企業経営改善

建設生産システム再考

第7回|建設生産システムの雇用関係

(一財)建築経済研究所客員研究員 六波羅 昭

 建設生産の現場経費の最大の部分が雇用に係る経費である。雇用には賃金のほかに社会保険(健康保険・年金保険)、労働保険(雇用保険・労災保険)その他の義務的経費の負担が付いており、雇用責任者がこれらを支払う義務がある。近年はこれら社会保険の加入もれや保険料の納付不足が大きな問題になっている。なお、広義には上記の社会保険と労働保険を合わせて社会保険という。

1. 施工チームの構成と雇用

 生産システム内の施工チームは、元請会社―1次下請会社―2次以降の下請会社から成っている。平均的には(図表1)のようだが、工事規模により大きく変わる。
 この施工チームの労働者数約50人のうち技術・事務系についてはほぼ全員が正社員であるとみてよいが、技能・作業系に関しては雇用関係が複雑である。雇用関係を示す用語として「正社員」、「直用」、「常用」、「準直用」、「専属」等が用いられるが、定義が明確でない。所属企業がすべての社会保険料の雇用主分を負担している者を「正社員」とすると、「日雇・臨時雇用」とともに雇用関係の存在が認められる。また、正社員又は日雇・臨時雇用ではないが当該企業の仕事にもっぱら従事する者を「専属技能者」と呼べば、専属技能者は、雇用関係を一切持たない個人事業者(一人親方)及び専属下請企業の技能者が含まれる。
 なお、業務遂行に際してA社から具体的な指揮監督を受けている、あるいは使用する機械器具がA社のものであるなどの場合は、個人事業者ではなく労働者と判断できるため、所属企業が社会保険料の企業負担分を支払う必要がある。

図表1  平均的な建設生産システム施工チームの構成
図表2  建設技能者の雇用関係による区分

※1「日雇・臨時雇用」の場合は、正社員の4分の3以上の労働時間(日数)があるなどの条件により社会保険料の雇用主分を企業が負担することになる。

 

2.賃金水準の是正― 設計労務単価の大幅引上げ等 ―

 社会保険の加入を徹底して雇用関係を明確にすることは、若者の建設業への入職を促がす効果も期待される。しかし、雇用に係る事業主負担分は、社会保険料と労務管理費だけで賃金に対して23%であり※2、これらを工事費見積りに含める必要があることへの理解を拡げなければならない。法定福利費の賃金水準への反映を徹底すべく、平成25年度公共工事設計労務単価の大幅な引き上げ(全国15.1%、東日本大震災被災地21.0%)が実施された。さらに、この2月からは、全国平均で7.1%の引上げが行われており、平成24年度比で23%という大幅な引上げとなる。
 国土交通省では、設計労務単価の大幅引上げによって、技能労働者の賃金水準の引上げ及び社会保険加入の徹底が図られるように関係建設業団体、公共発注者、民間発注者に要請し、建設業団体では、会員企業に対して自社及び下請企業に適切な賃金水準の確保、社会保険加入促進などの要請を行っている。前号で触れたが2013年9月には、行政、発注者、建設業団体、建設労働組合が標準内訳書の活用による未加入対策の徹底を申し合わせた。公共工事、民間工事を問わず、関係者が契約時及び代金支払い時に内訳書に記載された福利厚生費を確認することで適正な賃金、福利厚生費が支払われることを期待したい。
 賃金水準是正のもう一つの動きが公契約条例の制定である。地方公共団体が契約する事業において支払われる賃金の最低水準を当該公共団体が決めようとするもので、2009年の野田市以降条例制定団体が増加しつつある。現在、川崎市、多摩市、相模原市、国分寺市、渋谷区、厚木市、足立区(本年4月1日施行)を加えて8公共団体が最低賃金水準を含む公契約条例を施行している。

※2平成24年公共工事設計労務単価調査の全国平均値。なお、協会けんぽの場合、雇用・社会保険の事業主負担は賃金の約15%である。

3.一人親方の諸問題

 一人親方を対象にしたアンケート調査※3の結果をみると、「一人親方になった理由(契機)」としては、「自由に仕事をしたいから」、「収入を増やすため」が合わせて約5割を占めるが、いずれも減少傾向にある。「人を雇えなくなったから」、「雇ってくれるところがない」が合わせて3割強を占め、これらは増加傾向を示す。積極的、前向きな理由が減少し、消極的、「やむを得ず」とする割合が増えている。また、一人親方になった経緯については、「親方から独立」が4割でやや減少傾向、一方で「企業の従業者から」が3割強で増加しており、雇用を切られて一人親方になるケースの増加が示される。同じ動きは国勢調査でもみられる。建設業就業者について就業上の地位別構成比の変化をみると、雇用者の比率が減少(1995年~2010年に70.0%から65.9%へ)し、雇人のない業主が増加(8.1%から12.2%へ)している(図表3)
 建設技能者のキャリアは、「見習い」⇒「職人」⇒「一人親方」⇒「親方」という4階層からなる。これは、技能者のわざ(技能)の階層であって、賃金収入その他の労働条件と結びついていないところに問題がある。一人親方の場合、自営業主として工事請負が得られれば必要な技能者を雇用(または下請)して仕事を完成させる。しかし、多くの場合は、日雇等期間雇用または末端の下請として現場に出る。厳しい労働条件のもとで社会保険等から脱落してしまう。
 現場の施工技能は職人のものであるが、収入等労働条件とつながったキャリア・パスを用意しなければ、積極的に職人を志す若者が減るばかりで建設産業の現場が持続できない。社会保険加入の徹底、未加入者の排除によって、雇用の回復を目指すことは喫緊の課題であるが、同時に、親方を目指して独り立ちする一人親方が社会保険等からもれないように、法定福利費の内訳を明示した適正な見積書の利用を再々下請まで徹底するなどの対応がますます重要になってくる。

※3全建総連とNPO法人建設政策研究所によるアンケート調査(2009年)。1,605票中55%回収。

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