九州における 重層下請構造の実態
杉山会長
内田 業界内で重層下請問題が指摘されています。慢性的な人材不足などにより、本来元請がするべき施工管理の一部を一次下請がしている背景があるようです。九州ではどのような状況でしょうか。
杉山 建設業は名義人制度がありますから、元請の名義人であるということが受注にもつながる。都市部では、専業といいながら一次下請は職人を持たず、管理に特化し、二次下請に施工を依頼することが多いです。九州では一次下請の直用は労働者の3〜5割くらいでしょうか。自社で職人を抱えて育成している業者も多い。専門工事業者である以上、ものづくりに秀でた技能者がいて初めて胸を張れますからね。
内田 管理が中心になっている業者もいる。それは元請の方が技術者を減らしてきた、そのしわ寄せだと思うのですが。
杉山 そうですね。自主管理や責任施工と呼ばれ、その分下請の重層化が進んだように思います。
内田 一次下請が施工管理業務に特化してしまうと、重層化がさらに進む可能性がありますね。ある部分は一次下請がきちんと直用を抱え、施工部隊を持たないと。
杉山 そうすると自分の会社で技能者を育てることができる。
内田 この20年くらい、発注者が自分の都合を元請に押し付け、さらに元請が自分の都合を上乗せして下請にまわす。結局最後は技能者にすべてのしわ寄せがいく。その典型が社会保険未加入問題だと思いますが、最近、業界の意識は変わってきたでしょうか。
杉山 社会保険については原資を発注者が見ているわけですから、当然元請が下請にしっかり流すべきですが、その意識がまだ薄いんじゃないかな。元請が標準見積書に明記するように真剣に取り組まなければ解決しないと思う。
内田 これまでは、発注者は元請が下請に払うかどうか、元請は下請が実際に加入するかどうか分からないと思う。一方下請は加入してもその分を元請からもらえるのか分からず、加入をためらう。こうした相互不信の連鎖で先には進まなかった。ところが建専連が身銭を切ってでも社会保険に加入すると腹をくくった。それで状況が動いたように思います。
杉山 仕組みとして払うことは義務。元請ももらった以上ちゃんと払いなさいと。下が払うか分からないから払わないという理屈じゃ通らない。一人親方の問題もそう。社員の社会保険を払えなくなり、一人親方になった職人も多いでしょう。一人親方といっても事業主。本来は契約を交わして雇うべきなのに、それができていないことが問題です。あるべき姿、あるべき形で業界を構築していかないと若い人に見向きもされませんよ。
内田 正規社員として一生抱えるということは、若者たちの求めていることだと思う。
杉山 給与の問題もそう、元請に比べ、下請の平均給与は100万近くの差がある。製造業にはそれほど差がない。
内田 建設業の中でも差がある。ここに目を向けなきゃいけないですね。
杉山 30〜40代の多くは、将来を考え他業種に転職しています。この年代は労働者の中で占める割合も大きく、能力も持っている。しかし、賃金は40代でピークになってしまう。給与も日給月給が多く、肩身の狭い思いをしている。
内田 会長の会社はどうですか。
杉山 月給制にしています。募集の時に法令通り40時間で採用しています。新入社員は1年くらいの間、第2・第4土曜日は休日とします。1年も現場を経験すると、休めない現場もあることを理解できる。
登録基幹技能者と 一級技能士をめぐる問題
杉山 とびの会社の中には、一級技能士の資格を持つ人のいない会社が増えています。なぜなら、実技試験があるから。施工管理の知識があっても技能がない、そういう人は実技試験のない「登録鳶・土工基幹技能者」を取得するケースも少なくありません。結果として、こうした登録基幹技能者には施工管理の知識はあっても高度な技能は持っていない人と、持つ人とが混在している。そういう人たちが同等の待遇というのは、少し疑問があります。登録基幹技能者の評価について、一級技能士の有資格者とそうでない人との間に評価の差をつけるべきだという声もありますよ。
内田 例えば、登録基幹技能者には、1~2カ月の技能講習の受講を義務付けるなどの条件も必要でしょうね。
杉山 そうですね。登録基幹技能者は一級技能士の資格を併せ持つことが理想です。私は中央職業能力開発協会で技能検定委員もしていますが、一級技能士が登録基幹技能者の受検条件の一つになったので、今年は受検者がとても増えました。
内田 近年の建設現場で何か変化を感じていますか。
杉山 一昔前に比べると、元請会社の社員の数が大幅に減りました。今は責任施工の中で管理するのが当たり前。
内田 収入に跳ね返ってくるなら、それでもいいと思います。それが登録基幹技能者の待遇の改善につながっていくということですから。
土木建築系の専門学科を 増やす必要がある
内田 会長の会社では、高卒の採用はどうでしょう。
杉山 毎年採用しています。今年も工業高校を中心に30校近く回りました。ただ、土木建築学科があっても、進路となると給与や諸条件を比較して製造業を選ぶケースが多い。先生方には建設業で頑張っていけるようなアドバイスをしてくださるようお願いしています。今年は地場元請も仕事量が増え、監理技術者の募集が多く、専門工事業者には来てもらえませんでした。数年前に、沖縄から徳之島、奄美大島などの離島も含めて九州全域を回りましたが、学校でも生徒集めに苦労し、土木科自体が減っている状況です。
内田 長崎県立鹿町工業高等学校は2006年に土木技術科を新設しました。なぜこの時期につくったのかというと、長崎の造船業が不況になっていく中で若者の雇用を考えると建設業に期待するしかないだろうという、知事の"鶴の一声"だったそうです。だから思い切ったことがやれた。各自治体の知事に働きかけて「土木建築系の学科を増やしてほしい」というアプローチも必要ですね。
杉山 専門工事業に目を向けさせるような授業があれば、生徒が目指す分野も広がると思います。土木建築ならスーパーゼネコンに行くチャンスもある。
建設産業全体で人を育てていく そんな意識が重要
内田理事長
内田 会長の会社は若い人の離職率も低いようですね。
杉山 私の会社は寮や社宅もありますし、久住に別荘もあるんですよ。年末に社員たちと行って、みんなで年越しを祝うこともある。新人教育と資格取得、福利厚生も会社の責務ですから。
内田 一貫して社員に誇りを持たせることが大事だということですね。素晴らしいことだと思います。どのような新人教育をされていますか。
杉山 入社式後は、すぐに現場見学。それから2日間の実技訓練に入り、枠組足場の造り方から道具の使い方などを教えます。1週間みっちり鍛えてから現場研修に移ります。ある程度基礎を習得したら、次は各種資格の取得に挑戦する流れです。
内田 一級技能士の試験では、事前の研修をやりますか。
杉山 実技試験があるので、やはり何回かは練習させます。私自身、検定委員ですから直接タッチはできませんが、教育担当者が、時間内に課題をこなせるようにアドバイスして本番に臨ませます。
内田 そういった訓練の場、機会があげれば合格者も増えるでしょうね。建設産業全体で人を育てていくという意識が重要です。
杉山 富士教育訓練センターのような施設が近くにあればいいのですが。
内田 広島建設アカデミーの方式を研究されるようお勧めします。広島県知事の認可を取って職業訓練法人になり、業界各社合同で新人研修を3カ月実施するのですが、厚生労働省から補助金が出て、講習に送り出す会社にも補助金が出ます。九州建専連が母体となって、福岡で会場を借りれば実現可能でしょう。我々もお手伝いできると思います。
杉山 ぜひ検討してみたいと思います。
内田 本日は貴重なお話をありがとうございました。