基金の活動

地域専門工事業の現状|北海道地区

地域専門工事業の現状|北海道地区

語り手 建設産業専門団体北海道地区連合会(建専連) 会長 鈴久名 健 氏
聞き手 (一財)建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 全国各ブロックの専門工事業にフォーカスを当て、その現状と課題を探っていく本企画。第2回は、北海道地区。建設産業専門団体北海道地区連合会(建専連)の鈴久名会長にお話を伺いました。

 

発注者と話す機会を増やしコミュニケーションを深める


街の安全も工期も人材確保もすべてが雪との戦い

鈴久名会長

鈴久名会長

内田 岩田会長(北海道建設業協会)も、少しずつ良くなってきたとおっしゃっていましたが、いかがでしょうか。
鈴久名 北海道は全国的にも好景気は遅れ、悪い波は早く来る。工事は一昨年から増えていますが、人材は不足しています。北海道特有の気候条件で11月からコンクリートは温水を使い、凍結しないよう灯油を炊いて打設するので費用も掛かります。重機も積雪で自由に動けず能率が落ち、吹雪でホワイトアウトすれば移動もままならないから、冬季は工事をしなくなります。年間を通して工期が短いのです。
内田 今年は雪が少ないようですが。
鈴久名 今年の3月は平均気温も高く、気象観測以来の暖かさでした。降雪量も少なく、土建業には非常にありがたいのですが、仕事になりません。冬季の北海道では土建業者は除雪作業が主力です。冬場は除雪業者になり、夏は土建業をするのです。ダンプも重機も、年間を通して稼働させなければ、維持費は捻出できませし、メンテナンスだけでも数百万かかります。平成18年にも雪が少なかったことがありました。この時は除雪業者が倒産しました。今年も危ないと言われています。一方、除雪のオペレーターも不足し高齢化も進みました。札幌市内のほとんどは50〜60歳代。各社で仕事を割り振って調整するものの、1人いなくなっても除雪が滞ってしまう。積雪で流通が止まってしまえば、物資も途絶えるのです。冬季はすべてが雪との戦いなんですよ。
内田 建設業全体が、高齢化しているということもありますね。
鈴久名 そうですね。6〜8月の夏場になると、人はすぐ足りなくなる。父の時代には、季節労働者が多かった。土建業は単価が低いから、働き手も生活のために日曜日はほとんど出ていました。それがバブル以降、労働単価が上がって、日曜は出なくてもよくなりました。人が生活するには、ある程度の労働単価が必要なのです。

業界の役割、労働環境、処遇、若者が将来をイメージできる産業に

内田 今は日曜日は休日ですか。
鈴久名 特殊な現場を除けば、通常、日曜日は休みです。元請に工期を十分に取ってもらい、建設業も他の産業のように休日が取れ、給料体系も年収にしていかないと、それこそ若い人が入ってこないでしょう。
内田 道協会会員の会社は採用を増やしているようです。建専連の会員各社はどうでしょう。
鈴久名 登録基幹技能者制度ができてから、技能労働者の養成に力を入れ、採用枠も増やし始めましたが、ハローワーク、求人誌、学校関係と広く募集をしても集まりません。
内田 工業高校の先生も、建設業からはこれまでほとんど求人票が来なかったから、子どもたちに建設業を勧めることはしなくなったとおっしゃっておられます。
鈴久名 学校も求人が来ないから、進学率を上げるために大学に行くように指導して随分苦労をされたとか聞いています。今更高卒で、建設会社へ就職させるように方針を転換するには時間がかかるとおっしゃられます。一方、若い人が鳶に憧れて入ってくる会社もあるのですが、2、3カ月で辞めてしまう。今の若い人の特殊性をつかんでいないと使っていけないのです。
内田 辞める原因は何だと思われますか。
鈴久名 社会性の乏しい若年者が、鳶の先輩に厳しく叱責されて委縮したり、憤慨したりで続きません。中高年の鳶は若者の扱いに慣れていない。近年では学生時代にクラブ活動も、アルバイトもしないという人が増えている。継続雇用したいのなら、社会生活の経験がない若者には、忍耐強く丁寧に教えないと。
内田 若者にとっては、会社に入って年齢の近い仲間がいないと孤立してしまう。現場に入れてもらっても教えてくれる先輩がいなければ、若者も何をしたらいいか分からないでしょうね。
鈴久名 今回、学生にも建設業の仕事を理解してもらおうと、協会で型枠、大工、鳶の職種を紹介するマンガを道建協さんと作りました。
内田 私も拝見しました。大変いい出来ですね。
鈴久名 今後は土木編も作っていきたい。高校生だけでなくて、小中学生にも伝えなければならない。親御さんからは「今まで何をしていたんですか」「子どもたちが入る会社としてちゃんとやってください」と言われます。親御さんの理解をいただかないと、子どもを会社に預けてくれません。我々が社会整備を担っていることを理解していただき、労働環境を整備して、将来の構想をイメージできるような会社経営をしていかないと。
内田 会長の会社では毎年採用をしていますか。
鈴久名 私は3代目ですが、初代は土木工事も一般住宅も手広く受けていました。2代目からは大林組の専属で工事を受けるようになりましたが、現在はその仕事が3分の1になり、他の現場の応援もしています。仕事が減ってから新卒は採用していません。

業界全体が、同じ課題を抱え協力し合える関係になった

内田理事長

内田理事長

内田 元請も協力会社との繋がりが復活しつつあると伺いました。大林組も訓練校を作りましたし。
鈴久名 以前は、林友会に入っていても、仕事は必ず来るものではないと言われていましたが、今はぜひ協力してくれといわれますから、人材が本当に必要なのでしょう。大林組は、鳶、型枠、鉄筋の実務経験2、3年の若手を、東京で3カ月間訓練している。富士教育訓練センターで資格も取得できますから、非常にいい環境になりました。鹿島も協同組合を利用して技能労働者の育成をしています。北海道も訓練校が少なくなったので、協会でも復活させようという動きはあります。
内田 費用は全て大林組が持ってくれるんでしょうか。
鈴久名 助成金は出ますが、給料は会社負担です。現場を3カ月間も抜けるのは正直なところ負担が大きいのですが。
内田 厚生労働省の助成金ですね。長い目で見れば会社にとってもプラスになる。
鈴久名 ええ、スーパー職長を目指し教育するという構想は非常にいい。大林組のスーパー職長は、職長の経験が7年以上で認められ、15年以上はさらに日額手当が増額する。年数だけでなく登録基幹技能者の資格も必要ですが。北海道では今年、我が社の鳶・土工が5人、型枠工、内装、左官、塗装の計9人がスーパー職長に認定されています。
内田 スーパー職長に選ばれた人たちは、何に一番喜ばれますか。
鈴久名 やはり手当です。日額ですから。ただ、どの職種も大林組の現場に入らなければカウントされません。ずっと大林組の現場というわけにもいかないから、日数確保は難しいですね。
内田 北海道の社会保険の加入状況はどうでしょう。
鈴久名 二次請以降は不明ですが、高いと思います。季節労働者が厳しく指導を受けるようになってからは、年金の加入率も増え、この2年で法定福利費の事業主負担の15%をもらえるようになってきました。
内田 北海道は、元請と専門工事業との間で、専門工事業の力が強いのでしょうか。
鈴久名 強い訳ではなく、上手に付き合っていると思っています。国や道への接触回数を増やし、話す機会も多くなりました。
内田 確かに、岩田会長も、同じ課題を抱え、専門工事業界と同じ方向を向いて動けるようになったとおっしゃっておられましたね。
鈴久名 人材不足に合わせ、社会保険の話も同時進行しています。今は、一緒に取り組んでいます。
内田 コミュニケーションの一つの成果ですね。若手にも励みになる。本日はありがとうございました。

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