基金の活動

地域建設産業の現状[九州地区]

地域建設産業の現状[九州地区]

一般社団法人熊本県建設業協会 会長 橋口 光徳
一般社団法人宮崎県建設業協会 会長 永野 征四郎
一般財団法人建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 シリーズの第2回目を迎える「地域建設産業の現状」。今回は、九州地区をお送りします。中でも熊本県と宮崎県は、ここ2年以内に大きな災害に襲われ、地域の建設業者が災害対応において多大な役割を果たしました。そこで両県の建設業協会の会長や経営者をお訪ねし、明るい兆しを見せてきた景気回復の現状や災害対策に関するお話を伺いました。

口蹄疫などの災害時は、建設業界の

宮崎県の建設業の産業全体の現状

内田 まず、現在の宮崎県の建設業はどのような状況でしょうか。
永野 2012年度ベースで言いますと、公共事業はピーク時の42%まで落ち込みました。厳しさに耐えている企業がほとんどで、業界そのものが疲弊している状況ですね。九州各県との比較でも、宮崎県はダントツに収益率が悪くなっています。
内田 協会の会員数はいかがですか?
永野 2005年度は816社でしたが、現在は504社まで減っています。
内田 7年間で300社以上も減っていますね。
永野 私が会長になったのが6年前ですが、加速度的に減っているのが現状です。
内田 宮崎県の産業全体はどうでしょう。
永野 前知事の取り組みによって宮崎産マンゴーなどのフルーツや野菜は他県の方々にも知ってもらえるようになり、農業に関してはそれなりの活性化はあったと思います。しかし、それ以外の第一次産業は後退しましたし、公共投資の大幅な抑制があったために災害対応も遅れています。

建設業者にとって災害対策は責務である

内田 今回の政権交代は宮崎県にとってプラスに作用しそうですね。
永野 ええ、自民党・阿部内閣に期待する声は大きいですよ。宮崎県はご存じのように沿岸が400㎞に渡っており、これを日向灘(ひゅうがなだ)沿岸と称していますが、北部が日豊海岸国定公園に、南部が日南海岸国定公園にそれぞれ指定されています。
内田 厳しい状況ですね。ところで、先日、南海トラフ巨大地震の被害想定が内閣府から発表され、宮崎県でも揺れと津波で大きな被害が発生するとされています。地域の安全を守る建設業という認識が広まりつつあ利ますがその点についてお考えは。
永野 万が一南海トラフ級の大地震と大津波が発生した場合、宮崎県の被害が膨大なものになることは間違いありません。災害対策は我々建設業者にとって責務のようなものと考えています。しかし、それにも関わらず、現在、県の防災会議に私たち協会は参加できていない状況です。なぜ我々が参加できないのか、理解に苦しみます。ぜひ我々も防災対策の中に参画させていただいて、総合的に取り組むという姿勢を、行政につくっていただけないものか。心の底から願っています。実際に口蹄疫や鳥インフルエンザの際は、我々の責務として行政と一緒になって活動しているわけですから。

一昨年の口蹄疫災害では牛と豚の埋却を担当

内田 同じようなご不満を東北の被災県でもおうかがいしました。発災時にいの一番で駆けつけるのが建設業界ですから、是非、行政の中でもきちんと位置づけて欲しいものです。そういえば、宮崎県の建設業界は口蹄疫への対応でも大変ご苦労されたんでしたね。取組の内容をご紹介頂けますか。
永野 我々のもとに口蹄疫が発生したという一報が入ったのは2011年の4月20日のことです。当初は協会としても何をすればいいのか分からず、県からの指示を仰ぎましたが、なかなか指示が発令されてこない。国と県の災害復旧に対する考え方が噛み合わず、指示命令が一本化しなかったようです。我々の元に県から文書で支援協力要請があったのは5月の連休明けですよ。口蹄疫のような感染症災害は一刻も争う事柄なのに、初動対策の遅れは否めなかったと思います。建設業協会員は、殺処分された牛6万8,000頭,豚22万頭の合計28万8,000頭という夥しい数の埋却処分の作業を受け持ちました。高鍋地区だけでも16万頭になります。とにかく気が遠くなるほど膨大な数です。
内田 重機は間に合ったんですか?
永野 もちろん手持ちだけでは間に合わないので、近県からパワーショベルやダンプなどの各種重機を借りようとしましたが、「感染が心配だから」と断られるケースも少なからずありました。それでもレンタル業者などと連携し、公共工事に使っていた重機などをかき集めて口蹄疫の収束に集中したのです。
内田 具体的にはどのような作業を行ったのでしょうか。
永野 殺処分した牛や豚を埋却(まいきゃく、地中に埋めて処分すること)するため、重機で縦横5m×10m、深さ10mほどの穴を掘ります。次にその穴に一頭ずつ吊るして順番に並べ、そこに消毒剤を撒いてから埋めるわけです。とにかく一日でも早く処分しなければならないので、オペレーターは密封された防護服を着て、2昼夜、3昼夜連続の作業。5月から6月の蒸し暑い時期ですからね。もう全身汗まみれで、死骸の放つ強烈な悪臭に耐えながらの作業でした。

暑さと臭いに耐えて過酷な埋却作業に従事

内田 何カ所くらい穴を掘ったんですか?
永野 結局、270カ所ほど掘りました。豚はまだ小さいからまだいいのですが、牛は800㎏近く体重があり、パワーショベル2台でやっとのことで持ち上げて穴に並べていくわけです。牛に比べると豚は軽いので移動させやすいのですが、移動時に破裂し体内に溜まったガスと強烈な悪臭が周辺に充満します。筆舌しがたい、凄まじい臭いでオペレーターを苦しめました。また、牛の場合は、仮死状態の牛もいて、それが断末魔の表情を浮かべて暴れるわけです。それも1頭や2頭じゃない……。
内田 言葉を失いますね。
永野 そんな光景を目の当たりにして、その場に従事するスタッフの心に受けた傷は計り知れないものとなりました。幸いなことに事故は1件も起こりませんでした。しかし、実際に食欲減退などを訴えるオペレーターもいて、そのうち2名程はメンタルケアの処置を受けるほど。とにかく肉体的にも精神的にも辛い作業の連続でした。協力してくださった有志の皆さん、なにより不眠不休で作業に従事した会員の仲間の頑張りの甲斐あって、感染は県内のみで食い止めることができました。県を救った彼らを誇りに思います。
内田 う~ん、よくやり遂げましたね。

なぜ取り上げられない建設業者の奮闘

永野 そんな過酷な作業に従事しているのにも関わらず、我々は反省会にも呼ばれなかったのです。さすがに強く抗議し、2回目の反省会には呼んでいただきました。私は挨拶の席上で「行政は何を考えているんだ」と怒りをぶつけました。知事も同席しましたが、我々にはお礼の一言もない。「建設業の皆さん、ご苦労さま」の一言さえもないのです。本当に苦しかったですね。
内田 県民の方々は建設業者が埋却作業を担当したことはご存じなのでしょうか?
永野 現地の方々は知っていますが、それ以外の県民の方々はご存じないと思いますよ。というのも、メディアはほとんど取り上げなかったからです。
内田 なぜ取り上げないのでしょう?
永野 埋葬している様子を伝えたくても、感染の危険性があるため、メディアは現地に入ることができませんでした。カメラを回していたのは、防護服を着た行政の撮影班のみ。テレビには我々が作業している模様は一切放送されなかったのですが、それは、あまりに酷く放送できる内容ではなかったからと聞いています。テレビで流される埋却のシーンは、自衛隊がパワーショベルで作業している映像。それも毎回同じ映像が繰り返し放送され、私たちの作業風景は皆無でした。
内田 協会は記録用に写真を撮りましたか。
永野 もちろん撮りました。しかし、埋却している写真は刺激が強すぎるからと公表するのは上からストップがかかったんです。

若い記者たちと良い関係を築いている

内田 口蹄疫問題そして、新燃岳の噴火への対応と続けて大変重要な活動をされたと思うのですが、それで県民の建設業に対するイメージが大きく変わったという具合には行かなかった?
永野 ええ、残念ながら。それでも畜産農家の小学校6年生のお子さんから協会にお礼の手紙が届きました。「おじちゃんたちのお陰で助かりました。本当にありがとうございました!」といった文面で、うれしかったですね。直接関わりを持った畜産農家の方々に感謝されても、なかなか一般の方々には届きません。そこは行政が建設産業の地位向上を考えてフォローしていくような体制を取ってくれるといいのですが。機会があるごとに建設業の活動を取り上げてくれれば、業界イメージも変わるはずです。
内田 協会の広報活動はどうなっていますか。
永野 ここ数年、不定期ですが、各メディアの記者さんと懇親会を開くようにしています。メンバーは若い人たちが中心ですが、「何かネタが欲しい時は、いつでも私の携帯に電話してもいいよ」と伝えています。先日も「TPPはどうですか? 会長のコメントをください」などと聞いてきました。割といい関係を築けているんじゃないかな。
内田 大手の新聞社も、ですか?
永野 ええ、業界紙はもちろん、中央紙といわれる朝日新聞や読売新聞の記者さんとも付き合っています。彼らには、事あるごとに「建設業は県民の皆さんの安全安心、生活基盤を守ることを責務としている業界」と伝えているんです。我々の業界が繁栄すれば新聞の広告料として跳ね返るんだから、などとジョークを言うこともあります。
内田 続けて、補正予算に関する話をお聞かせください。これまで長い間公共工事をストップしていたので術職員や技能労働者の不足などが深刻になっている。工事をきちんとこなすには相当努力をしなければという声を聞きますが、どうですか。

中長期計画の中で、日本をどう保全していくべきか

永野 そこは頭の痛いところです。今回のような大型補正はもうないだろうと言われていますし、続いたとしても1年かそこらでしょう。一時期的に仕事が増えても、その先の見通しが立たないから人材を増やせない。そもそも人材がいませんからね。10年前だったら、農家や林業の人たちに2~3カ月の臨時作業員をお願いできていたのですが、当時50代から60代の方が大半だったので、今は年齢的にもお願いできません。
内田 高卒の人は1級取得するまでにどのくらいの年数を必要としますか?
永野 2級が5年、1級は10年くらいかかりますね。そんなに年数が必要ということにも異議を唱えたいし、このままでは将来的に資格保有者がいなくなるかもしれません。
内田 技術者もそうですが、建設業界全体で若い人が不足しています。この問題を解決するには、建設業の経営者が先の見通しを持って経営に当たれる状況が必要ですね。そうでないと若者の雇用にもつながらない。どんどん公共工事が増えていく環境にないことは経営者の皆さんはよくわかっている、むしろ先のきちんとした展望を強く求めておられると思います。国の中長期のビジョンが欠かせません。今後10年、20年先を見通せるような公共事業政策を作っていくべきだと思います。
永野 私も同感ですね。10年、20年先を見据えた中長期計画の中で、日本全土をどう保全していくべきか。その裏付けになるものがあれば、自ずと地方都市で頑張っている私たちにも経営の道筋が見えてきます。そういったスタンスで経営する企業が生き残っていけば、ダンピングを繰り返すような過当競争にもならないし、業界全体の経営基盤ができるはずです。そのためには業界が一致団結して取り組む必要がありますし、ぜひ基金さんのご支援もお願いしたいです。
内田 分かりました。私たちができるところから取り掛かりたいと思います。本日は長時間、ありがとうございました。

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