この連載も14回となり、今回でひとまず終了したい。契約という実務的な側面から建設工事の元請・下請関係の問題点と改善方策を考えてきた。元請企業、下請企業は建設生産システムの主要な構成員であり、元下間の契約関係は生産システム内部の業務分担とそれに応じた責任のありかを決めている。施工組織としての元下関係が契約に基づく成果を挙げるためには、双務的な契約管理と十分な情報交換が必要である。生産システムが自社組織による内生から協力会さらに市場調達と次第に外注化するに従い、構成員間の信頼関係、情報共有といった協働作業に欠かせない連携が難しくなってくる。これに対して日本と同じ元請・下請生産システムを採る米国、英国が試みた対応がパートナーシップの構築、具体的にはパートナリングであった。日本の場合も答えはパートナーシップの強化にある。
1.施工協力会とパートナリング
日本の建設生産システムが直面している問題としてまず挙げたいのは、下請・専門工事の調達方法が図のように大きく動いていることである。市場の縮小、受注減少と競争激化による低価格指向、元請企業の営業・企画開発・設計など上流展開、専門工事業の経営力・技術力の蓄積などが進むことにより市場調達が中心になった。2010年のアンケート調査※1によると、元請企業の下請選定方針については「従来の取引関係に関らず新規業者を含めコスト優先」が6割に近い。また、下請企業と元請企業との関係については、「依存度が高い元請又は上位下請は特にない」が、4割強、「特定の2社又は3社への依存度が高い」が4割強、「特定1社への依存度が高い」は14%であった。
元請企業、下請企業とも特定企業との長期にわたる取引関係維持にこだわるよりも新しい取引先を探すことの方にメリットを見つけているかのようだ。
日本の建設生産システムで伝統的にみられる企業系列すなわち施工協力会は、長期の安定した取引関係を前提にして技能者の確保・養成・キャリアアップを可能にしてきた。技術・技能の継承が行われ、施工グループ内の工法、工程間のすり合わせの熟練によって優れた品質、工期遵守と高い生産効率を実現してきた。しかし、中核となる元請ゼネコンに情報と意思決定が集約され、片務的で透明性に欠ける組織体質を残している。施工協力会が弱体化して市場による都度調達で生産システムが形成される場合は、相互の意思疎通、施工情報の共有による品質と効率の達成に向かって、パートナーシップ関係をいかにして作り出していくか課題となる。
「建設業における系列とパートナリングの比較分析」※2によると、日本の系列生産システムとパートナリングの共通点としては、目指すべき理念(win-win)、参画者の関係(運命共同体)、行動規範(信頼と協調)など共通するものが多い。両者の相違点としては、プロジェクト遂行組織、コミュニケーション、関係の明示性、公平性の確保など管理手法や透明性に関係する事項が多くあげられている。
施工協力会では暗黙の信頼によって関係が継続維持されてきた。建設市場の拡大が保証される状況であれば中長期にwin-winや公平性を確保できるが、近年のような市場縮小の状況下では無理がある。
2.三者協議等によるパートナーシップ強化の動き
近年、国や都道府県の発注工事では、三者会議、設計変更会議、ワンデーレスポンスなど施工条件の変化に迅速かつ効率的に対処する仕組みを採用する動きが急速に広がってきた。工期順守、設計変更の円滑な処理などに大きな成果がみられている。
下請契約に基づく元請・下請間のさまざまな協議調整についても同様の対応がなされるべきであろう。すでに施工プロセスの多くが下請契約のもとで進められている実態があり、原則的に発注者・設計者・元請・下請の四者が協議に参加し、施工情報を共有し、意思決定する態勢が必要である。国土交通省の各地方整備局では、三者会議の構成について、発注者、設計者、施工者の三者のうち施工者に関しては必要に応じて下請施工者の参加を求めるとしている。
3.日本型パートナリングへ
米国、英国、オーストラリア、香港などで実施されているパートナリングは、激しい価格競争のもとで成立した工事請負契約が、クレーム処理などに多くの時間と経費が費消されて契約成果が悪化したことから、施工関係者の協力と信頼に基づく協働態勢づくりを目指したものである。各国それぞれのやり方で行われているが、「パートナリングは協調的協働への自発的コミットメントであり、目的達成のためのビジネス関係のあるべき姿を示す普遍的理念として契約行為を根底で支えるものである」※3。したがって、施工関係者を相互にパートナーと位置付けたうえで、三者協議などこれまでの経験を生かした形で日本型のパートナリングを目指すことが十分可能だろう。
日本の建設市場の実情において、パートナリング構築にあたって特に注意すべき点としては、まず、①発注者と請負者の対等な立場の構築、②パートナリング関係の明示性の二点をあげるべきであろう。
パートナリングの基盤となるこれらの条件を満たしながら、信頼と協調、長期的視野、話し合いによる合意など日本の企業間関係が持つ長所を生かすことが日本型パートナリングへの道ではないだろうか。
※1 建設経済研究所「建設経済レポートNo.55」2010年10月
※2 金多隆 吉原伸治 古阪秀三(日本建築学会第21回建築生産シンポジウム2005)
※3(一社)海外建設協会「PARTNERING海外に学ぶ建設業のパートナリングの実際」2007