1.発注者と施工現場の距離
発注者は元請会社と請負契約を結ぶが、一般に現場施工は元請会社と各種の専門工事業者との下請契約に従って行われる。多くの場合、下請契約の内容には発注者はノータッチであって、発注者は現場施工に携わる下請会社を知らないし、何か変更する必要が生じたときには、監理者あるいは元請業者の現場代理人、監理技術者等に伝えることになる。このように現場の最新情報を手にする下請会社と発注情報を手にする発注者との間の情報の流れに滞りが生じた場合には、コストや品質に影響することになる。また、このことは下請契約の契約管理にとっても大きな意味を持つ。
建設現場の可視化
今回は、発注者と施工現場の距離を縮める建設現場の可視化をテーマとする。はじめに、建設現場の可視化に大きな役割を持つ施工体制台帳などについて、下請取引等実態調査の結果(平成23年度)を見ておこう。
2.施工体制台帳・施工体系図作成の実態
施工体制台帳・施工体系図の義務化
平成6年の建設業法改正によって、特定建設業者は、下請契約の請負代金が3,000万円(建築一式工事では4,500万円)以上となるときには、施工体制台帳・施工体系図の作成が法定義務となった(建設業法第24条の7)。この時の法改正は一般競争入札方式の実施など入札契約制度の大改革の一環として行われた。海外企業の参入を前提に競争促進を図る一方で、技術と経営に優れた企業が伸びられる市場環境を整備する目的を持っていた。下請関係を中心とする施工体制が外部からも見えるようにすることで、特定建設業者の元請としての適格性を見ることができるのである。
下請取引等実態調査(平成23年度)の結果をみると、民間工事では施工体系図の作成率が5割強とかなり低いものの、公共工事などではほぼ適正に作成されている。しかしながら、義務付けられている書類を添付していないものが公共工事で43%、民間工事では71%の高率を示している。建設業法施行規則に規定する添付書類は、表に掲げる3種である。
3.施工体制台帳の活用による
元請・下請関係の見える化
契約で生じる問題の解決策
元請契約と下請契約の骨組みは異なるものではない。契約条項は本来等質のものでよい。建設業法第19条1項は、請負契約の内容として欠かせない事項を14号にわたって列挙している。これらは元請契約、下請契約の別なく契約の内容でなければならない。すでにみたように、契約内容が不適切であることや不当なしわ寄せの問題などは下請契約の段階が多い。こうした不当なしわ寄せが施工の品質や安全性に影響するのであり、発注者が無関心なはずはないのだが、実際は見えていないのである。この問題に対しては、「元請・下請関係の見える化」を進めることで解決に近付くことができる。施工体制台帳は、そのためにあるといってよい。
下請工事の内容、工事状況の把握
施工体制台帳の記載事項は表のとおりであり、これを工事現場に備え置き、発注者の閲覧に供しなければならない。また、下請負人は再下請発注したときは、再下請先の名称等、工事内容、工期等を元請の特定建設業者に通知する義務が生じる。二次以降の下請負人も同様に再下請発注を行ったときには下請発注者に再下請通知書を提出しなければならない。この通知書があって施工体制台帳が完成する。重層下請化した施工体制を把握するカギは、この再下請通知書がもれなく提出されているかどうかにかかっている。
さらに、各下請の施工分担を表示した施工体系図を作成し、現場の見やすい場所に掲示しなければならない。施工体制台帳、施工体系図を発注者が活用することにより、下請工事の内容、工事の状況を把握することができ、また、必要と考えれば発注意図などの情報を現場に伝えることができる。
表 施工体制台帳の記載事項と添付書類
記載事項 |
①自社(元請会社)のすべての許可業種と許可の種類(特定・一般)
②請負った建設工事の名称、内容、工期、発注者の名称等、発注者が置く監督員の氏名及び通知事項(監督員の権限、意見申出方法)、自社の現場代理人の氏名及び通知事項(監督員の権限、意見申出方法)、現場に置いている監理技術者の氏名及び管理技術者資格等、専門技術者の氏名及び主任技術者資格等
③すべての下請負人の名称等、許可番号及び請負った建設工事にかかる許可業種(許可業者の場合)
④下請負人が請負った建設工事の名称、内容、工期等②と同様の事項 |
添付書類 |
①当該建設工事の元請契約及び下請契約の契約書と変更契約書の写し
②監理技術者の資格者証等及び雇用関係を証する書面(健康保険被保険者証)等の写し
③主任技術者の資格証及び雇用関係を証する書面(健康保険被保険者証)等の写し |