基金の活動

インタビュー|沖縄県建設業協会

インタビュー|沖縄県建設業協会

語り手 (一社)沖縄県建設業協会 会長 下地 米蔵 氏
聞き手 (一財)建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 米軍基地問題で揺れる沖縄県。沖縄の建設業界を取り巻く状況は他の自治体とは少々異なるところもあるようです。沖縄県建設業協会の下地会長に、沖縄県の建設業界の現状と課題、展望についてお聞きしました。

 


協会の会員が減少傾向 沖縄県の建設業界の現状

下地会長

下地会長

内田 沖縄の公共投資は、北部振興事業などで他の自治体に比べて減少していないと思っていましたが、予算の内訳を見ると公共工事が半分くらいになっていますね。
下地 北部振興事業で潤うはずですが、現実には倒産する会社が増えています。会員企業はピーク時100社を超えていましたが、10年間で30社ほど減りました。
内田 均等に仕事が回らないのでしょうか。
下地 特に北部は減少率が激しい。例えば宮古・八重山地区ではほとんどの建設会社は入会していますが、地域差があります。協会に加盟すればメリットがあることが伝わっていないのも原因ではないか。協会の存続に危機感を持たざるを得ないですよ。
内田 データを見ると、協会員の公共工事の応札率はBランクで30%弱、それ以外の会社が70%以上を占めていますね。
下地 比較的大きい会社は入会していますが、Bランク、Cランク会員をいかに増やすかが課題です。沖縄県発注の工事規模ならBランクは5千万円、Aランクが1億5千万円以下の工事です。ランク付けには銀行の意見も入れて適正に行わないと、過当競争を繰り返すという状況になってしまう。
内田 担い手3法が成立し、値下げ競争を強いるような発注は否定されましたが、地元から離れて発注者を自由に選べない構造がある以上、過当競争に戻る恐れは常にありますからね。
下地 県内にはどれくらいの業者数が適当なのか。儲からない覚悟で10年間も競争してきました。しかし、振り返ってみたら、一番傷ついたのは職員、家族です。給料を上げずに職員に頑張らせてきたわけですから、今後はそうしたことがないような協会運営、会社運営をしないと、若い人は絶対に入ってきませんよ。
内田 おっしゃる通りだと思います。ところでこれから期待されるプロジェクトの1つである那覇空港の滑走路増設の進み具合はいかがですか。
下地 天候などの影響でなかなか捗りません。前知事からは5年8カ月という想像を絶するような工期を要求されました。協会としても労務単価を含め、余裕のある工期で利益を伸ばして、若者が興味を持って入職できる状況に是正していかなければいけません。

 

若手労働者を求めて 普通高校にもアプローチ

内田理事長

内田理事長

内田 沖縄の有効求人倍率は5.07倍(2013年)と急激に回復していますね。
下地 ほとんどが観光向けのサービス業です。建設業界は募集をしてもなかなか入ってきてくれません。失業率は高いのに理解に苦しみます。実際、適性の問題もありますから。沖縄は他の自治体に比べて賃金が低く、中途採用が多い。鉄筋や型枠などの技能者は本土へと流れるケースも多いです。
内田 他の会社からの引き抜きなどもあるのでしょうか。
下地 会社が仕事を取れず辞める技術者も多い。やっと育てた技術者を引き抜かれたら、目の前真っ暗ですよ。会社が工事を請け負ってきちんと完成させ、次の工事受注につなげていく。その中で技術者を育て、それがその技術者の実績になっているわけです。技術者を評価して点数を付けるのは良いことですが、加えて技術者を大事に育てている会社も評価する仕組みが欲しいですね。
内田 品確法は基本理念を定めた第3条で、公共工事の品質は受注した建設業者の技術的能力に負うところが大きいとしています。おっしゃるように社員を大事に育てている会社自身を評価する指標が必要ですね。
下地 それが土台だと思います。しっかりしている会社が技術者を育てるわけですから。
内田 沖縄県の新規採用はどうでしょう。
下地 平成25年度は、288社で784名を中途採用し、新規採用は269名(業界10団体の調査)。新規採用は年々増えています。
内田 いい傾向ですね。
下地 新規で採用して、会社で育成することが大事です。沖縄の建設業界は工業高校への募集時期を早めています。近年は、普通高校にもアプローチしています。普通高校から大学に進み、土木建築を学んで土木関係に携わる官僚や公務員になる人もいるわけですから、期待しています。
内田 会長の会社では年に何名くらい採用していますか。
下地 年に14、5名くらいですね。専門学校生が大半で、大学生が少し。以前は高校生も採用しましたが、離職率が高くて10人採用したら半分残ればいいくらい。原因が学生側にあるのか我々にあるのかはまだ分かりません。
内田 研修はどのようにされていますか。
下地 採用後2カ月間は、協会の研修場で建設業の基本的知識、社会人のマナーなどを指導します。
内田 富士教育訓練センターでは、複数の会社から新人社員を預かって研修を行いますが、定着率の向上にも効果があるようです。新入社員が1~2名の会社では、話ができる仲間もいません。センターで寝食を共にして学ぶと同期生意識が生まれ、研修終了後も会社の垣根を越えて連絡を取り合い意見交換する、それが定着率につながっているというのです。
下地 確かにそうかもしれませんね。

 

「人を大事にする」業界 そんなイメージを確立すべき

下地 仕事量は今後10年くらいは安泰だと思います。それまでに若い人が仕事をしやすい環境に整えていきたいです。
内田 給与面や休暇など、改善すべき点は依然多いですね。
下地 全体のバランスを見直して将来を見通せる業界にならないと、若い人には魅力的に映りません。地域の保全も建設業の任務だと思います。災害対応など、地元業者の役割は大きい。
内田 そのためにも「人を大事にする」業界というイメージを確立していく必要があります。同時に「人を大事にする」会社がランクアップしていく仕組みづくりも進めるべきです。

 

「正社員で雇用して しっかり教育できる体制へ

内田 我々振興基金も、国土交通省と相談して「建設産業担い手確保・育成コンソーシアム」プロジェクトを立ち上げました。教育訓練のネットワークを全国に展開し、共通カリキュラム、テキストを作成し、講師も相互に派遣する。建設産業に就職したら、地域や業種、会社規模にかかわらず新人研修の受講ができて、ある時期になったらスキルアップ研修が用意されているという体制を5年ほどかけてつくっていきたいと考えています。
下地 それはいいですね。
内田 特に中小企業で教育体制も満足とはいえない技能者を、どう巻き込んでいくのか。建産連のような組織で、地域全体で取り組んでいければいいですね。
下地 当協会で研修専門のスタッフを雇って、会員の会社に派遣してほしいという要望もあるんですよ。
内田 それは具体的な検討をすべきでしょうね。とにかく、正社員で雇用してしっかり育てるという体制がないと若手の定着は難しいし、就職したいという若者も増えない。ただ、新人教育には時間とお金がかかり、協会単位、建産連や県単位での仕組みが必要です。我々がお手伝いできることもあると思います。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

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