基金の活動

活力と魅力ある建設産業の実現へ

若手職員が聞くこれからの基金に向けて

INTERVIEW|経営改善の推進役として10年先の基金に期待したい

語り手:(一財)建設経済研究所 客員研究員 六波羅 昭 氏
聞き手:管理研修部 講習課 板岡 秀忠

 一般財団法人建設業振興基金は1975(昭和50)年に設立され、本年7月16日に創立40周年を迎えます。当基金と関係の深い16名の有識者の方にインタビュー形式でこれまでの基金、これからの基金について貴重なご意見を賜りました。ご多忙を極める中、快くお引き受けいただきましたことに心から感謝申し上げます。40周年の先にある新しいステージを目指して、役職員一同、従前にもまして業務に励んで参ります。今後とも関係各位の一層のご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

今後10年の変化への対応力に期待 当基金の機能・役割について

板岡 当基金の設立当時のことをお聞かせいただけますか。
六波羅 40年前、基金が設立された直後、1976年に建設省の建設振興課金融専門官として基金と関わることになりました。高度成長も終わりを迎え、日本経済は先行き不透明の中、中小建設業の経営体質の強化、共同事業化などを推進する方向へ産業政策がシフトしていった時期でした。国の出損金の他たくさんの業種の建設業団体、保証事業会社からの出損金を基金にして設立されましたから、多くの団体の熱い期待を感じたものです。スタート時の基金は、協同組合などの債務保証を事業の中心にしており、将来展望については心細い思いもあったように記憶しています。
板岡 これからの10年を考えた場合、基金の役割に何か期待することはありますか。


六波羅 昭 氏

六波羅 基金が建設業の構造改善問題に取り組んだとき、大きな力になったのは建設生産システム合理化推進協議会(1991年発足)であったと思います。建設生産システムは、現在も多くの問題を抱えていますが、総合工事業と専門工事業の代表が率直に意見を交わす場がとても大事です。それを基金が用意し、行政側にも参加を求めてたくさんの課題をこなしていった。4週6休制の推進、契約締結に至る適正手続き、技能労働者の教育訓練、週40時間制実現への課題、業種別工事見積もり条件の明確化など具体的なテーマを取り上げて成果を上げました。もちろん多くは現在も重要な課題として残っています。
 現在、国土交通省では関係団体の代表や種々の分野の専門家から構成される委員会や会議を運営していますが、基金にはさらに産業界の中のさまざまな立場からの意見、考え方を掘り起こすような取り組みを期待しています。
 また、基金はこれまでも建設業界の実態把握に欠かせない元請・下請関係、基幹技能者などに関する実態調査を実施してきました。実態把握があって新しい事業が始まるわけですから、今後とも力を入れてほしいと思います。

 

今後は労働者の立場からの声も 受け止めていく必要がある


板岡 秀忠

板岡 当基金の中小建設企業への役割について、ご意見をお聞かせください。
六波羅 これまでも基金がCI-NETの普及など中小建設業のICT活用による経営改善、あるいは新分野への展開支援、共同事業化などを推進してきた実績は大きいと思います。最近は、若い人の建設産業への入職が著しく減少しています。建設業の地域社会貢献、ものづくりの面白さなどを若い人たちにアピールしようと建設産業専門団体連合会(建専連)がホームページで「職人さんミュージアム」を開設していますが、各団体のこうした取り組みを応援するのも基金の重要な役割でしょう。
板岡 ここ20年の建設業界の変化についてどう思われますか。
六波羅 例えば、社会保険未加入問題は、10~20年前にはもっと深刻であったと思います。建設業の市場が伸びているときには、問題が外に出ることはなかった。市場が縮小し、若者がこなくなって問題に気が付いた。社会保険については、未加入者対策が急速に効果を上げているようですが、若者に魅力的な建設産業をつくるためには、まだまだ手を抜けない。賃金水準、キャリア・パスの形成、現場の就労環境等々たくさんの問題が残っています。2002年には建専連が法人化されて、総合工事業団体あるいは行政と意見交換の場が頻繁に設けられるようになったことは重要な変化であったと考えています。
 外からは見えないままの建設労働者が抱える問題についても、何とかして知る努力が必要だと思います。建設関係の労働組合はいくつかありますから、率直な意見交換の機会をつくっていただきたいものです。建設技能労働者の労働条件の改善のためには、技能労働者一人ひとりの教育訓練の実績、就労現場と役割などの就労履歴の保存管理と活用が必要です。国土交通省は、就労履歴管理の仕組みづくりに関心を寄せているようです。今後の展開が期待される分野です。

 

10年先を見越した経営支援を 海外約款に慣れる仕組みが必要

板岡 この3年間『建設業しんこう』に、建設生産システムについて連載をいただきましたが、特に強調したいテーマは何でしょうか。
六波羅 強調したいのは、中小建設業であっても国内市場ばかりをあてにするのではなく、海外進出について真剣に考えるべきだということで、基金もこれについて以前から問題提起をし、情報提供など後押ししています。もちろん、すでに動き出して成果を得ている企業も多いようですし、中・長期的に見て建設市場の縮小傾向は避けることができない情勢ですから、企業の存続・発展のための有力な選択肢として考える必要があります。
 一番の問題は、日本の企業は海外工事の契約約款や慣行になじんでいないために赤字を出す失敗が多いことです。これには、国内の標準契約約款と海外工事の標準的約款であるFIDIC約款との差が極めて大きいことが影響しています。国土交通省もこの問題は強く認識していて、2010年の標準約款の改正で受発注者の協議に参加できる調停人を置くことができることとしました。しかし、このような調停人制度はほとんど使われていない。また、FIDIC約款に倣って第三者技術者を置く契約を国内の公共工事で試行した実績もありますが、その後のフォローアップが不十分のままです。こうした制度導入のカギは調停人や第三者技術者が務まる人材の確保ですから時間がかかるのは分かりますが、工程表を作ってしっかり取り組んでもらいたい。このままでは日本企業の国際競争力はさらに劣化が進んでしまう懸念があります。
 国内工事でも、例えばWTO政府調達協定の対象工事については、FIDIC約款に近い契約約款を用意するなどして、国内でも海外約款に慣れることができる環境をつくることができると思います。相当に思い切った対応を必要としています。

編集部注:【FIDIC約款とは】建設工事やプラント工事などで、発注者・施工業者間などが結ぶ契約条件を記載したものであり、国際建設契約のディファクトスタンダードとして広く使用されている

 

興味を持てるテーマを探し 時間をかけて挑戦してほしい

板岡 最後に、当基金の若手職員に対してのメッセージをいただけますか。
六波羅 人材育成、労働条件、ICT活用、生産システム、元請・下請関係、海外進出、契約約款、応札行動、調達方式、関係法令、産業政策などに関して建設産業はさまざまな興味深い課題を抱えながら動いています。企業の形も創業1400年という世界一長い社歴を持つ会社もあるし、新たな理想を掲げて近年設立された会社も数多い。私もこれらの問題に興味を持ってきましたし、とりわけ建設市場の適正な競争性の確保については、ずいぶん考えてきましたが、おそらく答えのない問題でしょう。
 基金に入られた若い皆さんは、このように興味尽きない建設産業との付き合いが始まったのですから、興味の持てる大きなテーマを見つけて、時間をかけて答えを出していただくように期待しております。
板岡 本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございました。

 
(一財)建設経済研究所 客員研究員 六波羅 昭


略歴:1965年建設省入省。経済企画庁、公正取引委員会事務局、環境庁、国土庁などに勤務。建設経済研究所理事、勤労者退職金共済機構副理事長、建設業情報管理センター理事長を歴任。

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