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インタビュー|北海道建設業協会

インタビュー|北海道建設業協会

語り手 (一社)北海道建設業協会 会長 岩田 圭剛 氏
聞き手 (一財)建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 平成27年度末(2016年3月)に新幹線が一部開業し、札幌までの全線開通も前倒しになるなど、先行きの見通しに光が差し始めた北海道。しかし、その半面で担い手確保などの課題も山積しています。道内の建設業を取り巻く現状を、北海道建設業協会の岩田会長にお聞きしました。

 

地元経済界とも力を合わせて建設産業のイメージ回復に着手


北海道新幹線の計画前倒しで景気上昇

岩田会長

岩田会長

内田 一昨年、昨年と北海道は暗いニュースが多かったと思いますが、ここに来て新幹線の開業時期の繰り上げなど明るいニュースを耳にします。建設業はどうでしょうか。
岩田 北海道の主要産業である観光産業が元気を取り戻し、少し明るさが見えかけております。外国人観光客、特にアジアからの観光客が非常に好調で、昨年は115万人を記録しました。我々建設業に目を向けますと、公共事業は徐々に回復基調にあります。ただ、建設投資のピークは平成8年度の4兆9,000億円で、26年度の見通しは2兆8,300億円ですから、当時の42%減ほどになっています。
内田 公共投資の比率は。
岩田 全国平均よりも公共投資の比重は大きいですね。全国の官民の比率は43対57ですが、北海道は63対37。つまり公共投資の増減が経済に影響を受けやすいわけです。
内田 道庁のホームページを見ていて、建設産業の文字がどこにも出てこないことが少し気になりました。
岩田 しかし、北海道は近年、戦略的に食産業、観光産業を目玉にしていますから、社会資本の整備は必要不可欠です。その進捗が観光産業に影響しますから。
内田 観光でいうと、今年度末には新幹線が海を渡ってきますね。
岩田 来年3月です。もちろん開業効果はあると思いますが、札幌延長に向けての工事も5年前倒しになりましたので、その分上向きになるでしょう。今年度の予算は約800億円でかなり増えてきました。

担い手確保の問題は業界を挙げて取り組むべき

内田 先日、協会の事業計画が発表されました。会長ご自身として一番力を入れたいのはどの部分でしょうか。
岩田 何といっても担い手確保の問題ですね。業界全体の急務であり、ここ2~3年かなり力を入れて取り組んでいます。最近は、専門工事業団体、商工会議所とも一致団結して、いくつか活動をスタートさせました。実は、高校生に建設業を理解してもらいたいとマンガも作ったんですよ。
内田 私も面白く読ませていただきました。上手に建設業界の職種やそこで働く面白さを紹介しておられますね。
岩田 我々が思っているほど、高校生は業界のことをよく知りません。お母さん方はもっとご存じなく、理解度を深めたいという願いから作成しました。
内田 おそらく世の中の親御さんのイメージは、工事現場で法被を着た親方が若い職人を引き連れて歩いているような親方に弟子入りする世界を想像しているのかも。でも、実際は会社組織で、社長もいれば部長もいて、工事責任者がいる。それを紹介するのに漫画はいい方法ですね。
岩田 ええ、非常に好評です。
内田 私たちも同じような狙いで『18歳のハローワーク』というホームページを立ち上げました。業種別に実務経験ごとに「どんな仕事で、どんなやりがいがあるのか」、建設業界を体系的に紹介しています。
岩田 そういった情報はぜひ積極的に広めていって、建設業の真の姿をお知らせしてほしいものです。

女性が働きやすい職場を探ることが先決

内田理事長

内田理事長

内田 その他課題を挙げるとすると、どのようなことがありますか。
岩田 あとは女性ですね。女性の雇用推進に当たり、まだまだ受け入れ体制、社内の環境整備が万全とは言えません。業界が一つになり、経済団体ともいろいろと策を考えていく必要があるでしょうね。例えば、女性技術者の懇談会とか、発表会のようなものを計画しています。
内田 話し合いの場や機会を設けるというのは彼女たちにとってもいいことです。女性が入社しても、相談相手がいないという話はよく耳にします。子どものことなど、我々が思っている以上に、不安に思うことは多いようです。
岩田 彼女たちもネットワークが広がると、相談相手ができるきっかけになります。それをうまく発信していきたいと思います。例えば、自動車業界のトヨタ自動車の場合、女性従業員を増やすために、女性でも持てるサイズ・重さに現場の規格を変えるなど、仕事のルール自体を変えたそうです。そこまで徹底する必要はあるでしょうね。
内田 当基金の『建設業しんこう』3月号で女性技術者・技能者の特集を組みました。敷地に制約のある都市部で専用トイレの設置は難しいので、都市部の担当が決まったら、早めに正確な場所を聞いて、近辺で女性が使えるトイレを調べるそうです。人知れぬご苦労をされているわけですが、だから仕事が嫌だとはおっしゃらない。それ以上にやりがいがある仕事だから。女性の雇用促進も、やりがいを持って活躍できる場を準備することが基本だと感じました。
岩田 我々の業界は、女性雇用に関してはまだ入り口に立ったばっかりです。やるべきことがたくさんあると思いますよ。

加盟企業の新入社員を集めて合同研修会を実施

内田 話は変わりますが、協会では新入社員の合同研修を行っているそうですね。どんな試みなのでしょうか。
岩田 新入社員が1人2人だと効率が悪いし、やりづらいところもあります。数社合同なら効率もいいし、同年代の仲間もできます。困ったときに相談できる仲間がいるだけでも心強いですし、意味があると思っています。そのほか技術者研修も何回かやっています。
内田 会長の会社では、技術職の採用先はどちらからですか。
岩田 主に高専と専門学校から採用しています。
内田 近年、全国的に見ると、建設業関連の専門学校の数が減少していますが、北海道はどうでしょう。
岩田 同じです。工業高校自体が減っていますし、工業高校の土木や建築といった学科も減っています。
内田 若い人が業界に入ってきても育成の仕組みがないため、早期に辞めていくケースが指摘されています。そんな中で、当財団では、全建、各県協会にご協力をいただいて「建設産業担い手確保・育成コンソーシアム」を立ち上げました。
岩田 どんな目的がありますか。
内田 目的は3つ。1つは各都道府県にネットワークを作ること。総合工事業者と専門工事業者、工業高校、訓練施設、行政などをつなぐネットワークを作り、知恵と力を出し合って訓練の仕組みを構築します。2つ目は、訓練のためのカリキュラムとテキストを、4段階のレベル別に用意します。3つ目は、全国各地にできた訓練の仕組みをネットワークで結び、お互いに情報交換していく。これらを実現させようと考えています。

専門工事業者を対象に新卒社員の実態調査を計画

岩田 私どもも、コンソーシアムに近いような仕組みを、道庁と力を合わせて作っていく意向です。富士の訓練施設は残念ながら遠いですから、どこか道内の施設をうまく使えればと検討も始めています。
内田 この仕組みは、他産業よりも一、二歩先に行っていると思うんです。産業界全体でこういった取り組みを始めたケースはまだありませんから。
岩田 今協会では、専門工事業者の方々を対象に「なぜ新卒社員を採用しないのか」「採用しても定着しない理由は何か」「新入社員教育はどのように行っているか」などの実情を調べようと計画しています。本当のニーズはどこにあり、そこからどうやって組み立てていくのかを考えたいですね。
内田 各地の専門工事業界の実態はデータがないので私も知りたいですね。本日はいろいろと面白い話が聞けました。ありがとうございました。

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