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経営に活かす管理会計 第4回|ビジネスにおける計画力と意思決定の質を高める

日本マルチメディア・エクイップメント株式会社 代表 高田守康

 企業経営でも現場運営でも、事前の計画力を高めることは、事後にバタバタと対策を打つよりずっと効果的です。経営者も技術者も、各々が担当する事業の未来を予測して、綿密な計画を立案する能力が求められています。企業活動で発生する膨大な情報を活用して、意思決定の質を高める能力は、健全な企業活動を支える基本的な資質であるといえます。
 今回は、ビジネスにおける計画力と意思決定の質を高めるポイントを紹介しましょう。


 
 


  計画力を高める

 まず初めに、自分が置かれている状況に問題や課題が存在するのか、を認識する能力が問われます。同じ状況を見て、ある人は問題に気がつき、別の人は問題に気がつかない、としましょう。これは問題であると認識できなければ、解決しようという動機も解決すべき目的や目標も生まれません。
 人は空腹を認識すると、手持ち資金や食材の在庫を確認します。資金が豊富にあれば、人気レストランに出かけて、素敵なランチを食べる、という選択ができます。資金が不足している場合は、即席ラーメンの在庫を調理して食べる、という意思決定をするでしょう。そして必要な食材と食器や調理器具を準備して、必要量のお湯を沸かして麺をゆでながら、麺つゆやネギ、薬味を準備します。この手順を考える力が計画力です。
 ビジネスも同様に、日々発生する問題を認識して、その問題を解決するための計画を立案し、実行する能力が必要であり、そのプロセスで下される意思決定の質が問われます。
 特にビジネス上の計画力を高めるには、次のようなポイントが重要です。

 ❶ 問題を正確に把握して、解決すべき目的や目標を明確にすること
 ❷ 問題や目的、目標を文書として可視化すること
 ❸ 目的、目標と手段を取り違えないこと
 ❹ 計画は一つだけでなく、複数の代替案を用意すること
 ❺ 常に状況を把握して、的確に計画を更新し続けること

 これらのポイントを踏まえ、計画を「条件(意思決定)の組み合わせ」として記述すると、明確で実用的な計画が立案できます。この伝統的な手法として、「ディシジョン・ツリー(意思決定の木)」があります。

 


 意思決定の質を高めるポイント

図 道路ネットワークのルート選択

 解決すべき問題が顕在化したとき、問題を解決するために未来を予測して、計画を立案する際の意思決定には、次の3つのパターンがあります。

(1)熟慮すれば、結果が明らかであるケース
 現在地①から目的地⑧まで、急いで移動する場合、どのルート(ABC)を選択しますか?(11ページ上図参照)
 このケースは、最もシンプルな意思決定で、時間が最短となる「ルートA」が正解です。この問題を検討して気づくのは、「前提条件が変わると、意思決定の結果が変わることがある」ということです。意思決定の前提条件が「移動を急ぐ」のではなく、「観光をする」だったらどうでしょうか。ルートA(15分)は全線がトンネルのバイパス道路、ルートB(30分)は交通量が多い旧道、ルートC(60分)は絶景の展望が楽しめる観光道路だとしたら、意思決定の結果は「ルートC」になるでしょう。
 意思決定をするときは、採用可能な案を全て書きだした上で、前提条件を明確に定義して、同じ条件で比較検討の上、判断しなくてなりません。
 この問題は、道路ネットワークの最短時間ルートを選択するという例ですが、同形のモデルを建設業の施工計画に読み替えると、最長経路を示すクリティカルパス(ルートC)を管理するには、「ネットワーク工程」が不可欠であることが明確にわかります。

(2)熟慮すれば、結果が確率的に推定できるケース
 多数の事象を観測した値から、統計的に確率を求めて、これをもとに意思決定を行うケースです。例えば性別・年齢別の平均余命をもとに設計される「保険商品」などが、このケースに該当します。
 もう一つが、事前に考えられる先験的な確率を想定することで、意思決定を行うケースです。例えば、サイコロの出目は、1から6まで概ね6分の1の確率だと言われ、実際にサイコロを振り続けていくと、1から6までの出目のバラつきは小さくなります。経験を積むほどカン(推定)が鋭くなるパチンコや麻雀は、このケースに当たるでしょう。(ただし、イカサマはなしですよ)
 最近では、主観的な事前確率をもとにもっともらしさのモデルを定め、その後に得られたデータでモデルを逐次更新し、より確度の高い事後確率を求める「ベイズ推定」が注目を浴びています。
 これらのケースでは、データをもとに統計的な推定値を求めることができるので、手続きを踏んで熟慮することで、より正しい意思決定が可能です。

(3)熟慮しても、結果の予想が困難なケース
 近年のビジネスにおける企業の意思決定では、(1)にも(2)にも該当しない、不確実性が高いケースが多くみられます。その特徴は、先例が見当たらないこと、意思決定のパターンが非常に多様であり、同条件での意思決定が1回きりで反復できないなど、確率的な推定や意思決定が困難なことです。この場合は、「意思決定の目的達成のために最も良い結果を導く」という基準を設けて、合理的な意思決定を行うための前提条件を整理することが有効です。例えば、時間と労力が許す限り、きめ細かな事業シナリオを考え抜いて、前述のディシジョン・ツリーを書き上げる方法が有効です。
 また、意思決定のために投入できる時間や労力に限りがある時は、多くの識者の意見を集約して意思決定を行うデルファイ法や、経験者の直感を活かすヒューリスティックが有効とされています。この方法は結果を証明できる意思決定法ではありませんが、バイアス(偏り)に注意して用いることで、節約できる時間や労力の価値を考慮すると、総合的に有利な意思決定ができる手法です。

 


  結びとして

 ビッグデータを背景に機械学習やディープラーニングなど、近年発達中の人工知能技術によって、意思決定の質が飛躍的に高まることが期待されています。しかし画期的な技術が開発されても、人間の意思決定そのものは無くなりませんし、意思決定プロセスが変わるわけでもありません。人の人たる知的活動の根幹は、未来予測とそれに基づく計画力です。計画を立案するために意思決定が繰り返され、それが状況変化とともに、生きている限り繰り返されるのです。ビジネスにとって重要な計画力と意思決定の質を高めるため、おおいに勉強に励んでください。

 

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