基金の活動

活力と魅力ある建設産業の実現へ

若手職員が聞くこれからの基金に向けて

INTERVIEW|若者に「修行」ではなく「就職」を 受け入れる会社側の成長を期待したい

語り手:(一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上 花子 氏
聞き手:試験研修本部 試験管理・講習部 柳田 恵美

 一般財団法人建設業振興基金は1975(昭和50)年に設立され、本年7月16日に創立40周年を迎えます。当基金と関係の深い16名の有識者の方にインタビュー形式でこれまでの基金、これからの基金について貴重なご意見を賜りました。ご多忙を極める中、快くお引き受けいただきましたことに心から感謝申し上げます。40周年の先にある新しいステージを目指して、役職員一同、従前にもまして業務に励んで参ります。今後とも関係各位の一層のご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

建設業界の束ね役として、市民とのつなぎ役としても期待したい

柳田 当基金とのきっかけ、印象に残っている事業などありましたらお聞かせください。
井上 2002年、基金に新分野進出に向けた事業を立ち上げていただいたとき、「リ・ガーデンのすすめ」を作ったことです。庭師の知恵と技で、庭園を保守・リフォームをしようという事業でした。以降、女性の業界進出にも関わらせていただき、「登録基幹技能者」の運営委員会や、「建設産業の魅力を発信するための戦略的広報検討会」の委員としても出席をしております。基金の助成金で、子どもたちに造園の仕事を知ってもらおうと、自分の住む町にある造園の仕事を探すパンフレットも作らせてもらいました。もう15年ほどのお付き合いになりますね。


井上 花子 氏

柳田 以前、本誌(2012年4月号)では座談会にも出演いただきました。
井上 『建設業しんこう』では連載も持たせてもらいましたね。最近は、国土交通省の下請団体という基金のイメージも変わってきました。建設業界全体で人を育てるということに、ゼネコンと専門工事業団体を束ねてもらっています。造園は機械化が難しい業界ですから、ものづくりに誇りをもって仕事をしてくれる職人像を育てていきたいです。
 造園は特殊な仕事ですが、ゼネコンの仕事の一部として、一緒に広くものづくりに携わっていること、国土を担っていることを、広く市民に知ってもらいたい。基金には、業界と市民とのつなぎ役になってほしいですね。

 

先生の専門性と指導力の向上が 学生を業界に導くきっかけになる


柳田 恵美

柳田 造園業界では積極的に若い人を採用しようという動きはありますか? また、採用の状況についても教えてください。
井上 東京の採用は増えてきましたが、地域によって差があります。求人票を出しても反響がないといった声も少なくはありません。その背景として、造園業というのは"庭づくり"の分野になると、「修行」という感覚がいまだ残っている会社もあります。でも、若い人にとってみれば、修行ではなく「就職」を望んでいるのです。そこの差というのが、"教えてあげている"という仕事のやり方、給与や社会保険などの処遇、待遇に表れてしまう。
 若い人が就職をしたとき、仕事は学べるのだけれど、子どもができても給料が上がらない。そんな先輩方を見て、本当にこの会社で続けていけるのかと、将来に不安を抱え、定着も悪くなってしまう。
柳田 送り出す学校側も、現場を知らない先生が生徒に教えていると聞きます。
井上 高校の先生の多くは造園関係からの採用ではありません。農業系も食品関係からの採用をしているという現状です。業界のこと、技術的なことも経験が無いために分からない。先生の自信の無さが生徒に敏感に伝わってしまうのです。
柳田 2010年度から、造園連では先生向けの実習をされていますが、その効果に実感はありますか。
井上 効果はあります。先生方も指導力不足に危機を感じ受講されます。その甲斐あって、技能五輪全国大会へ出場する高校も年々増え、まるで「高校生の技能五輪」のようでうれしい悲鳴です。
 例えば、長野県の農業高校では、技能五輪全国大会で銀賞、銅賞を獲得したことで、受験の倍率が上がりました。大会に出場することで、業界が注目されるようになり、人材が集まるという効果も期待できるのです。また、奈良の農業高校では、就職してからも大会にチャレンジを続け、国際予選1位となりました。今度、国際大会でブラジルへ行きます。学生が業界に入っても、こういった流れが続き躍進してくれれば、我々もやってきた甲斐があります。
柳田 技能五輪が果たす役割は大きいですね。造園業界は、今後どのように変わっていくのでしょうか。
井上 今年は農業高校向けに、造園の魅力を伝えるハンドブックを作る予定です。造園業界も農業高校の生徒のうち半数を、業界に送り込むつもりで、先生方にも造園の魅力を伝えたいと思います。農業高校、短大、専門学校と連携を取りながら、子どもたちに夢を持ってもらえるような仕事にしていきたいので、基金には引き続きの支援をお願いしたいです。

 

専門工事業者の経営力強化へ 支援できる職員を育成してほしい

柳田 基金に何かお手伝いできることはありますか。
井上 造園業界は、まだまだ職人の集まりのような10人ほどの小規模の会社が多く、経営や労務管理を知らない人も少なくありません。多くの人に造園の仕事を知ってもらおうという熱心な思いはあるのですが、人を使うという意識が低い。人を使う重みを知ってほしいのです。経営者である親方が会社を辞めてしまえば、自然消滅的に職人も業界から去っていきます。顧客との対話も、会社経営を継続していくことも、本来は仕事の中で学んでほしいのですが、私たち専門工事業団体では、こういった経営について教えることは難しいのです。
 基金には、専門工事業者を対象とした「若手経営塾」のようなものを実施していただき、私たちでは教えられない部分の支援をお願いしたい。会社経営に必要な税務、社保、入札制度などの専門分野に詳しい職員を育ててもらうと「頼りになる基金」になると思います。

 
(一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上 花子


略歴:香川大学農学部園芸学科卒業後、同大学大学院農学研究科園芸学専攻へ進み農学修士。1976年、(社)日本造園組合連合会に入社。同連合会技術技能課長統括部長を経て、2003年より現職。その間、東京都高等造園職業訓練校講師、東京農業大学講師、技能五輪国際大会エキスパート、全国女性造園技術者の会会長などを務める。

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