前号で述べたように工事価格下落の下請代金へのしわ寄せは、建設現場を支える施工力の劣化に直結し、発注者の品質不安を増幅する。したがって、適正な下請工事見積金額をもとに元請金額が積算される仕組みを作ることは、極めて重要な意味を持つ。いくつかの具体的事例をみていこう。
1.米国マサチューセッツ州の下請入札システム
下請契約の適正な金額を確保する方策として知られるのが米国マサチューセッツ州の下請入札システム(filed sub-bid system)である。州法に基づき、州発注の建築工事(一般建築物のほか下水道処理施設、浄水場、ガレージ、タンクなどを含む)について、各職種(屋根ふき・金属窓枠・防水・タイル・ガラス・塗装・配管・空調・電気工事・石工など10数種)の下請工事のうち見積価格が1万ドルを超えるものは下請入札が必要になる。この場合の入札プロセスは表1のようになる。
米国でも下請入札システムを採用している州はここだけであるが、各職種のサブコンから見積金額をとって、これをもとに入札金額を決めるのは一般的であり、見積をとったサブコンの提示を求める発注者も多い。
英国には、高度な技術等を必要とする場合、発注者が下請入札を行ってサプライヤーを決定する指名サプライヤー方式がある。元請ゼネコンは、指名サプライヤーとその下請入札金額で下請契約を結ぶことになる。
2.オープン・ブック方式
適正な下請契約金額とその内訳を元請金額に反映させる方法として、宮城県は平成16年度からオープン・ブック(施工体制事前提出)方式を実施してきた。宮城県の方法は表2の手順による。
宮城県の方式は、各職種の下請業者から入手した見積金額や労務費をもとに元請業者が作成する「工事費内訳書」によって、元請・下請の施工体制全体について施工能力、請負金額の適正さを発注者が確認する優れた方法である。しかし、福島県が平成19年度から始めたオープン・ブック方式の試行件数を拡大しつつあるのを除いて、このような手法の導入が拡大する動きはみえない。その理由は発注者・受注者双方の事務量が多いこと、下請会社を長期に拘束して変更できないことなどにあるようだ。宮城県では、Excel様式を用意して「工事費内訳書」がスムーズに作成できるように工夫をしている。
3.国土交通省による下請見積提出方式の試行
国土交通省は、下請業者の見積内容、下請業者への支払金額などの確認によって適正な契約金額の確保を推進するため、本年度から下請見積提出方式の試行を始めることとした。手順などは表3のようになる。
4.今後への期待
今回の試行では対象となる専門工事が限られているが、下請工事の見積額が元請契約金額に含まれていること及び最終変更後の下請契約金額の確認を発注者が行うなど宮城県が実施するオープン・ブック方式と重なるところが多々ある。
ここに取り上げた諸方式のねらいはほぼ同じだが、発注者の関わり方に違いがある。どれを採るにせよ広く普及させるためには、発注者、受注者双方の負担を極力小さくしながら効果的な方法を工夫する必要がある。
今年1月に最終報告書が公表された国土交通省の「建設産業の再生と発展のための方策2012」は、「対策1:適正な競争環境の整備」の一環として「下請契約における支払の透明性の確保」をあげて、法定福利費を内訳明示した標準見積書の作成を着実に進めるとしている。東日本大震災の被災地で復興まちづくり事業にあたるUR(都市再生機構)がCMあるいはオープン・ブック方式等を導入することにしており、これらの取組みを通じて元請・下請間の契約金額、契約内容の適正化及び透明化に新しい展開がみられることを期待したい。