企業経営改善

「第20回建設業経営者研修」~利益の出る企業・人材の集まる企業~ を開催

 当基金は2月19日、「第20回建設業経営者研修」(於:浜離宮建設プラザ:東京都中央区)を開催しました。今回は「利益の出る企業・人材の集まる企業」をテーマに、さまざまな分野から講師を迎え、利益を生む経営戦略や若手の育成方法などの講演を行いました。各講演後のパネルディスカッションでは、現在の建設産業の課題解決に向けた具体的な方策を話し合いました。以下、3名の講演内容について、概略をご紹介します。

 講演1 「生き残る建設企業~鍵となるのは何か」

ハタ コンサルタント㈱  代表取締役/建設技術コンサルタント 降籏 達生 氏  
 

 本講演では、「超一流の建設経営者」を目指すために欠かせない「経営者としての資質」「経営の戦略的な手法論」「原価の低減方法」について解説されました。
 経営方針や理念を明確にすることが、生き残る建設企業になるためには欠かせないと語る降籏氏がまず紹介したのは、「自社の課題の把握」について。「目先にとらわれず、常に5年先、10年先を見据え、未来につながる布石を打つことが重要。中でも『人材育成』は組織力の強化に不可欠であり、計画的に行う必要がある」と述べました。
 例えば、建設経営者からよく耳にする話が、「人を育ててこなかったばかりに、他社との利益率の差が開いてしまった」というもの。これはOJTという名目で行われた"ほったらかし"の教育による結果だと述べ、経営者に対して注意を促すとともに、社員教育は自社の利益に直接つながると説きました。
 また、社長が方針を明確にすると、人を動かせるようになるとし、ある建設会社の事例を紹介しました。社員食堂で調理をする女性社員には手空きの時間があります。これを活用して工事現場での弁当販売を開始させました。さらに社長は、弁当販売の傍ら、工事の受注に向けた営業も行うよう女性社員に依頼したのです。社員は未経験の仕事をさせられる上に勤務時間の延長が重なる事もあって猛反発。しかし、新規顧客開拓が必要という明確な方針を示しながら説得に当たったところ、女性社員からの理解も得られ、受注に成功。会社の利益増幅に一役買う活躍を見せたといいます。「"強い企業"は社員が経営者の方針・理念を理解している」と、社内において方針・理念を浸透させる重要性を示しました。
 最後に、「現場で働く人たちが生き生きとしていることが何より大切。それには、我々経営者こそが生き生きとしている必要がある」と、建設経営者に向けてエールを送りました。

 講演2 「利益の出る原価管理」

㈱石岡組  専務取締役 石岡 秀貴 氏  
 

 6年前までは、現場での作業に専念していたという石岡氏。社長から突然、早急な経営改善を命じられ、そこで初めて「原価管理」について学び始めたそうです。講演では自らの体験を踏まえた「原価管理」の活用法を詳しく解説されました。
 最初に、建設原価の「二面性」を指摘しました。原価見積りと実際に掛かる原価額は変わってしまう場合が多く、労務費、材料費などが複雑に絡み合い、実態が分かりづらいこと。また、現場代理人が工事費の増額を見越して実行予算を作ってしまうケースもあり、実質的な利益はさらに把握しにくくなっていることです。
 そこで重要なのが、施工原価の構造を知ること。施工原価は大きく3つに分かれ、工事費用のなかで最低限必要な「絶対原価」、自然災害などの予期せぬ事態での追加コストによる「変動原価」、現場代理人による工程管理の甘さや人為的ミスにより発生する「浮遊原価」。石岡氏は、3つ目の「浮遊原価」を無くすことで利益が増えると指摘し、時間軸で工程管理を行う「ネットワーク工程表」の活用を提案しました。これは作業時間の短縮に最も効果的で大きなリスクヘッジとなります。
 「ネットワーク工程表」の作成によって、事前に作業工程が明確になり、工事現場のタイプ別に適正な現場代理人を選任できます。不要な人為的ミスを防ぎ、より利益を確保できるようになるのです。石岡氏は「原価管理とは、いかに人材の能力を伸ばし活用できるかに尽きる」と、人材の育成・登用がいかに大事かを強く訴えかけました。

 講演3 「若者の心を掴む」

長崎県立大村工業高等学校  生徒指導主事 毛利 公浩 氏  
 

 「最強工業高校宣言」を掲げ、高い就職率を誇る長崎県立大村工業高等学校。多くの若者がこの学校を目指し、資格取得を通して多くの有為な人材を社会へ送り出しています。
 同校の教諭であり生徒指導主事を務める毛利氏は、生徒たちと日々接する指導者の立場から、今の若者の気質や職業観、学校教育を通して変化する生徒の姿を映像で紹介し、教員の果たす役割の重要性と、卒業生を送り出す企業経営者に向けての期待について講演いただきました。
 毛利氏は、実例を踏まえながら「大人が手本となる行動を示すことで、初めて若者の心を動かすことができる。教師が生徒の上に常に立っている必要はなく、時には共に学ぶ姿を見せることも大事なこと。隣に座って話を聞くことで、相手は安心して心を開いてくれる」と語りました。また、担い手確保の現状について「教師を含め、指導する立場の人間は相手の正面に立ち過ぎている」と言及。「大人から"寄り添う"姿勢を見せることで、どんな若者でも目標をもって伸びていく。まずは1人、2人と採用を継続することで、寄り添える先輩がいる会社を作ってほしい」と、若手の継続採用の重要性を伝えました。
 また、生徒を送り出す教育者の立場から「若者は給料だけでは動かない。一生を引き受けてくれると感じる会社に就職したいと考える。何より、子どもは母親や身近な人の意見を重視する。保護者に良い印象を持たれる会社にすることも重要ではないか」と提言し、福利厚生を充実させる必要性があると訴え、学校と企業が互いのニーズや状況を共有できる関係を築くことが担い手確保につながると理解できる、貴重な講演となりました。

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