調達方式というとき、事業形態と受注者決定方式の二つの段階を含むことに注意が必要である。まず、建設プロジェクトの事業形態及び組織がどのようにして決まるのであろうか。事業形態は、発注者(オーナー)直営部分と外部組織活用部分の組合せによって決まる。プロジェクトの事業規模、技術的難易度、時間的制約並びにオーナーの財務的、技術的、時間的制約が考慮されることになる。そしてこの事業形態は、建設生産システムの枠組みを決めることになる。
建設プロジェクトの事業形態の選択が行われて外部組織活用の範囲が決まり、次いで受注者決定方式の選択がなされる。生産システムの成果は、京セラ創業者稲盛和夫氏によれば構成員の(能力×意欲×方向性)のよって決まる。構成員をどのようにして選択するのかは、システムの成果を左右する。構成員に期待する成果に対して、もっとも効果的な受注者決定方式(競争入札、提案評価、交渉方式、随意契約等)を採ることになる。このようにして、期待する成果(価格重視、品質重視、長期的運営の成果、短期的な利益など)をVFM(バリュー・フォー・マネー)において最大にするために適切な調達方式(事業形態+受注者決定方式)が選択される。
オーナーが買う立場に徹するとシンプルな性能発注を選択することになろう。多くの民間発注者は、内部に専門家がいるわけでないから、求める性能(アウトプット仕様)を明確にして供給者から市場で入手する。性能発注の場合、ニーズの把握、調査・企画・計画、資金手当て、性能確定のプロセスのどこまでをオーナーが実施するかにより、多くのバリエーションがある。
仕様発注は、求める性能を明確にして、さらに、仕様(インプット仕様)及び積算までをオーナーの内部組織又は外部の委任設計者が行ってから施工を外部に請負わせる。
性能発注であろうと仕様発注であろうと、外部調達の範囲と内容が決まれば、次は適切な受注者選択方式を検討することになる。代表的な選択方式は次の4つに大きく分類される。競争入札には一般競争入札、指名競争入札のほか各種の条件付き競争入札がある。通常は価格を落札基準にする。価格による競争に加えて技術提案など価格以外の条件を評価することで総合評価方式となる。
会計法等の制約による調達方式選択への影響
国及び地方公共団体は、会計法及び地方自治法が定める調達方式及び落札価格の上限となる予定価格制度のもとで調達しなければならない。
①入札・契約方式の制約
会計法及び地方自治法とも入札・契約方式については一般競争入札を原則として、例外として随意契約及び指名競争入札をとることができるとしている。したがって、交渉方式は、各国で標準的に実施され、WTO政府調達協定にも標準的方式として掲げられているにもかかわらず採用できない。
②予定価格制度による制約
会計法及び地方自治法とも発注者は入札に先立って予定価格を作成し、予定価格の範囲内でもっとも低い入札価額を落札者とすることとしている。したがって、入札以前に仕様を確定し、積算を行う必要がある。DBや提案評価などで仕様が確定しない場合は予定価格との関係で採用が難しくなる場合がある。会計法の「価格その他の条件」を落札基準とする場合において必要な財務大臣協議の結果、「総合評価落札方式の標準ガイドライン」が作成されたが、そこでは予定価格の範囲内という条件が依然として附せられ、予定価格は、「価格競争における標準案の状態にある価格とは異なり、発注者が想定している100点の状態を達成するのに必要なコストが相当する。」としている。
民間の活力(企画・資金・設計・施工・管理・その他)を極力生かす事業方式である。民営化との差は、民間と公共とのパートナーシップを基盤にしていることであるが、以下のようにさまざまなタイプがある。PFIについては、指定管理者制度やコンセッションを含めて幅広くとらえることもできる。
・市場化テスト
・指定管理者制度
・PFI(Private Finance Initiative)
・コンセッション
設計に関する調達方式は、オーナーの内部組織(不動産業など大型の民間発注者、公共発注者など)、設計者との委任契約、DB(設計施工一括)、デザイン・マネジメント契約(DM:設計とCMを一括して委任契約)などさまざまなタイプがある。DB(設計・施工一括)発注は、施工を進めながら必要な設計業務を行うことができるため、工期短縮のメリットとともに設計思想を確実に施工部門と共有することができ、施工管理が効率化できる。
設計はオーナーが自社組織又は設計事務所へ外注(委任)することによって用意され、施工のみを分離して建設会社へ発注(請負)する方式である。請負者の工夫、裁量によって成果をより大きなものとし、また、発注者の事務的な負担を軽減する効果を有する「施工一式発注」と、各工種の工事ごとに分離して別個に発注する「工事別分離発注」に分けられる。後者の分離発注の場合、下請契約を極力少なくし、施工責任を明確化にして生産システムの透明性を高める効果があるものの、発注者の事務負担量が大きい。日本では設計施工分離のうえ施工一式発注を採用するケースが圧倒的に多い。海外をみると、英国、米国では施工一式発注が普通であるが、フランス、ドイツでは分離発注が基本である。