基金の活動

地域建設産業の現状[関東・甲信地区]

地域建設産業の現状[関東・甲信地区]

(社)長野県建設業協会  会長 藏谷 伸一
(社)群馬県建設業協会  会長 青柳 剛
(一財)建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 地域の建設企業を取り巻く経営環境はかつてない厳しい状況にあり、それぞれの企業は山積する難問に直面しています。しかし、その逆境を乗り越えようとする胎動も各地で始まっています。そこで、今回から「地域の建設業産業の現状」と題してシリーズでお届けします。今月は関東・甲信地区編です。地域のデータと群馬、長野両県の建設業協会会長をお訪ねして伺ったお話を掲載しました。

 

現状打破のために、適正価格での受注と

長野県の建設業界の現状

会長 藏谷伸一 氏

理事長 まず長野県の建設業の現状をご紹介ください。
会長 これは建設業に限った話ではありませんが、長野県全体の景気が停滞しています。平成10年の長野オリンピックの前の3年間、7年から9年までをピークとして、オリンピックが終了したとたんに落ち込みました。県の建設予算は3,000億円だったのが、800億円になり、それに伴って横行したのがダンピング入札です。長らく低迷しましたが、ようやく県発注工事も回復基調が見えますが、まだまだ低水準で推移しています。
理事長 建設業従事者の皆さんの給与などはどうですか?
会長 長野県建設業協会に加盟している490社をアンケート調査したところ、年間賞与は0から1カ月程度にまで落ち込んでいます。工事量の減少とダンピングが、社会保険未加入社の増加や給与水準の低下につながり、新技術の導入と雇用の確保が厳しくなっています。そして、その影響が地域経済の消費の落ち込みを引き起こしています。適正価格で公共事業が受注できれば、これらの問題も解決してくるでしょう。100%受注によって足腰の強い建設業になるだろうし、こうした状況は他県も同様だと思いますよ。
理事長 内田俊一 氏 理事長 もっと国民・県民の身近な問題として建設産業の現状を伝えていく必要がありますね。例えば、全国各地で起きているくじ引き落札。これから何世代もの暮らしを支えて行く公共施設の品質がくじ運に左右されている、こんな状況もきちんと伝えた方がよいと思います。
会長 建設業の現状がなぜ県民に伝わっていかないのか。そこのところを突き詰めていくと、広報活動の問題が浮かび上がってきました。我々はこれまで広報に対して苦手意識を持っていました。あくまでも受身の姿勢であって、こちらから積極的に打って出ようとはしなかった経緯があります。でも、それでは我々の本当の姿は皆さんに伝わらない。そこで、ここ数年、考え方を変えてきました。

変わってきた、広報に対する姿勢

理事長 というと?
会長 災害支援に際して、重機やトラックに「長野県建設業協会災害支援」というステッカーを貼ってみたり……。でも、それでも報道されなかった。我々が引き上げた後に報道関係者が入るんですね。なぜ自衛隊のマスコミの露出が多かったのかというと、自分たちで撮影していたんです。そういったことを反省材料に、広報も人任せにせずに我々も独自に記録を残すようにしています。昨年からテレビ局にレクチャーしてもらって、自分たちで映像として記録を残し、それをテレビ局などに提供して、県民の方々に我々の姿を見てもらおうと。命懸けでやっているところを見てもらうようにしています。
理事長 これからの成果が楽しみですね。
会長 冬季は除雪作業もやっているので、それらも含めて建設業の活動として広く伝えています。アピールするには、やはり新聞よりテレビですね。動画で見せると視聴者に対するインパクトも強いですから。実際、自分たちがスポンサーになって番組を製作しているんですよ。お金がかかることなので、テレビ局や企業にご協力頂いて、できる範囲で精力的に行っています。
理事長 そのビデオは私も見ました。人々の暮らしが始まる前にと、建設会社のベテラン社員が奥様の手助けを得ながら夜毎に深夜の除雪作業に出かける、そんなドキュメンタリーでしたね。縁の下の力持ちという建設業の本質をきちんと伝える質の高いビデオだと思いました。

若者を呼び込む業界にするには?

理事長 そのほかの取り組みはどうでしょう?
会長 松本で技能オリンピックをやっていますが、その隣で「ものづくりフェア」を開催しています。子供たちに直接ものづくりに接してもらって、ものづくりの良さを伝えています。ただ、ものづくりを職業として見ると、これは待遇、処遇とリンクする話ですからね。10数年前は国や県の予算を使って3K、5Kからの脱却を図り、イメージアップ戦略を推進しましたが、今はそんな予算が出る時代じゃなくなって、また3K、5Kといわれるようになってきた。
理事長 確かに若者は、処遇を見て建設業界を避けていますが、一方で厳しい就業環境の中、その子達が将来を託せる職場を他で選べているのか心配ですね。若者の雇用確保にどう向き合うのか、日本の企業経営者すべてに問われているわけですけれど、建設産業は若者の雇用をしっかりと引き受ける、その証として処遇も改善する,産業界としてそう決意し、宣言することが状況打開への第一歩ではないでしょうか。
会長 しかし、今の子供たちは、明日、明後日よりも「今」が大事だと思っていますからね。加えて言えば、子供たちを指導する側の先生にも問題はあります。ある先生から「建設業は日給ですか?」と聞かれたことがあります。情けなくなりましたよ。もちろん優秀な先生もいるので一概には言えませんが、指導する側も建設業の仕事について学んでいただきたいと思います。
理事長 公共発注の環境改善、県民への広報、若者の雇用確保など文字通り課題山積ですね。今日お話し頂いたいろんな取り組みを基金としても是非応援していきたいと思います。本日はありがとうございました。

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