お役立ち・支援

知っておきたい元請・下請の契約関係

第4回 下請契約の管理 ― 契約変更への対処 ―

(一財)建設経済研究所客員研究員 六波羅 昭

1.下請契約管理の実態

1205_12_motouke_1.jpg

 建設業における契約管理とは、所期の金額・工期・品質の工事を完成させ、契約成果(下請受注者にとっては利益、発注者にとっては全体工事の円滑な進行)を確保するために、施工中に惹起するあらゆる事象に対処し、契約変更や紛争などの諸問題を解決するための重要な技術の一部である。契約書などにいくら立派に双務的な権利と義務が規定されていても、施工プロセスにおいてタイミングよく義務を果たし、権利を活用することがなければ成果は得られない。
 今回は、契約変更への対処に着目し、まず、「下請取引等実態調査」(平成23年度)の結果からどのような問題があるのかを見ていこう。

①追加・変更契約締結の有無

 追加・変更工事が必要になり請負契約書の内容を変更するときには、追加工事等の着工前に変更内容を書面に記載して署名又は記名押印のうえ相互に交付しなければならない(建設業法第19条第2項)。実態調査の結果、「契約変更を行わずに工事を下請に行わせている」が21%、そして「発注者との間で契約変更がなされない場合でも下請契約の変更を行っている」適正な対応は36%である。大臣一般許可あるいは知事許可業者の場合は過半が不適正という結果である。

②追加・変更契約の方法及び時期等

 契約書又は基本契約約款の作成、追加・変更契約の締結時期等については、いずれも当初の請負契約の場合よりかなり適正率が低い。
とくに変更契約は着工前に行わなければならないのだが、適正契約は45%とかなり低い。

③追加・変更の内容が確定できない場合の対応

 追加工事の全体数量が事前に確定できないなどの場合には、工事着工前に当該工事が変更契約の対象であること、契約変更を行う時期、契約単価等を記載した書面を元請、下請間で取り交わす必要がある(国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」)。この点についての実態は、適正率がわずか9%という低率である。

2.契約変更をスムーズに行うために

①施工条件変更等に対する協議態勢

 第一のポイントは、施工条件の変化に迅速に対応できる体制づくりである。建設工事は、現地条件(地形、地質、地下埋設物、周辺条件、気象条件)、設計条件(設計変更、設計不備)、他工種工事などとの綿密なすり合わせによって良い成果を得ることができる。このすり合わせプロセスを円滑に進めるためには、責任ある関係者による協議及び意思決定体制を用意しておく必要がある。契約当事者双方の現場代理人(元請側の監理技術者又は主任技術者、下請側の主任技術者が兼務する場合が多い)が契約履行の責任者であり、キーパーソンである。両者が施工条件に関する情報を共有して条件変化に迅速に対応しなければならない。なお、監理技術者及び主任技術者については、当該工事の元請、下請それぞれの請負会社との直接的かつ恒常的雇用関係が必要である。

② 三者会議から四者会議へ

1205_12_motouke_2.jpg

 前述の実態調査を見ても、追加・変更工事の承認が得られないケースが少なからずあり、これが下請工事の採算性に影響を及ぼし、品質の問題に波及するなどのマイナスはきわめて大きい。国や都道府県の発注工事では、三者会議、設計変更会議、ワンデーレスポンスなど施工条件の変化に迅速かつ効率的に対処する仕組みを採用する動きが広がりつつある。施工プロセスの多くが下請契約のもとで進められている実態があり、原則的に発注者・設計者・元請・下請の四者が協議に参加し、施工情報を共有し、意思決定する体制が必要だ。国土交通省の各地方整備局では、三者会議の構成について、発注者、設計者、施工者の三者のうち施工者に関しては必要に応じて下請施工者の参加を求めるとしている。
 近年、独自の「設計変更ガイドライン」を作成して設計変更を行う要件及び手順等を事前に明示する公共発注者(各地方整備局、都道府県等)が急増している。中部地方整備局の「設計変更ガイドライン」を例にすると、設計変更が円滑、迅速に行われるための留意点を具体的な例示をあげて説明している。ガイドラインは元請契約に関するものであるが、同様の問題は下請契約においても発生するのであり、下請関係をも含めたガイドラインを用意すべきである。
 このガイドラインによれば設計変更が確実に実施される要件は、発注側、受注側がともに当初の施工条件の確認と明示を徹底することである。下請契約においてもこの点は同様であり、さらに下請工事の施工に影響がある元請工事の施工条件及びその変更についても迅速な確認が必須といえよう。

次回は、下請契約の適正な管理にとって重要な「元請・下請関係の見える化」をテーマにする。

ページトップ

最新記事

  • 経営に活かす管理会計 第10回|管理会計の利用と人材育成の方法を変える

    経営に活かす管理会計 第10回|管理会計の利用と人材育成の方法を変える

    中小企業診断士・社会保険労務士 手島伸夫

    競争の時代には、戦略的に№1になることが重要になります。市場では、価格と品質が良い1社しか受注できないからです。したがって、自社の「強いところ」をさらに強くして№1になるように経営資源を重点的に投下する「選択と集中」が重要になります。...続きを読む

  • 経営に活かす管理会計 第9回|建設企業の資金管理

    経営に活かす管理会計 第9回|建設企業の資金管理

    四国大学経営情報学部教授/㈱みどり合同経営取締役 藤井一郎

    資金管理とは具体的にどのような活動なのでしょうか。『ファイナンス戦略』などと言われる資金調達手法の検討、投資効果の話を聞く機会が多いかもしれません。もちろん、それも正しい考え方の一つですが、...続きを読む

  • 金融支援事業の利用事例

    金融支援事業の利用事例

    金融支援事業のメニューである「下請セーフティネット債務保証事業」「地域建設業経営強化融資制度」などは、それぞれに利用メリット等の特徴があります。本頁では、制度をご利用いただいている企業および団体に制度利用の背景などについてお話を伺いました。...続きを読む

  • 金融支援事業

    金融支援事業

    国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課 建設市場整備推進官 後藤 史一氏
    聞き手:建設業しんこう編集部

    建設業振興基金は、昭和50年、中小建設業者の金融の円滑化や、経営の近代化、合理化を推進し、建設産業の振興を図る組織として設立され金融支援事業の一つである債務保証事業はこの時スタートしました。...続きを読む

  • 経営に活かす管理会計 第8回|マネジメント・コントロール ―部門業績と組織業績の斉合性―

    経営に活かす管理会計 第8回|マネジメント・コントロール ―部門業績と組織業績の斉合性―

    慶應義塾大学商学部教授 横田絵理

    大規模な組織になり、その中の組織単位(部門)に大きな権限委譲がなされればなされるほど、組織全体の目標と組織内組織の目標を同じ方向にすることが難しくなります。...続きを読む

最新記事一覧へ