者が先行きに不安を持っている国に将来はありません。日本の若者たちを建設業がしっかり受け止めて、将来に希望を与えるんだ、そういう心意気が必要だと思います。
今井 建設業で力を発揮し、将来的には業種を移るとか、そういうことも考えていっても良いと思う。ずっと建設業だけで一生過ごす人もいれば、もっと違う仕事で活躍する人がいたり、そういう多様性もありだと思いますし、現実的にそうなってきている。建設業で働く若者の生涯をどうケアしてあげるか、ということも考えたほうがいい気がします。
内田 今おっしゃったように他産業へ行き来する選択肢もあってもいいし、建設業でずっとやっていく者がいてもいい。そういう中で建設業がしっかりした担い手を確保していくためには、きちんと育てる仕組みをしっかりと作っていく必要がありますね。
 みらい基金の取り組みを中心にいろいろなお話をお伺いできました。ありがとうございました。

 

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