内田 昨年の夏ぐらいから福井の建設業界は、経営的に少し改善してきたという数字が出ていますね。
松田 これまでマイナスだったものが少しプラスになった程度ですね。先日、ある建設土木の社長と話したところ、だいぶ仕事が増えてありがたいと。でも、安倍総理はデフレ脱却と叫ばれていますが、地方では脱却どころか好景気を見ないうちにデフレスパイラル入っていく、そんな話もあるんです。それほど良くなったなという実感はあまりないですね。
内田 社長さんたちが考えておられるのは、長期的に先々を見通せるような状況をつくってほしいということだと思うんですね。
松田 その通りです。打ち上げ花火のような、一過性のものだと困る。持続力を持ちながら長期的な景気上昇を望みたいものです。
内田 協会が行った調査でも若い人たちの減少は数字上も明らかになったんですね。厳しい現実です。
松田 私の地元でも以前は2つの工業高校がありましたが、土木工学科がなくなるそうです。なぜかというと、土木工学を希望する生徒がいないので設けても仕方ないと。
内田 希望する子供がいない......。
松田 一時期、建設業界は3K、3Kと言われました。でも、大きな災害が起こった時に、復旧工事は誰がやるっていったらやっぱり建設業に関わる人たちが一生懸命汗水流してやっているんですね。これはマスコミも何も報道してくれない。
内田 業界全体として取り組まなければならない課題ですね。
松田 これからの時代に建設業って本当に大事な産業だと、この産業なくしてこの島国日本を維持していくことはできないと、もっとアピールできないものでしょうか。アピールできれば、最低の業種にランクされずに私たちの地位も上がっていくはず。そこはマスメディアの皆さんにお願いしたいですね。
内田 幸い、このところ「地域の安全を守る建設業」というイメージはじわじわ広がってはいると思います。実際大学では、土木学科の受験者が増えているそうです。これは東日本大震災の影響もありますが、この機を逃さずに戦略的な広報に取り組む必要がありますね。
平成25年度 現場見学
内田 今、福井県内に工業高校はいくつあるんですか?
松田 福井工業高校、敦賀工業高校、武生工業高校、若狭東高校......。近年は工業科という名前を使わずに環境工学科とか環境学科とか、環境と一緒になるケースも増えていますね。高専も土木科がなくなって環境工学科です。中身は前と変わりませんが。
内田 会長の会社は技術系社員をどこから採用されていますか?
松田 地元です。先日も全建の理事会で会長がおっしゃっていましたが、今後5年で建設業の技術者の入れ替わりができない状況だと。もう本当に今日明日にも辞めなきゃならないという70歳以上の人がほとんど、それが第一線の主流で技術者の幹部になっています。
内田 20代よりも70代の方が多い。厳しいですね。
松田 なぜ5年かっていうと今75歳ぎりぎりか、それに近い人がほとんど。あと5年で80歳になっても、世代交替ができる若者がいません。深刻な状況ですね。
内田 県内の工業高校で、地元で就職している若者はどれくらいいますか?
松田 昨年の春も会員にアンケートを取りましたが、新卒を採用したいのに来てくれない、足りないという声が多いですね。なぜかというと、工業高校が職業訓練の場ではなく、大学進学のものになってしまっている。大学に進む人が多くて、一人の就職希望者を皆さんでとりあっている状況です。
内田 確かに福井は進学率が高いんですよね。最近、会長の会社で工業高校の地元の若者を雇用されたことはありますか?
松田 最近はないですね。
内田 福井県は他県にくらべ災害の種類が多いと感じますが、災害対応についてはどうお考えですか。
松田 昨年の台風18号では、若狭のほうで被害が大きかったですよ。福井県は嶺北(れいほく)と嶺南(れいなん)に分かれていて、嶺南の方がひどく、被害額にして84億円ほどとなりました。嶺南は長年公共事業が少なく、嶺南の皆さんから「なんとかしてほしい」という声は随分と聞いていました。
内田 今年は各地で大雪の被害が続出しましたが、福井では除雪など、冬の建設業での災害への出動っていうのはたくさんあったでしょうね。
松田 若狭は、昔は全然雪が降らなかったんですよね。定期便で走るトラックの人たちも若狭は雪とは無縁な地域、そんな感覚で走っている。それが今年のように大雪になると、たった1台の車が滑って転倒しただけで大渋滞ですよ。道幅は狭いし除雪が行き届いてないから応援にも行けません。私の会社からも除雪機を出しますが、現場に行こうにも渋滞がひどくて行けない状況です。
台風18号 金ヶ崎復旧
台風18号 杉津復旧
内田 新幹線の工事に期待できそうですが、他にはどのような工事があるのでしょう。
松田 県内全体的に見ますと、これから出てくるであろうダム工事、福井から松本までの自動車道、来年あたりからようやく本格的に始まります。福井、丸岡、松岡あたり、岐阜県境まで35kmくらいですね。これもほとんどトンネル工事が主です。それから新幹線についても富山から石川へ入ってくるまでの間ですね。一昨年、北陸三県の会長会議をやったときに「会長、この新幹線については期待したってダメですよ」という話を何回か聞いております。トンネル工事については利益がゼロということはないらしいんですが非常に厳しいようです。ですから、新幹線の工事が始まってもなかなか喜べないところもあります。
内田 協会でも工業高校への出前や見学会をやっておられますが、手ごたえはどうでしょう。
松田 福井県の場合、インターンシップへの応募は多いです。毎年、建設フェアというをイベントを3日間行っております。それには必ず先生が生徒を引率して連れてきてくれ、理解を深めるという意味では大きな効果がありますね。
内田 建設フェアとは?
松田 県の技術公社が主催する建設業界の広報イベントで、産業会館の方で3日間ほど新技術の勉強会を行っています。一番遠いところで若狭から来ていくださる来場者もいますね。遠方からの来場者には協会の方で基金さんの助成金から補助するようにはしています。毎年かなりの反響です。
内田 福井県と「災害時応援協定(以下、災害協定)」を結んだのはいつですか?
松田 一昨年ですね。国交省も右へならえで、その翌年に国交省近畿整備局も福井県と災害協定を結ばせてくださいという申し入れがあったんです。
内田 重機を持っているのは建設業くらいですからね。
松田 大手企業は重機を保有していないし、重機オペレーターもいない。下請け、孫請けに頼っている状況がありますから。近畿でも防災協定を結ぼうという動きはありましたが、できなかったんです。
内田 それはBCP(事業継続計画)※1の問題ですか?
松田 福井県の災害協定を結ぶときには、県が認めるBCPをつくってなきゃダメなんです。県内で260社くらい、県策定のBCPを持っているんですね。
内田 260社ですか。多いですね。
松田 近畿管内のBCPの数、そのなかで福井県が71あるんですね、兵庫県が49、滋賀県が29、京都府が58ですから、非常に福井県のBCPの割合が多い。一昨年、災害協定を県と結ぶに当たっても、事業者がそれに対応できる形でなければと近畿地区で指導しまして。260社がBCPを持っています。
内田 素晴らしいですね。
松田 BCP、災害協定については進んでいると思いますね。
内田 地域の安全を守る産業として、常に体制を整えていって頂きたいと思います。本日は長時間、ありがとうございました。
※1 災害、事故等の突発的な事象に襲われても、自社の重要業務が目標時間までに復旧・実施できるよう追求する計画を「事業継続計画」(BCP : Business Continuity Plan)と呼ぶ。