基金の活動

地域建設産業の現状[九州地区]

地域建設産業の現状[九州地区]

一般社団法人熊本県建設業協会 会長 橋口 光徳
一般社団法人宮崎県建設業協会 会長 永野 征四郎
一般財団法人建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 シリーズの第2回目を迎える「地域建設産業の現状」。今回は、九州地区をお送りします。中でも熊本県と宮崎県は、ここ2年以内に大きな災害に襲われ、地域の建設業者が災害対応において多大な役割を果たしました。そこで両県の建設業協会の会長や経営者をお訪ねし、明るい兆しを見せてきた景気回復の現状や災害対策に関するお話を伺いました。

公共工事で重要なのは、「量よりも質」そこにこだわりたい

昨年の豪雨災害では不眠不休の復旧作業に従事

内田 まず、熊本県の建設業の現状をご紹介ください。
橋口 現在、熊本県建設業協会の会員は747社(4月現在)を数え、10カ所の地域振興局と1カ所の土木事務所に分かれています。県の地域振興局単位で支部があります。
内田 昨年7月の九州北部豪雨災害では、特に熊本県の被害が大きかったと聞いていますが。
橋口 これまで経験したことのないような大雨でした。災害発生直後に協会本部内に災害対策本部を立ち上げて、特に被害が大きかった阿蘇、菊池、熊本の3つの地区に集中して各支部が復旧活動に当たりました。多くの会員の皆さんが不眠不休で活動し、慣れない仕事にも関わらず尽力してくれました。
内田 想定外のことも多かったでしょうね。
橋口 ええ、それはもう想定外のことばかりでした。中でも被害を拡大させたのが、熊本市内を流れる白川の氾濫です。これによって白川流域の各地で床上浸水などの被害が広がりました。また、阿蘇地域の山間部で土砂崩れや土石流が発生したことによって尋常ではない数の倒木が海に流れ込み、我々も港湾業者とともにその処理に当たりました。
内田 海上の作業というと?
橋口 船を出して漂流している倒木を集めたり、海岸に流れ着いたものは機械を使って処理したり……。問題になったのが、機械が入れない場所での作業でした。物理的に倒木を持ち出すこともできず、支部のほうから「海岸で燃やさせてくれ」という連絡が入って、協会から行政に問い合わせると、CO2を撒き散らすからダメだと。すったもんだの末に了解を得たのですが、本当に苦労しました。民間は燃やしているのに、なぜ行政の許可が下りないのか、もどかしい思いをしたものです。

報道されない建設企業の復旧活動

内田 熊本でこのような大きな災害が発生したのはずいぶん久しぶりだと思うのですが、会長が期待していた通りの対応が出きましたか?
橋口 阿蘇の災害が平成2年ですから、22年ぶりです。実際、各支部は想像以上の対応をしてくれたと思います。ただ、それが正当な評価につながったかというと、そうでもなく、支部の方から「俺たちは必死に頑張っているのに、マスコミはまったく取り上げてくれない。どうなっているんだ」といった疑問の声が上がりました。地元紙の編集部のチーフに聞いたんですね。「なぜ、建設業の活動を書かないのか」と。
内田 どうでした?
橋口 県の危機管理官からの情報がニュースソースになって記事になるのですが、どうやら自衛隊や警察、消防隊の情報はあっても、建設業の情報がない。なぜないのか突き詰めていくと、我々建設業の活動は、どうやら県の土木部の一部に見なされていて、県がやったことになっている。だから取り上げられないことが判明したんです。それで今回、いろいろ運動をし、平成25年度より熊本県防災会議委員への就任、並びに、指定地方公共機関の指定を受けることとなりました。今後は、自衛隊や消防と同じような扱いを受けるようになると思います。
内田 そうでしたか。他県でも防災会議に建設業協会が入れてもらってないなど行政における建設業界の位置づけが不明確という声がありますが、こうした点の改善をもっと求めていく必要がありますね。

行政機関の活動の一部いま一度、考えてほしい

橋口 こういった状況は全国各地で同じなんですね。この問題は国交省なり総務省なりがきちんと発言していかないと変わらないでしょうね。ここをどうにかしないといつまでたっても同じことの繰り返しです。
内田 県の危機管理官に、建設業関連の情報はあったんですか?
橋口 どこにどの支部が何名出動したかとか、どんな機械が出動したかなどの活動に関する情報が皆無でした。我々も情報収集しようと思えばできるんですが、そのためには行政内にそれなりの位置付けが必要になります。そのことについて行政に問い合わせても、行政からの返事がない。そんな状況です。
内田 県からの要請で出動しているためにそうなっているのでしょうか。
橋口 そうだと思います。だから我々は、防災会議にも入れず、県の土木部の使用人といった扱いなんです。
内田 でも、そうではなく自衛隊や消防と同列であることをアピールすべきでしょうね。
橋口 それは徐々にやっていきます。マスコミにはそれとなく伝えているので、新聞の扱いも変わってきて記事に取り上げられる機会も増えました。
内田 それにしても、防災会議に入れないというのは納得がいかないですね。同じような話を東北でも聞きました。
橋口 先日青森の建設業協会の方が見えまして、青森は昨年末から例年以上に雪が多く、建設業者が除雪活動に追われています。でも、多くの県民の方々はその事実をご存じないと言うんです。県か市がやっていると思っている。
内田 そういえば長野県でも同じような話があり、長野県建設業協会では、災害時の出動の際、重機やトラックに「長野県建設業協会災害支援」というステッカーを貼っているそうです。それなら映像で流れた際に分かりますからね。自費でドキュメンタリ―を撮り、その映像で番組を作って地元に流したようです。
橋口 広報費があればそういった映像記録を残すこともできますが、なかなかそこまでは手が回りません。そこはぜひ行政を含めて検討してもらえばと思います。
内田 確かに要検討事項ですね。

2級施工管理技士の資格取得に実務経験3年は厳しすぎる?

橋口 最近、業界内に若い技術者が不足しています。これも広報活動が不得手なことと無関係ではないと思います。
内田 確かにそうですね。
橋口 マスコミから建設業の情報が入ってこないため、業界のイメージはパッとしません。パッとしないどころか、業界のイメージそのものがネガティブになっている。将来に向かって夢も希望もないようなイメージが浸透し、それでは若い働き手が入ってこないのも仕方がないでしょう。実は、熊本県内の2つの私立大学で今年から土木建築関連学科の募集がなくなりました。4年後には2つの大学から完全に土木学科の卒業生がいなくなります。残るは国立の熊本大学のみです。
内田 貴重な人材供給源が先細りになりつつあるということですね。
橋口 加えて言うと、県内の工業高校の土木関連学科の卒業生で本業界に入ってくるのは、全体のわずか1割です。
内田 それで採用の方はどうなんですか。
橋口 募集していますが厳しい状況です。
内田 業界内には高卒の学生を敬遠する声も聞きますね。
橋口 全国的にはそうかもしれませんが、熊本県内にはそのような傾向はありません。ただ現実問題として、工業高校の生徒さんが入社したとしても、現行の制度では2級施工管理技士を取るのに3年の実務経験が必要です。でも、実務経験3年は厳しすぎます。2級を取る前に離職してしまうケースも少なくありません。

企業と高校の橋渡しになる会員サービスを計画中

内田 私たちもそれは同感ですね。それで受験資格から実務経験をはずして、先に資格を取ってから経験を積むような仕組みができないものか……そんなことを議論しているところです。
橋口 採用する会社側とすれば、大卒の学生を技術屋だと思って採用したら、実際は技術屋でもなんでもない。それで資格取得の試験に1回落ちたら、それがショックで辞めていったような話はいくらでもあります。
内田 工業高校が大学の予備校のようになっているところも問題ですね。
橋口 建築関連の高校を卒業したら、建設会社の即戦力になるようなカリキュラムはできないものでしょうか。
内田 もっと就職がターゲットだというような高校が増えないといけませんね。
橋口 会員の中には積極的に高卒を採用したい会社もあるので、それは協会の方で取りまとめて学校側に提示していくことも検討中です。
内田 高校の先生方に聞くと、建設業の会社から求人票が来ないという話もあります。
橋口 それは、この業界が昔から縁故採用が多かったからかもしれません。どうやって求人すればいいのか分らないといった声もあり、それで協会の会員サービスでやろうという流れになったのです。
内田 協会と学校のコミュニケーションはどうなんでしょう?
橋口 青年部が中心に現場見学会などを行っています。

今年度の土木工事の予算は2倍になる見込み

内田 熊本の場合、データを見ると、ピーク時に比べて公共工事が半分に減ったことで、技能労働者が3割減っているわけですが、それ以上に技術職が6割も減っていますね。
橋口 技術職が6割も減った背景には、若手技術者を育ててこなかったツケがあると思いますよ。
内田 ツケですか。
橋口 本業界は長年にわたって技術者の経験を重視した入札制度を背景に経験者を優遇してきたために、若い人を育てようという気風に欠けていました。技術者にしても、道路なら道路だけ、河川なら河川だけと専門分野がはっきりしているために応用が利かない。そこも問題ですね。
内田 これまで技術職員の数を減らしてきた行政も、ここに来て即戦力となる技術者を採用し始めたようです。その結果、働き盛りの技術職が民間から引き抜かれて行政に移るケースが増えていると聞きますね。
橋口 私のところでもありましたよ。

公共工事には「量より質」を望みたい

橋口 いま県では3年間の期限付きで職員を募集しています。
内田 3年というのは災害対応限定ということですか?
橋口 そうです。災害対応もあって熊本の今年度の土木工事予算は2倍になる見込みですが、しかし、それも3年から長くて5年だろうと。それを念頭に我々建設事業者は将来設計を考えるべきです。いま人を増やしても大変なことになる。
内田 それでも景気が良くなるのはいいことですね。
橋口 公共工事の予算が出るのは嬉しいことですが、手放しでは喜べません。重要なのは「量より質」だと思っています。会計法に乗っ取って下落した単価を何らかの方法で上げていかないと、とてもじゃないけど対応できるとは思えません。発注基準やランクや最低制限価格を見直すべきで、そこは県と話し合っているところです。
内田 キャパシティが限られますからね。
橋口 前述したように技能労働者や技術者は足りないし、機械も足りません。大型の機械は大半がリースですが、東北の復興工事に出払って、そもそも不足している状態なんです。絶対数が100のところに200の仕事が舞い込むわけですから、どんなに頑張っても対応できるのは130程度でしょう。残りの70は入札不調になる可能性もあるんです。
内田 日本経済再生の最後のチャンスという認識で国も大きな勝負に出ていますが、最後のチャンスに賭けなければならないのは建設産業も同じだと思います。大変な時期を迎えるでしょうが、会員の方々のためにも一層尽力ください。本日はありがとうございました。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ