時田氏
建設分野に関わるようになったのは、初めて勤めた総合商社の時です。当時は鋼材を取り扱う部署で営業事務の仕事をしていました。 当時、道路の端にあるグレーチングの上を車が走行することで変形し、跳ね上がることによって事故が多発しておりました。そこでグレーチングを固定する金具をメーカーが開発し、その販売を任されることになりました。ですが、最初は思ったように普及しなかったんです。そこで販売戦略を練り、カタログやPR資料を作成し、商社の販売ネットワークからさらに販路を広げるために力を注ぎました。その後、グレーチング固定金具は全国的に爆発的なヒット商品となり、仕事の面白さに目覚めました。
小さい頃からずっと社長になることが夢でした。当時は社長なら何でもよかったんですね。でも、社長になろうにも、自分には何もない。生まれもいわゆる社長のイメージとは程遠い農家。日々ハングリー精神は養われていって、「夢をかなえるんだ!」という思いだけは人一倍強くなりました。当時は女性の社会的立場が弱かったこともあり、とにかく負けたくなかった。大学の学費は自分で出しました。卒業して商社に就職してからは、とにかく仕事に打ち込みました。実は父親の勧めで始めたゴルフも、男性と共通の話題を持ちたかったし、仕事以外のお付き合いで私の人間性を知ってほしいと思ったからです。
2005年には、商品の開発販売に挑戦しようと(株)ジーエスを設立しました。ずっと「乗り越えられないものはない!」と思って突き進んできたのですが、いま思えばとんだ“勘違い”ですよね。できるのかもわからないことにあんなに一生懸命になるなんて。つくづく「勘違い力」で動いていたのだと思います。
施工だけでも、売るだけでもダメ。ノウハウを活かして強みに変える
起業した当時は建設業許可も取っていなく、営業をしても相手にもしてもらえなかったことを今でも思い出します。それでも各県に代理店を置いて、粘り強く1人で営業を続けました。
これまで様々なアイデアを形にしてきましたが、営業活動の甲斐あって、いま弊社の主軸になっているのが「NSスパイク工法」です。NSスパイク工法はねじり平鋼を回転圧入または打撃貫入で施工します。コンクリートを使用せず、施工時間の短縮が可能となり、撤去の際は逆回転で抜き取りも可能、よって土地の資産価値を維持することもでき環境にやさしい次世代工法です。
また、私たちはただ売るだけではなく、自社で企画・設計、製造、施工とすべて行っています。様々な現場状況に対応してきた経験こそが当社の強みだと思いますね。
NSスパイク
製品をプロデュースする上でパンフレットは重要と語る時田社長。会社設立後、初めて販売した「メタルシート」は、まだ断熱が主流で「遮熱」という発想が一般的でなかった当時、いち早く韓国でOEM製造し国内で販売した
買い手側の気持ちになれば良いものはきっと売れていく
(株)ジーエスの社屋
国内でも当社と同様の製品を販売する企業がありますが、販売につながらず、広がりがない会社も多いです。私は商社時代の経験から「いいもの」でも売れるとは限らない、そこにプロデュース力や付加価値、ブランド力が必要だとわかっていたんです。
とくに製品のネーミングやキャッチコピーはすごく大切で、ブランドや価値を高めるためにも重要です。それと、一度買い手側の気持ちに立った方が良いですよね。買い手のニーズにいかに対応できるか、たとえばその会社にOEM供給をして製品ラインナップに入れていただく場合もあります。
現在、自社の主力商品の「NSスパイク」は、太陽光発電の架台の基礎部分として利用されており、売上も3億円から10億円と大きく伸びています。自社でも施工をしていますが、太陽光の需要はずっと続くものではありませんから、新たなアイデアを形にするために開発に力を注いでいます。
こういった製品を開発する上で重要なのが資金です。「NSスパイク」の開発にあたっては、国土交通省のフロンティア事業で助成金をいただいていましたが、創業当時の私たちにとっては非常に大きなものでしたね。それまでは助成金というものを知らなかったのですが、いまは新規雇用や設備投資に助成金を活用するようにしています。
支え、支えられる関係を築きたい
新潟でも人材不足は深刻で、また人が定着しにくい状況です。このままではまずいと思って、2007年にグローバルサポート協同組合を立ち上げました。外国人実習生の受入れをしているんです。弊社が事務局を務め、敷地内の建物を改修して教室と寮を作りました。これまでにおよそ100名ベトナムの方を農業、水産、建築に送り出しています。喜んでくれる実習生や受入れ企業もいますが、まだまだ受入れ側の理解は少なく苦労も多いです。でも、新潟の経営者として、誰かが地元の担い手を補完していかなければいけませんから。
母にはこの事業を手伝ってもらっているのですが、家族の支えは本当に大きいです。私は新潟青年会議所にも入っていて、ここでの活動も私にとっては大切なものとなっています。260名の同世代の経営に携わるメンバーとの活動や交流は私に様々な刺激を与えてくれるものであり、企業のリーダーとして自分を磨き、成長させてくれる場となっています。
粘り強く、決して諦めないこと。きっと状況は変わっていく
グローバルサポートのスタッフの多くが女性社員です。よく気が回りますし、外国人実習生に買い物一つ教えるにも丁寧です。一時期は女性が経営者ということで、商品の価値が下がるのではないかと気にしたこともありました。いまは環境も整いつつありますし、女性の活躍を応援するような社会的ムードも感じられます。それはすごくいいことだと思いますが、あまりにも女性を擁護しすぎるのはちょっと違う気がしますね。体力面でもある程度は男性同様にがんばらなければならないと思うし、女性側も権利ばかり主張するのではなく、しっかりと行動で示し、認められる努力をしなければいけないと思います。
私はいま自分にできることを精一杯やっている人が好きです。「粘り強く、決して諦めない」人。わたしもそうでありたいし、そうやって生きていればきっと状況は変わってくるはず。たとえそれが勘違いでも、自分を信じることをやめないでほしいのです。