理事長 群馬県の公共工事の現状はどうでしょうか。
会長 群馬県の建設業界は、リーマンショック以降かなり厳しい状況に陥り、中小から大手まで建設会社の倒産が相次いだ時期がありました。この中で県内の景気の刺激策として、さらなる倒産企業を減らすための仕組みとして、県では公共工事の入札に「結果がすぐに出る」指名競争入札制度を時限的に導入しました。これが功を奏したと評価しています。
理事長 他の地域とは少し様子が異なりますね。
会長 指名競争については賛否あることは承知していますが、群馬県に限っては、成果が出ています。明らかに倒産件数も減ってきました。この間県内企業は生き残るため従業員や建設機械を削減し筋肉体質になっているわけですが、一方でいざという時の防災対応力が落ちていると感じています。
理事長 地域社会の中で重要な位置を占めている建設企業ですが、社会が建設企業に求めていることは何だとお考えですか?
会長 県内には除雪などの需要も多く、地域社会の中で“顔が見える”ことが建設企業に求められています。その点でいうと、“顔の見えない”会社も入札に参加できる一般競争入札制度ではなく、やはり“顔が見える”会社で競い合う指名競争入札制度の方が地域に適していると感じます。できるだけ期間延長していただきたいと要望している次第です。
理事長 これから何世代にもわたる県民の暮らしを支える公共施設であり、その施工者を決めるのですから、もっと、品質の確保を正面に据えてどんな発注システムが良いのか議論して頂く必要がありますね。
理事長 雇用の現状についてはどうでしょう。企業からは、「若者が入ってこない」という声ばかりですが、工業高校などに伺うと「採用してくれる建設会社がない」といった声が聞こえます。そのギャップについてどうお考えですか?
会長 建設業界は競争の激しさが増すにつれ、雇用に対して場当たり的な対応しかできなくなっています。人材を気長に育てる余裕がなく即戦力を求めてきました。仕事があるときは雇用に積極的でも、仕事がなくなると消極的になって、全体的に若者を育てられなかったと思います。これは大いに反省すべき点ではないでしょうか。でも、これだけ業界に若者が少なくなると頑張って「新卒をとりたい」といった動きが出てきました。
理事長 「使える技能労働者、即戦力がほしい」のは本音でしょう。そんな中で新卒を採用する企業の動きには期待したいですね。
会長 若者を指導している学校側には、モノ作りが人格形成につながり、人格をブラッシュアップすることを教えていただきたいですね。せっかく入っていただいても、モノ作りの楽しさに気づく前に辞めてしまう若者が少なくありません。業界内に「高卒の新人はすぐに辞めてしまう」イメージが強く、業界内に「新卒雇用に萎縮」している空気もあるように感じています。
理事長 工業高校の先生達も建設産業に関する情報不足を痛切に感じておられますね。建設産業と教育現場との連携を強める具体的な取組について基金としても検討を始める事にしています。
理事長 東日本大震災後の復興支援で、マスコミでの建設業の取り上げ方が少なかったと言われていることについてはどう思いますか?
会長 同業者として、被災地の建設業者が奮闘したのを大変誇りの思っていますので、被災地の建設業の奮闘ぶりが報道されなかったのは、残念です。報道に取り上げてもらうには、普段から積極的に建設業の側からニュースを投げ込むことが大事なのかなと思います。このとき、業界内とマスコミの記者の皆さんとの間に、言葉の差があります。言いたいことが伝わらないもどかしさもあります。しかし、あきらめずに積極的に情報を提供していくことが大事です。それもマスコミが喜ぶ目新しい情報。それがなければ私たちの考えは伝わらないと思います。
理事長 マスコミからの取材も多いのですか?
会長 今ではよく協会にもみえますよ。私の携帯の番号も教えていますから。
理事長 組織トップからのナマの情報は貴重ですからね。
会長 今年(2012年)は、東京スカイツリーの開業や東京駅の改装など、多くの国民の目が建築物、建設業界に向きました。毎日のようにテレビ番組に取り上げられて、いまだに東京駅にはカメラを持った人たちが詰めかけています。このタイミングで、協会や都道府県の業界団体、あるいは建設企業が有用な情報を提供できれば、もっともっと一般の方が建設業界に関心を持ってもらえると思います。
理事長 国民は、建設産業を誤解しているというより、むしろ関心を持っていないので、どんなに情報発信をしても国民に届かないのが現状です。国民の興味を惹く素材を、会長がおっしゃるようにタイミング良く発信していくこと、これが戦略的広報の第一歩ですね。
会長 来年度の海上保安庁への就職希望者は今年度急増しているそうです。これは映画『海猿』の影響だとか。
理事長 それに加えて尖閣の影響もあったと思います。
会長 建設業界も被災地で土木科や建築科の関心が高まっているそうです。こうしたタイミングで仕掛けていけばイメージアップが図れるはずです。
東京駅にしても、もともと3階建ての駅舎を戦後2階建てに復興して現在の姿になったとか、今回の工事で日本最大規模の免震構造になったとか、いろいろと興味深い話があるわけです。そういった建物の作り方や仕組みを通して国民の皆さんに、もっと「モノ作り」について知ってもらえるチャンスはあるはずで、そこは業界が一丸となってアイデアを絞り出していく必要があると思います。
理事長 あわせて、例えば、建設業を舞台にしたコミックスの作家など国民に直接届けられる手段を持っている方達、あるいは様々な建設マニアの方達とのネットワークづくりもやっていく必要がありますね。
理事長 国や当基金への要望があったらぜひお聞かせください。
会長 建設業の従事者は、資格取得に大変熱心に努力しています。こうした努力が社会資本整備の品質を支えていると思います。ですが、例えば、1級土木施工管理技士の受験資格についてですが、現在、高校指定学科卒業で実務経験10年以上が必要になっています。これは長過ぎると思いませんか? 早く一人前になりたいと思っても、10年では先が長く感じられます。せめて2年短縮して8年になれば「よし取ってやろう!」と意欲を持つ人が増えるはずです。何も試験の難易度を下げろというわけではなく、実務経験の年数を検討してもらいたいですね。
群馬では1級土木施工管理技士の実情をアンケート調査して、課題や意見を抽出して提言しています。いろいろと建設の現場を調査した結果を発信していますので、こうした実情を国が施策に反映していただくとありがたいですね。
理事長 重要なご指摘だと思います。本日は興味深い取組の状況や貴重なご意見、ありがとうございました。