基金の活動

地域建設産業の現状[中国・四国地区]

地域建設産業の現状[中国・四国地区]

(一社)島根県建設業協会 会 長 中筋 豊通 氏 
(一社)香川県建設業協会 会 長 森田 紘一 氏
(一財)建設業振興基金  理事長 内田 俊一

 全国各地の建設業協会をお訪ねし、地域建設企業が置かれた状況から当面の課題、今後の展望などについてお聞きする「地域建設産業の現状」シリーズ。5回目となる今回は、中国・四国地域を取り上げます。巻頭のインタビューでは、島根県建設業協会の中筋(なかすじ)会長、香川県建設業協会の森田会長にお話を伺いました。

 

 

負のイメージを払拭し、若者が集まる魅力的な業界を目指したい

ここ2年で仕事量は増えたが技能労働者、技術者が足りない

内田 今日は、「若者を建設業に取り戻す」という課題について森田会長のお話をお伺いしようと思います。まずはじめに、この観点から見た香川県の建設業界の現状からお聞かせください。
森田 平成10年、11年頃をピークに、以降下がり続けて23年が底だったと思います。24年から少しずつ持ち直してきて、昨年は、公共工事だけでいえば香川県が前年比16%増になりました。ただし、仕事量の減少に合わせて人や重機などを削減してきたこともあり、仕事が増えてきたのに、それをこなすだけの技能労働者、技術者の絶対数が不足しているなど問題は多いですよ。
内田 工業高校の先生方に話を聞くと、地元の工事が減ったせいもあって建設業から求人がないと言われています。土木や建築の求人がないから製造業に就職する人も多いそうですが、会長の会社では人材の確保はどのようにされていますか。
森田 高卒でも大卒でもほとんど入ってきません。香川県の建設企業は土木と建築がはっきりと分かれていて、新卒者が入ってくるのはそれぞれ上位3社くらいです。それ以外は厳しいですよ。高卒の場合、そもそも地元で就職をしようとする人が非常に少ない。7割強が進学しますからね。他県の大学を卒業して、香川県に戻って就職しようと思う人はさらに少ないです。
内田 最近、若者たちの地元志向が強くなっていると良く聞きますので、地元に残らない、帰ってこないという今の会長のお話は少し意外だったのですが、その辺のことを県内の社長さんはどう感じているのでしょう。
森田 これは、我々の力ではいかんともしがたい問題です。大卒の就職先にしても建築科を卒業した学生の7割がハウスメーカーで、我々の業界には3割。以前は我々のところに7割だったのが、いつの間にか逆転してしまった。大学の先生が嘆いていますよ、せっかく学んだ知識が役に立たないって……。

休日や賃金の問題など今後見直すべきことも多い

森田会長

森田会長

内田 土日が休めない職種は何も建設産業だけに限りません。例えば物販業界の人たちも土日は出勤するケースが多いはずです。
森田 我々の業界のことを知らない人たちは「交替で休めばいい」と言います。誰でも出来るわけではなく、職人に指示を出したり、発注したり、全体の流れを知っていて、ずっと現場に関わっている人でなければ務まりませんよ。土木の場合、天候にも左右されますし、法律で「土日祝日は現場仕事禁止」とか、そのくらいしない限りは無理でしょう。
内田 そういう意味では、民間工事も公共工事も同じですが、建設業法の改正は画期的ではないでしょうか。適正工期がきちんと取れるかどうか。若者が辞めていく原因の多くはおっしゃる通り休日だと思いますから、そこのところを変えていくチャンスです。そのためにも社長さんたちの意識を変えていく必要があると思います。
森田 休日だけでなく、我々の業界に若者が入ってこない背景には、賃金の問題もあります。技能労働者についても、その技能に見合うだけの金額とは思えませんからね。技能労働者の初任給が12万円としたら、仕事を覚えた段階で倍の給料を出すくらいでないと若者は見向きもしないですよ。それと、3Kを払拭できたかというとまだ完全とは言い切れないですね。
内田 確かにそうですね。ただ、一方で、きれいで、楽で、賃金が良い仕事なんてほとんどありません。若者たちが選り好みをしているのは確かで、そこからミスマッチが起きることもあるようです。よく若者は「この仕事は自分に合っていない」と言うでしょう? 自分で自分のストライクゾーンを決めているわけですが、「人間のストライクゾーンはもっと広い、自分の才能はそこだけだと思うな」と言いたい。そこのところを教師や先輩、親御さん、更に社長さん達が教えてあげてほしい。むしろ自分の方を目の前にある与えられた仕事に合わせていくことも必要だと思うんです。そういう過程を経て初めて「一人前」になれるはずです。
森田 そういったことも、本来は家庭でしっかり教えるべきです。大学では、社会の常識とか社会に出て必要なことを教えません。だから新入社員が入ると、まずお茶の淹れ方から教えなければならないのが現実なんです。

 

女性ならではの目線や発想が現場の活性化を促す!

内田 建築はまだ志望する学生がいると思いますが、土木は厳しいと聞きます。森田会長の会社では、技術系社員の入社後の教育訓練はどうでしょう。
森田 技術的なものは先輩から後輩に教えて、条件が整った人には積極的に資格取得を応援します。一級施工管理技士なら専門学校にも通わせます。学校で土木を学んでも、就職のときに建築を選ぶ人が少なくない。聞いてみると、土木よりも建築のイメージがいいと。建築の現場監督はネクタイを締めているようなイメージがあるんでしょう。そんなこともあって弊社でも監督はみんなネクタイ着用。身だしなみ重視でやっています。
内田 女性の採用はどうでしょう。
森田 設計、積算担当はもちろん、女性の現場監督もいます。今年も「どうしても現場に行きたい」という女性が入社しました。女性の現場監督は3名で、今後も増やしていく計画です。女性ならではの目線や発想で「水回りはこういうのがいい」といった提案をしてくれます。その提案が良ければ表彰する社内制度もあるんです。今後は能力に合わせた昇格も考えていきたいです。

若者を受入れ、育てる仕組みを地域全体で作る

内田理事長

内田理事長

内田 教育システムについては、富士教育訓練センターや、兵庫県の三田建設技能研修センターなどありますが、全国各地にある教育訓練施設と一緒にネットワーク化して活用できないか、いろいろ模索している最中です。現在、四国にはそういった拠点がありませんね。
森田 協会としても技能労働者の育成の必要性は感じていて、職業訓練校を充実させようと県議会とも話をしています。香川県独自に新しい施設を作るのは現実的ではないですから。三田の研修センターなども活用していきたいですね。
内田 特に技能労働者は、ゼネコンなども一緒になって地域全体で教育していくような仕組みを作らなければいけないと思っています。高知県建設業協会では現在廃校になっているかつての建設短期大学校の施設を四国の教育訓練の拠点として復活することを検討できないかとお考えのようです。振興基金としても検討のお手伝いをしても良いと思っています。
森田 四国は香川県だけでは無理ですから、四国全体で一つのブロックという考え方になるでしょうね。
内田 静岡県にある富士教育訓練センターですが、現在建て替えを進めております。並行してこの施設を中心に教育訓練校の全国ネットワーク化の構想もあるんですよ。
森田 そういった取り組みはいまが絶好の機会でしょうね。ただし、これまでとは180度、頭の切り替えをしないとダメです。
内田 そうですね。若者を建設産業に取り戻すプロジェクトを立ち上げるには、このチャンスを逃せません。
森田 ぜひ思い切って進めてください。全国各地の建設業協会も応援するはずです。
内田 わかりました。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。

 

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