企業経営改善

建設生産システム再考

第1回|建設生産システムの形

(一財)建築経済研究所客員研究員 六波羅 昭

 建設工事が行われる人的、物的組織の全体を「建設生産システム」と表現することが多い。設計・施工を通じ、きわめて多数の構成要素が有機的に関連づけられ、組み合わせ工程及びすり合わせ工程を経て完成に至ることから「システム」として捉えたものである。国土交通省の「建設産業政策2007」では、「建設生産システムとは、建設生産物のエンドユーザーに対する発注者、設計者、施工者等の各主体による建設生産物を提供するプロセス(各主体の選定及び事業の実施)及び各主体相互の関係性の総体と捉えることができる。」としている。建設生産システムに関しては、これまで多くの議論がなされてきた。それらの議論を振り返りながらシステムの改善に向けて具体的な展望を検討する。今回の連載においては、発注者・オーナーによる建設関係プロジェクトの企画、事業計画の段階から設計・施工・運営の段階までを生産システムの範囲として扱う。これによりさまざまな発注方式に伴う施工体制への影響、プロジェクトの成果などが議論できる。

 1980年代前半の「建設冬の時代」といわれた需要低迷期が長引くなか、1981年に長期的な建設産業政策の展望を示す最初の提言として「21世紀への建設産業ビジョン」が公表された。この「ビジョン」が示す施策を実現するために、1988年には中建審第三次答申「今後の建設産業の在り方について」が提示され、そしてこれに基づく「構造改善プログラム」が翌1989年にスタートしたのだが、この一連の議論の中で設計・施工(元請・下請等)組織を束ねた表現として建設生産システムという言い方が定着した。
 建設産業政策大綱(1995年4月)では、トータル・コストの低減に向けた建設生産システムの変革を政策テーマとして位置付け、システム合理化の具体的手法として、次の提言をしている。
提案競技型発注(性能発注)、VE(バリュー・エンジニアリング)、CM(コンストラクション・マネジメント)、DB(設計施工一括発注)、分離発注、専門一式発注など多様な発注方式の導入。
  施工段階において事実上設計工程が入り込んでいるため、業務に見合ったソフト評価の確立。
 この提言は、主として発注者に対応を求めるものとなっている。CM、DBについては、国及び地方の試行が実施されてきたが、民間工事における普及と比べればいまだ大きく遅れている。公共調達における遅れには、市町村などの技術者不足や標準契約約款、会計法の調達規定など制度的な問題が指摘されている。VEに関しては、公共調達においても積極的な対応がみられ、設計VE、入札時VE、契約後VEのいずれも国及び地方の試行が重ねられ、すでに実施段階にある。とくに入札時VEは、一般競争入札の導入にともない技術提案型総合評価方式などとして定着してきた。
「建設産業政策2007」(2007年6月)においては、建設生産システム改革を重要な政策テーマとして掲げ、具体的政策目標を「対等で透明性が高い建設生産システムの構築 ―Collaboration―」としている。その内容は、多様な調達手段の活用、役割・責任分担の明確化と透明化、適切な元請・下請関係の構築となっており、システム構成員とりわけ元請、下請の片務的な関係に着目している。
「建設産業の再生と発展のための方策2011」及び「方策2012」においては、多様化する発注ニーズに対応するため、CM方式をはじめ多様な契約方式の導入を重視し、震災復興事業で実施されている「事業促進PPP」の経験を生かして専門家による日本型CM方式などの検討をすべきとしている。この提言をうけて本年2月に「多様な契約方式活用協議会」が立ち上がった。
 「方策2011」の記述によれば、国土交通省直轄事業におけるCM方式の試行は、平成12年度末から実施され、20年度までに8件試行された。一方で民間工事ではCM方式は増加しており、民間の調査結果では平成16~20年度の5年間に883件から2,603件へ3倍になっている。
 「大綱」と「政策2007」。両方の提言で扱われる建設生産システム改革の内容は、二つの大きな問題すなわち①総価一括契約方式を軸とした調達方式の画一性、②発注者・元請・下請からなる構成員間の片務性など不適切な関係に着目して、それらの是正を狙ったものであった。

 建設構造物の企画段階から使用・管理・維持等まで―企画・基本計画・資金・実施計画・設計・施工・施工管理・運営・維持・財務―を含めて「建設生産システム」とすると、ここに含まれる生産工程それぞれを誰が担当するか多様な組み合わせが可能である。オーナー直営で外部組織を一切利用しない形から、オーナー(政府)はニーズを確認し、仕組み(制度)を用意するだけで、企画・資金・計画・設計・施工+運営・維持のすべてを外部組
織にゆだねるPPP(提案型事業権)方式まで、生産システムの形は図2のように多様なものとなる。さらに民営化となれば、発注者・オーナーの関与はない。
 このような多様性を持つシステム構成であるが、公共調達に限れば「設計」は別途外部組織(建築設計事務所等)も活用して完成し、「施工」のみを総合建設業者に一括発注する形が広く採用されてきた。現在ではPFIなどのPPP方式をはじめDBなどいくつかの方式が実施されているが、大勢は変わっていない。

 

 

ページトップ

最新記事

  • 5. 未来のi-Conを占う

    5. 未来のi-Conを占う

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    当面のi-Conでは、トップランナー施策として上げられたICT土工やコンクリート工、施工時期の平準化に主眼が置かれているが、今後は建設フェーズ全体の最適化を図るため、...続きを読む

  • 4. IoT、ロボットとの連携で建設業が成長産業に

    4. IoT、ロボットとの連携で建設業が成長産業に

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    約20年間にわたって下がり続けてきた建設業の労働生産性(1人当たり、1時間に生み出す価値の金額)をよく見ると、ここ数年はわずかに回復基調に転じていることが分かる。...続きを読む

  • 3. i-Conの効果は「実物」と「情報」の一致にあり

    3. i-Conの効果は「実物」と「情報」の一致にあり

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    i-Conの効果には、いろいろなものがあるが、代表的なものを挙げると次のようになるだろう。(1)‌着工前に現場や構造物の姿を3Dモデルによってリアルに見られる...続きを読む

  • 2. ICT土工を中心にi-Conが急拡大

    2. ICT土工を中心にi-Conが急拡大

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    従来の労働集約型工事とは大きく異なるi-Con工事だが、国土交通省の強力な推進体制により、発注数は当初の予想を大幅に上回るペースで拡大している。...続きを読む

  • 「i-Construction」は 建設現場をどう変えるのか?|1. i-Constructionとは何か

    「i-Construction」は 建設現場をどう変えるのか?|1. i-Constructionとは何か

    建設ITジャーナリスト 家入 龍太

    建設現場にパソコンやインターネット、デジタルカメラなどのICT(情報通信技術)機器が導入されて久しいが、屋外の現場で作業員が鉄筋や型枠を組んだり、バックホーで土を掘削したりする風景を見ると、1964年の東京オリンピック時代とあまり大差は感じられない。...続きを読む

最新記事一覧へ