基金の活動

活力と魅力ある建設産業の実現へ

若手職員が聞くこれからの基金に向けて

INTERVIEW|政策のつなぎ役、将来予測など 基金の立場を生かした事業展開に期待

語り手:厚生労働省 老健局 介護保険計画課長(元国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課長) 榎本 健太郎 氏
聞き手:金融・経理支援センター 経理研究・講習課 荒井 秀一

 一般財団法人建設業振興基金は1975(昭和50)年に設立され、本年7月16日に創立40周年を迎えます。当基金と関係の深い16名の有識者の方にインタビュー形式でこれまでの基金、これからの基金について貴重なご意見を賜りました。ご多忙を極める中、快くお引き受けいただきましたことに心から感謝申し上げます。40周年の先にある新しいステージを目指して、役職員一同、従前にもまして業務に励んで参ります。今後とも関係各位の一層のご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

今建設業の広報に必要なこと 自身の問題として捉えてもらう

荒井 基金とは、榎本さんが国土交通省建設市場整備課にご在籍の頃からのお付き合いですね。
榎本 ええ、平成23年から2年間在籍していました。そこで建設業のことを初めて知ることになるのですが、基金には人材や予算面で、行政の足りない部分を補ってもらい本当に助かりました。
荒井 そのころ、私は金融支援部に所属しており、その折にいろいろとお世話になったことを記憶しています。
榎本 当時の基金は、金融事業だけではなく、経営戦略アドバイザリー事業、下請債権保全支援事業、建設産業人材確保・育成推進協議会の運営、登録基幹技能者制度の運営、富士教育訓練センターの管理と活用促進など、多角的に広く事業を展開している印象が強かったです。
荒井 榎本さんは現在、厚生労働省にお戻りになられましたね。


榎本 健太郎 氏

榎本 そうですね。老健局に戻り、介護保険を担当しています。ご承知の通り、介護業界も人材不足のところが共通します。一方で建設と介護の問題の違いは何かというと、介護は自分の身近な問題として感じることができるところです。自分の親、あるいは祖父母の体が不自由になってくると「何かしらの介護サービスが必要だ」と思います。人材不足の切迫感があります。しかし、建設は問題が見えにくく知り得ない部分が少なくありません。例えば、皆さんインフラはあって当たり前と思っているところがあって、誰がそれを作り、維持・管理しているのかという意識は希薄です。造る姿はまだ見えますが、それ以上にどう維持・管理しているか、なかなか実態が伝わってこない。将来のインフラの維持のためにも人材が必要なのですが、その必要性が切実さをもって伝わってこない。下請の現状や、我が国のインフラの現状、誰が支えているのかが見えていない。業界に任せてもいいですが、基金がもっと都道府県や市町村に働きかけ、より市民に近い地方自治体の問題として、住民自身の問題として意識するようにしてもいいのではないでしょうか。
荒井 確かに、地方自治体に対しても基金から働きかけをするべきですね。
榎本 基金には、そのつなぎの役割をもっと強化してほしいです。

 

将来の見通し予測など 基金がシンクタンク的な役割を


荒井 秀一

荒井 建設業界では処遇面での問題も多いのですが、介護業界はどのような状況ですか。
榎本 労働集約型という意味では、介護業界は人件費が7~8割に及び、生産性がどうしても低いです。効率的に進めなければ保険料も足りなくなります。いろいろな面からの取組が必要なのですが、人手不足である点からは処遇面も課題の一つとして無視できません。この4月から、介護職員の処遇を改善するために、加算という形で給与が12,000円相当上がるよう改定しています。建設業では、公共工事の労務単価は決まっているので、民間の工事にまでどう波及させるかが課題ですね。
荒井 民間工事でも価格競争が厳しくなっており、社会保険未加入の要因になっているようです。国土交通省でもこの問題を大きく取り上げ、工事費用の見積時に法定福利費を明示するよう指導しています。
榎本 社会保険未加入については、私が国土交通省にいたときに始まった問題で、やりかけたまま国交省を去るのは心残りでありました。法定福利費の明示をするように進めても、成果が見えないと全体の士気が下がる恐れもあります。一人親方が多い業界ですから、上からの圧力にやむを得ずダンピングしてしまう。そういった人たちにどうやって声を出してもらえるようにするか。登録基幹技能者から声を掛けてもらうというのもいいですよね。潜在する「WANTS」「NEEDS」をくみ取れるような仕組みを考えていくことが必要ですね。
荒井 2020年にオリンピック開催があるとは言え、将来の見通しがつかなくて社会保険の加入に抵抗があるという人も多いようです。
榎本 将来の見通し予測については、基金がシンクタンク的な役割を担うというのはどうでしょう。介護保険では団塊の世代が後期高齢者になる2025年が一つの大きなターゲットとなっています。これに向けた必要なサービス量を市町村ごとに見通し、現在から基盤整備を計画的に進めることとしていますが、厚労省ではこれを踏まえつつ、人材確保に向けて関係部局を挙げて取り組んでおり、都道府県にも2025年に向けた人材の需要と供給の推計を行ってもらい、確保対策のとりまとめをしてもらっています。こういうことを建設業についても行うのです。本来は行政がやるべきことだという意見もあるでしょうが、基金は中立的な立場です。基金が公表するデータなら信用力があります。霞が関は、現場のリアルな情報が一番入ってこない場所です。役所にいても現場のことは分かりません。一方国会議員の皆さんは地元を丁寧に回っているから熟知している。基金も同じように現場を回って聞いた声を踏まえながら是非役所につないでいってほしいですね。

 

業界のサイレントな部分に もっと目を向けるべき

荒井 基金では、施工管理技術検定試験、構造改善事業、建設業経理士検定試験など、幅広く事業をしており、私の部署では工業高校生を対象に年間1,000人ほどの建設業経理事務士特別研修を行っています。
榎本 将来の人材確保のために若い人たちに働きかけをすることは重要です。いずれこの人たちも社会に出ますが、そのときに、建設業に関する正しい情報が伝わっていないのは人材確保を進める上で問題です。
荒井 私たちが情報を交換させていただけるのは業界団体の方がほとんどで、企業や労働者、若い担い手までは情報が届いていないことも課題です。
榎本 行政も同じです。やはり、本当に伝えたいのはサイレントマジョリティと呼ばれる人たち。国交省や基金は日頃は事業者団体や事業者団体の都道府県団体ないし、それぞれの段階の経営者の皆さんとの間で意見交換をすることが多いですが、中小下請の親方・建設労働者の人達が実は建設労働者の大半を占めます。ところがこの人たちは組織化されておらず、サイレントなので実態を把握することが難しい。かねてからの課題ですが、こういった人たちに目を向けることが大切です。建設業も介護業界も個人でやっているような事業者が多い。従業員を守っていく体力と知恵をこういう事業者の皆さんにいかに付けていくか......。地道な努力ですが、そのための材料を基金に提供してほしいです。

 

変化する時代の中で 枠にとらわれない発想を

荒井 基金の今後の方向性についてアドバイスをいただけますか。
榎本 何があっても建設業が社会の基盤を担っていくことに変わりはありません。その中で、単なる行政の代替組織ではない、行政機関ではできないことを積極的に進めていくことが基金のあるべき姿だと思います。業界全体を俯瞰して、政策のつなぎ役を担ってほしいですね。業界を先読みできるベストポジションにいるわけですから。
荒井 基金の若手に対してアドバイスをいただけますか。
榎本 若い人は目の前の仕事を覚えることに精いっぱいでしょう。しかし、今が未来永劫そのまま続くわけではない。常に先を読むという意識が大事です。いろいろと変化することを念頭にして、既成概念の枠にとらわれないことが重要。業界の古い慣行にとどまっていては斬新な発想になりません。建設業の枠にとらわれすぎないことも大事かもしれません。そのためにも多くの人と会うことですね。
荒井 私の下にも20代の職員がいますが、人脈の大切さは常々話しています。
榎本 現場に出掛けていって職人さんと話をするとか、そういった経験を多く積み重ねることが大事です。若い人こそ柔軟な発想を出し得る立場にあり、常にそれを引き出せるよう準備しておくべきだと思います。
荒井 貴重なご意見、どうもありがとうございました。

 
厚生労働省 老健局 介護保険計画課長(元国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課長) 榎本 健太郎


略歴: 1966年生まれ。1989年厚生省に入省。北海道開発庁や石川県(厚生部長寿社会課長)への出向等を経て、2005年老健局総務課企画官、2007年厚生労働大臣秘書官、2010年年金局事業企画課年金記録回復室長、2011年国土交通省土地・建設産業局建設市場整備課長、2013年7月より現職。

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