人材確保・育成

技術者の継続教育 建築施工管理CPD制度の展開|建設系技術者の継続教育を考えるシンポジウム2015 ― 継続教育への取組みに関する現状と課題 ―

建設系CPD協議会

 建設業界におけるCPD制度は、技術・技能の向上のための加点対象となるプログラムの受講で、CPD単位が加点される仕組みです。当基金では、一昨年建築施工管理を中心としたCPDプログラムを提供するため「建築施工管理CPD制度」の運営を開始しました。
 「建築施工管理CPD制度」は、建築施工管理技術者等の知識や技術の継続的修得による能力向上と、公共工事の総合評価落札方式における実績証明書の活用等を目的として運営しており、「建築CPD情報提供制度」および「建設系CPD協議会」に参加しています。
 ここでは、昨年11月に行われた「建設系技術者の継続教育を考えるシンポジウム2015」の模様をお伝えするとともに、「建築施工管理CPD制度」の現状、ならびに「建築CPD情報提供制度」についてご紹介します。

 
 
 
 

講演や取組み事例報告 パネルディスカッションを実施

 11月18日、当基金を含む建設関連17団体で構成する 建設系CPD協議会 は、建築会館ホール(東京・港区)において、「建設系技術者の継続教育を考えるシンポジウム2015」を開催しました。
 生涯にわたり技術者としての義務を果たし、責任を全うしていくためには、常に最新の知識や技術を修得し、自己の能力の維持・向上を図ることが不可欠です。その中で近年、注目を集めているのが、技術者の継続教育(CPD※)です。多様化した社会において新しい課題に的確に応えていくためには、専門とする技術領域はもとより、幅広い領域で奥行きの深い技術を習得していくことが必要であり、国際化の進展や国内の雇用情勢の変化などにより、CPDの必要性が広く認識されるようになってきました。業界団体や企業にとっても技術者に継続教育の場を提供し、サポートしていくことは責務になっているのです。
 第7回を数える今回のシンポジウムのテーマは「継続教育への取組みに関する現状と課題」。会の冒頭、開会の挨拶として、建設系CPD協議会の岩崎和己会長から本会の主旨の説明があり、その後、国土交通省大臣官房技術調査課の富山英範建設技術調整官が壇上に立ち、講演を行いました。その後、プログラム提供者・利用者として団体・企業(6名)による取組み事例の報告があり、各自の立場から運営、活用の現状と課題についてお話しいただきました。引続き講演者、報告者参加のパネルディスカッションを行いました。
 本稿では、国交省の富山建設技術調整官の講演と、プログラム利用者の代表として建築施工管理CPD制度を活用している (一社)マンション計画修繕施工協会 の中野谷常務理事兼事務局長による取組み事例報告を紹介します。

※CPD=Continuing Professional Development
 
 講演

公共事業における技術者評価の必要性と活用上の課題


 
国土交通省大臣官房 技術調査課 建設技術調整官 富山 英範 氏  
 

 本日は「公共事業における技術者評価の必要性と活用上の課題」と題し、「公共事業分野における技術者評価の必要性」「発注におけるCPDの活用状況」「CPDの活用上の課題」についてお話しします。

技術者評価の必要性が高まった背景とは?
 

 技術者評価の必要性の高まりを示す象徴的な事項として、2点紹介します。1つは、平成26年6月改正の「改正品確法」、もう1つは、「メンテナンス分野におけるニーズ増大」です。
 まず、「改正品確法」について。公共工事には、単品受注生産であり契約時点では目的物が存在しないという特徴があります。また、その規模が非常に大きく、民間消費財などと比べ、長期的に大きな社会的影響を有するといった背景から、品確法によって「発注者責任」という概念が規定されています。
 今回の法改正では、さらに「担い手の中長期的育成・確保」「現在及び将来の公共工事の品質確保」が法律の目的に追加されました。その目的を実現するための基本理念として「施工技術の維持向上とそれを有する者の中長期的な育成・確保」および「技術者能力の資格による評価等による調査設計(点検・診断を含む)の品質確保」が規定されました。つまり、法律の中で"技術者を育成し、きちんと施工・点検・診断ができる技術者を維持"するとともに、"資格によって技術力を評価"することが新たに定められました。
 次に、「メンテナンス分野におけるニーズ増大」について。現在、全国約70万橋の橋梁(平成25年 国土交通省道路局集計)のうち、建設後50年を経過した橋梁(2m以上)の割合が、10年後には43%に増加すると予測されています。メンテナンス分野のニーズが増大する一方で、「町の約5割、村の約7割で橋梁保全業務に携わる土木技術者が存在しない」「地方公共団体の橋梁点検要領では、遠望目視による点検が約8割と多く、点検の質に課題がある」など、「専門的技術ニーズの増大」の中で、「技術者の能力と品質との相関への認識」が高まりつつあるのに、現実には「オーナー側の技術監理能力の不足」といった問題が指摘されています。
 今後は、民間の技術力の活用が不可欠な状況にあり、点検・診断業務に従事する技術者の質が問われることになります。
 つまり、民間の技術力の活用に「技術者の能力の"見える化"」が必要になり、技術者評価の必要性が高まったのです。

「継続教育(CPD)の取組状況」が加点の対象に

 国土交通省では、受注者の評価・選定は『 国土交通省直轄工事における総合評価落札方式の運用ガイドライン 』(平成25年3月)にのっとっています。これは、国が総合評価落札方式で公共工事を発注する際の基準となるもので、入札者の競争参加資格要件などを明記したガイドラインです。入札者の評価項目の欄に、「継続教育(CPD)の取組状況」の項目をオプション設定しました。
 現在、総合評価落札方式による発注工事では、「継続教育(CPD)の取組状況」を入札条件に加え、加点の対象とする案件が見られるようになってきています。対象案件は、ここ3年20~40件程度で推移しています。
 これは必須項目ではなく、選択制という位置付けです。各地方整備局等が工事を発注する際に、CPDを条件に加えるかどうかを選択できるようになっています。条件に加える場合には、単位に応じた加算点を設定する仕組みです。選択制のため、活用普及にばらつきはありますが、中国地方整備局のように活用が盛んな地域も見られるようになってきつつあります。

より良いCPD制度の確立に向け、提唱する5つのポイント

 「CPDの活用上の課題」についてお話しします。
 本来、CPD=継続教育は、技術者として「社会のニーズに応える」「キャリアアップを目指す」「国際的に通用する」という高い志の実現に向けた制度であり、崇高な意義があります。また、入札でCPDの取り組みを評価するのは、「見える化」された技術力を評価することで業務成果の品質向上が期待できるという副次的な効果があるからです。入札で評価することにより継続教育への取り組みを促進することにもつながります。
 問題は、この仕組みが「業務受注や資格維持のためのノルマ化・形骸化の危険性をはらむ」こと。それにより本来の意義が二の次になるのではないかという危惧があります。実際、CPDの単位取得のために仕事の時間を割いて出張し、講習会に出ているような状況も少なくない。私見ながら申し上げますが、講習会も確かに有意義なものですが、それとは別に実務経験を積むということも技術力の涵養において効果的ではないでしょうか。
 私は、より良いCPD制度の確立に向け、以下の5つを提唱します。

1.プログラムの品質管理・質的向上
  教育効果の向上、認証プログラムの適切な選択、個々人のニーズに合ったプログラムの供給
2.CPD機会の拡充
  地方在住者への配慮、時間的自由度の拡大
3.単位(ポイント)取得の利便性向上
  取得コスト、登録システムの仕様
4.単位(ポイント)の共通利用
  相互認証の拡大、登録システムの統一
5.CPDに対するインセンティブの多様化・適正化
  本質的な意欲をそそるインセンティブの設定

 もちろんこれらの確立には、公務員技術者の能力の見える化と継続教育も関わっておりますので、国交省においても検討を続けたいと思っています。

CPDの「質的・量的充実」が、今後の制度発展につながる

CPDのスパイラルアップ


富山氏の資料をもとに作図

 最後に、CPDへの期待についてお話しします。
 CPDは勉強の機会を提供する制度です。学習機会を増やし、それを提供するには相応の参加者が必要です。参加者を増やすには「インセンティブの拡充」が効果的です。この「インセンティブ」を発注者の立場から見ると、すなわち「CPD対象案件の発注を増やすこと」といった意味合いになります。そのためには、CPD制度がより質的に信頼性の高いものになっていかなければなりません。
 CPDの「質的・量的充実」が図られれば、発注者側の「CPD活用(インセンティブ)の拡充」が進み、それによって「参加者が増加する」といった、三者間の「相互的なスパイラルアップ」が構築されるでしょう。こうしたスパイラルアップによって、CPD制度がより一層発展していくことを期待しています。

 

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