中筋会長
内田 島根県の建設業の現状からお聞かせください。
中筋 前払保証実績から見る公共工事請負金額の推移は、平成10年度あたりをピークとして、平成25年度はその約38%まで落ち込みました。62%も減少したことになります。建設許可業者数は大小合わせて3,000社ほどでありますが、当協会の会員341社のアンケートによると、年間完工高5億円までの企業が約8割を占めています。従業員数では50人までの企業が約9割、ほとんどが中小零細企業になります。
内田 公共工事が少しずつ戻ってきましたが、ここ1~2年の景気はどうでしょう。
中筋 公共事業の工事数は、災害復興などの需要もあり増えてきましたが、過去10年ほどの不況の煽りで廃業した建設業者や、この業界から離れた人も少なくなく、人材不足が深刻な問題になっています。昨年の災害数は約4,000件もあり、我々に救援要請がありましたが、人材不足の影響でなかなか手が回らない状況もあったんです。
協会が発行する『島建会報』。
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内田 若者を建設産業に呼び戻すことが重要な課題ですが、島根県の協会ではどのような取り組みをされていますか。
中筋 協会内に青年部があります。この青年部は中国地方で最初に組織されました。青年部の活動を通じて若手経営者の人材育成を図り、次の世代への引き継ぎに注力しているところです。優秀な若手が育ってきていますので、彼らに広報の先導役をやってもらうように仕向けています。協会幹部が建設業について発言しても、外部からは「自分たちのためじゃないか」と見られてしまいます。ですから、私が青年部のメンバーに言うのは、青年会議所でも商工会議所でもPTAでもいいから役員になりなさいと。そこで建設業について話しなさいと。草の根運動のように、建設業のメッセンジャーになってくれ、と話しています。
内田 黙っていては何も伝わりませんからね。業界側の発言と地域の活動の中に入って住民と一緒になった発言では意味合いがだいぶ変わってきますね。
内田 若者がなぜ建設業界に入ってこないかという理由の一つに、給与の問題があります。
中筋 儲かっていれば給与面に反映できますが、現実として、いまは儲からない仕組みになっています。そこに密接に関連するのが、予定価格制度の問題です。常に適正な価格が設定されているかどうかという問題もありますが、予定価格を事前公表する発注者が増え、それが採算を度外視した低価格競争を招く要因にもなっています。これが企業の経営を圧迫して給与が上がらない。絵に描いたような悪循環ですね。これを打破する妙案はないでしょうか。
内田 その転機になりそうなのが、建設業法・品確法・入契法の三位一体の改正です。今回の改正によって後継者の問題、適正基準も入りましたし、これでこの三法が名実ともに建設産業の振興の強力な道具として使われるようになるのではと考えています。
中筋 きれいごとを言うなと叱られるかもしれませんが、給与の面も含めて、いろんな意味で“品格ある産業”にならないといけないということでしょう。それを実現するためにも、この法改正で、公共工事の品質確保とその担い手確保の実現へ大きく近づくことになるでしょう。次は、これをどう使っていくかだと思います。
内田理事長
内田 会長の会社では、新卒採用はどうされていますか。
中筋 技術者は主に地元の高専から採用しています。若い方の地元志向は強いですよ。一方、専門工事業者はなかなか人が集まらないようです。
内田 新卒採用は個々の専門工事業に任せても厳しいでしょう。経営者は「最後まで面倒見るよ」という覚悟が必要ですし、入職してもすぐに辞めさせないためには教育訓練の充実も欠かせません。特に教育訓練は1社ではとても無理。そこで、地域や団体で若い人を受け入れるような仕組みが必要だと思うんです。例えば広島では30社ほどの専門工事業者が集まって「広島建設アカデミー」という職業訓練の法人格を取り、新人技能者を対象にした訓練校を運営しています。場所は県の職業訓練センターを借りて使用し、県認可の法人格を取っているので厚生労働省から補助金が出るんですね。
中筋 なかなかよくできた仕組みですね。若手技能者が不足している要因の一つが、30代から40代の離職者の増加。そのくらいの年代になると自分の将来を考えて、建設業界では夢が持てないと他の業界に転職してしまう。そんな人たちに踏みとどまってもらえるような“建設業界は将来が明るい”と感じさせる何かが必要かもしれません。例えば、我々が認める熟練鉄筋工とは、数量が拾えて、配筋図が書け、組立てもできる、そういった技能の持ち主のことです。新米鉄筋工と熟練鉄筋工の技能の差は歴然としているわけですが、現行の労務単価は大雑把すぎます。もう少し細分化して、「ここまでは○万円、このレベルになると○万円」となれば、若者も将来的な展望を抱きやすい。「熟練工になれば、年収○百万円も夢ではない!」と言えると思うのです。経営者としては、そういった環境の提供ができたらと考えます。
内田 確かに、30代から40代の層が量的にも能力的にも建設産業の中核ですから、この方々の処遇をしっかりと考えていくことはとても大切な課題です。この層が希望と自信を持って働くことができる産業になれば、会長のおっしゃる「品格のある建設産業」が実態を持ったものになっていきますね。今日はいろいろなお話を伺うことができ、ありがとうございました。