企業経営改善

建設業の新規年間海外受注高2兆円以上」を目指して

建設業の海外展開

国土交通省土地・建設産業局建設業課 国際建設振興室国際調整第一係長 新田 翔
NPO中小建設業海外活動促進支援会(通称NPOCOS)理事長(国土交通省 海外展開支援アドバイザー)鐘江 敏行

 戦後日本の建設業の海外進出は、東南アジア諸国における賠償工事から再開し、1970年代以降は中東の建設需要、1980年代以降は、日本の製造業の海外進出とODAの拡大に伴って、その受注を増加させてきました。こうした状況を背景に、政府や国土交通省は、これまで各種の成長戦略において建設業の海外展開促進策を掲げてきました。そこで今回の特集では、「建設業の海外展開」をテーマに、政府の成長戦略における位置付けや、建設各社の取り組みの事例などをご紹介いたします。

 

国内ゼネコン2社の海外展開

大成建設株式会社

●大成建設の海外展開の歴史

 国内建設市場の縮小が続く中、海外市場の開拓で活路を拓く事業戦略を推進しているのが大成建設である。その歴史は戦前に遡って大倉土木(大成建設の前身)時代に始まり、戦後では、1962年竣工のホテルインドネシア(インドネシア)を皮切りに、マレーシアやベトナムなどの東南アジアを中心に行ってきた。さらに70年代後半からは中近東の国々に進出し、一時は、建設売上高に占める海外比率は2割に迫る勢いとなった。しかし、その後の海外事業は決して安定したものではなかった。2008年のドバイショックを転機に金融危機が世界経済を襲い、工事がストップした事例もあった。
 しかし、近年では、こうした不運も乗り越えて、近年は、東南アジアと中東をメインに展開し、東南アジアは前述のインドネシアをはじめ、フィリピン、タイ、ベトナム、スリランカ、台湾など、中東では、カタールやトルコなどを中心に工事を受注している。
 なお、その他の国で興味があるのはインド、カンボジア、ミャンマー、ラオス。これに加えて南米のメキシコにも注目している。この背景には、近年日本企業をはじめ世界の自動車メーカーの工場がメキシコに集中しつつあり、大きな需要が見込まれるからだ。
 海外展開での方針については、古くから進出していてリスクを読みやすい国を中心に、慎重に進めていく意向だ。以前はアフリカや中南米などでスポットの仕事も請け負っていたが、今は、スポットの仕事よりも、あくまでも長期的なスパンでの仕事ができる国や地域、また、既に同社に活動の体制が整備されている地域であることを前提とし、継続して市場調査、動向などを調査・検討しながら、拠点とする国、地域を戦略的に見据え、同地に根付いた営業を構築しながら事業展開を行っていく方針である。

●海外展開の目的・狙い

 1990年前半の景気が良かった時代に比べて、現在の仕事量は、公共事業も含めて大きく減っている。国内の設備投資額で見ると約4割になり、今後も増える見通しはない。ゼネコン大手5社はシェアを高めることにより、準大手以下に比べて減り方は少ないが、国内だけでは仕事量を確保できなくなる。したがって海外でどのようにビジネスしていくかが、これからの生き残りのポイントになる。
 大成建設では、「ビジョン2020」として、202年の売り上げ1兆円の内4000億円を海外の売り上げに計上できるような取り組みを展開していく。

●日本のゼネコンの課題

 日本のゼネコンの技術は世界の最先端であるが、一度現地で作ると、その技術や工法、ノウハウは相手国にマスターされてしまうケースが多い。その意味で、日本の最新鋭の技術力がいつまで世界で通用するかは、誰もが危惧するところになっている。例えば、超高層ビル。日本では300mを超える超高層ビルにはなく、横浜ランドマークタワーを建てたのは20数年前であり、300mに達していない。その一方、中国には昨年の時点で約30棟の300m以上の超高層ビルがあり、現在もかなりの数のビルが建設中だ。新幹線しかり、原子力発電所しかりである。日本では20年前に最新技術だったものが、国内に需要がなく使わなくなったために、進化がストップしてしまった。これは、高速道路、トンネル、橋などの技術にもいえることだ。
 ただ、このままで行くと10年後、日本の建設業の技術力では、自国のインフラのメンテナンスができなくなる、といった状況も考えられる。海外では、そういったインフラ整備の需要はまだまだあるので、そちらに照準を合わせて勉強する必要があるだろう。

●現地のおける労働力をどう束ねるか

 海外に出て行きたいけど、さまざまな理由を抱えて出て行けない中小企業も多い。日本では絶対的な仕事量も減ってきて、いずれ海外に出て行きたいと考えている会社も増えている。そういった企業の中で困っているのは、現地における労働力をどうするか。日本人の労働力に頼るのは、報酬が高く、年齢も高年齢になっているのでとても現実的ではない。では、現地の人をどう使うか。単純に現地の労働力は確保できても、彼らを束ねて管理する人材、職長クラスの人材をどうするかは大きな問題になってくる。職長クラスは日本人がいいが、教育の方法も分からないという企業が多いはずだ。

●海外展開を望む中小企業に向けた提案

 そういった悩みを持っている中小企業の経営者に、大成建設では「人材の受け入れ」を提案している。
「半年から1年間ほど現地で研修させて、現地の事情やしきたり、職人たちの管理の方法などを学び、それを身に付けて、それから元の会社に戻ればいい。そうした教育を受けたか受けないかで大きな差が出る」という。
 実際、日本国内の労働力についても、海外の労働力に頼らざるを得ない状況になっている。今後、海外の労働力を国内で受け入れることも十分に考えられる。その点でも、そういった研修を受けた人材が有用になるだろう。
 海外を相手にする仕事は、待っていては何も起こらない。自らアクションを起こすことが大切である。

●海外から労働力を招聘する場合の注意点

 大成建設では、外国人労働者を受け入れるモデル現場といったものの検討を始めた。外国人を日本に送り出す機関が絶対に教えなければならない日本語が、「危ない!」である。「そっちにいったら危ない!」「上から落ちてくる、危ない!」……。今、そういった送り出し機関に同社がリクエストしているのが、10人の職人を送り出すなら、その職人たちを束ねられる現地の人を連れて一緒に来日させろということ。日本企業はその人と打ち合わせをして、管理する方法が望ましい。そして、その人とコミュニケーションできる人が、前述した研修を受けた人材なのだ。極端な話が、水洗トイレの使い方も知らない人が来る。水道もない、ガスもない、そういった地域から大勢の労働力がやってくれば慣れるまでに混乱は避けられない。そのための対応策が必要である。

●終わりに

 海外からの研修生が3年間、大工の修業を終えて自国に戻ったとすると、自国で大きな戦力になることは間違いない。それは日本企業が海外に出た場合でも、そういった人材を雇用できれば大きな戦力になる。日本で身に付けた技術に満足せず、さらに技術に磨きをかけるような環境を提供できれば最高だ。そして、彼らを使って競争力を高めることが大切になってくる。これは日本と海外諸国のどちらにもいえることだ。
大成建設も現地のゼネコンと競争して仕事を取っている。それは中小企業が海外に出る場合でも同じで、厳しい競争が待ち受けている。その競争に勝つためには、当然競争力をつけることがポイントであり、そのためには何をすべきか知り、そのために準備することが重要。待っているだけでは何も変わらない。それだけは確かである。

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 清水建設は日本の建設市場が縮小する中、重点注力分野の一つとして海外事業の強化を挙げている。同社の海外展開には、現地の社会インフラなどを狙う以外に、日本で付き合いのある顧客の海外進出のお手伝いをするという側面もあるという。その歴史は1959年着工。東パキスタン(現バングラディシュ)、フェンチュガンジ肥料工場(設計・工事監理)に始まり、昨年にはインドに現地法人を設立、シンガポールでは不動産開発投資事業に再参入した。ブラジルへの拠点進出も検討している。特に力を入れているのが、約30年前に進出したシンガポール。当初は、日本企業の現地における建設工事を請け負ってきたが、現在の仕事の大半は、地元資本の案件となるという。同社の海外売上高の半分はこのシンガポールが稼ぎ、名実ともに海外事業の中枢となっている。
 その象徴的な事例が、昨年着工した、シンガポールの都心部シティー・ホール近くの「キャピトル・シアター」を含む歴史的建造物3物件の再開発案件「キャピトル・デベロップメント」だろう。現地コンソーシアムから単独受注し、受注額は約200億円。同社が単独で受注したシンガポール案件としては、2003年3月のチャンギ空港ターミナル3建設工事に次ぐ規模になるという。
 鉄道や空港のような交通インフラ、あるいは水道については、施設の建設部分だけであれば単独でも対応できるが、事業全体の構築や運営まで含めた案件となると、単独で取り組むことはなかなか難しい。やはり、運営などのノウハウを持っている企業や組織とアライアンスを組むことになる。社会インフラを含めた当社の海外工事の比率はまだ7%程度だが、これを10年後に2割程度まで増やせる体制を整えることを目指している。昨年7月に長期ビジョンを策定し、重点注力分野としてグローバルビジネスの再構築を始めたところである。

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