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地域建設産業の現状[東北地区]

地域建設産業の現状[東北地区]

(一社)岩手県建設業協会 会 長 宇部 貞宏 氏 
(一社)秋田県建設業協会 会 長 村岡 淑郞 氏
(一財)建設業振興基金  理事長 内田 俊一

 全国各地の建設業協会をお訪ねし、地域建設企業が置かれた状況から当面の課題、今後の展望などについてお聞きする本シリーズ。最終回の今回は東北地区です。巻頭インタビューでは岩手県建設業協会の宇部会長、秋田県建設業協会の村岡会長にお話を伺いました。

 

 

有能な技術者の育成も平準化抜きには考えられない

村岡会長

村岡会長

内田 秋田県商工会連合会の会長も務められている村岡会長ですが、まず、秋田県経済界全体の状況からお聞かせください。
村岡 商工会の会長は17年目になります。その立場で言わせてもらうと、アベノミクスの影響はまだ十分に及んでいないという印象です。ただ、個人的には増税の方が気になっています。公共工事が行きわたっていない今、増税してしまったらまた不況に陥るのではと心配しています。
内田 県の財政課がこの先10年を予測していて、下降から横ばいという感じですが、会長はご自身の会社の今後をどう予測しておられますか。
村岡 建設業は社会に必要不可欠な産業です。需要があるうちは発展する可能性があると考えています。
内田 これまで全国各地の建設業協会の会長さんとお会いしてきましたが、皆さんが口をそろえておっしゃるのは「5年先、10年先の経営見通しが立つような社会にしてほしい」ということです。経営の見通しが立たないと投資や雇用を躊躇してしまいますから。
村岡 これからの時代、建設業界では維持修繕の需要が大きいと考えています。例えば、私の地元の由利本荘市の場合、平成に入って1市7町が合併したために、人口8万人に対して橋の数がものすごく多いので、その維持管理には膨大な予算が必要です。でも、予算が捻出できないからといって橋を撤去することはできない。住民は橋の便利さを享受しているのですから。
内田 維持修繕についても、長期的展望に立ち、計画的にやっていく必要があるでしょうね。そうする事で見通しも立ってきます。
村岡 重要なのは公共工事発注の平準化です。この10年で580万人いた技術者が480万人に減ってしまいました。定期的に人材を採用し、有能な技術者を育てていくには、公共工事発注の平準化抜きには考えられません。

 

若者の一生を預かり、一人前にさせるという気概

内田 秋田県建設業協会の現状はどうでしょうか。
村岡 一時会員数は大きく落ち込みましたが、ここ数年徐々に増えてきました。現在の構成企業数は251社。今春、会員企業の新規学卒採用数は計93名となりました。
内田 多いですね。大学からも採用されますか。
村岡 ええ。秋田では多くの場合、技術系は県外から。青森の八戸工業大学や岩手の国公立大学からですね。ただ、基本的には高卒か専門学校卒が多いです。
内田 建設系高校は県内に何校ありますか。
村岡 建築、土木を合わせて10校。全国的には多い方です。
内田 最近建設系の学科が減っていますね。これは建設業界への人材供給源が減ることを意味します。大学進学の実績がないと工業高校への志願者も減るため、大学進学を推奨するといった傾向もあるようです。しかし、もともと工業高校は職業学校ですから、胸を張って「工業高校は職業高校」と言えるような状況を作るべきです。もちろんその先には、しっかりした雇用先があることが前提ですが。
村岡 受け入れ先にもそれなりの責任があります。
内田 ええ。企業側が若者を雇用する際は、若者の一生を預かり、一人前になるのをサポートするといった気概が必要だと思います。業界全体で "一肌脱ぐ"という意気込みでやることでしょう。
村岡 若者が秋田県内の大学に進学しても、卒業後はその多くが県外に出て行ってしまう現状もあります。彼らを県内に留めることができればいいのですが......。現在、秋田県の人口は103万人ですが、2040年には70万人になる見込みです。だれが秋田を守るというのでしょう。心配です。

 

東北にも技術者の研修機関がほしい

内田理事長

内田理事長

内田 会長の会社の定着率はどうでしょう。
村岡 お陰様で当社はあまり辞めません。今年は2人採用しました。会員各社には毎年1人でも2人でもいいから採用してくださいとお願いしています。5年も空けてしまうと、先輩、後輩の関係だけでなく、学校側との関係も疎遠となってしまいますから。
内田 離職者を出さない秘訣はありますか。
村岡 技術に見合った報酬が必要でしょうね。当社ではアベノミクスの時代を見込んで、4年目の技術者の賃金を6月から上げました。今年は3%の賃上げです。そのくらいは上げないと。誰かがやらないと始まりませんからね。それがアベノミクスを後押しするし、回り回って建設産業への貢献になると考えています。
内田 それはいいことです。会長の会社では、採用後の技術者は一級施工管理技士の取得を目指されるかと思いますが、研修の方はいかがでしょう。
村岡 各種研修の参加を奨励していますし、その費用も会社が負担しています。これは私の持論ですが、社員に技術がついてくれば、会社への定着率も高くなると考えています。そこにお金を出し惜しみしてもしょうがないですから。
内田 そこは投資ですね。なかなかそうおっしゃる社長はおりませんよ。
村岡 自分たちだけでは研修できない会社が大半なので、協会が会員企業の新入社員を集めて研修を行っています。ただ、今後は国に、東北エリアにも技術者の研修機関を作ってほしい。秋田とは言いません、仙台でもいいです。
内田 近畿、四国、九州、そして関東(富士)にはありますが、東北に拠点がないのは問題ですね。研修機関は若者の入職促進や、その定着にも効果があります。これは一例ですが、広島県の躯体専門工事業者30社が、合同で県の認可を得て職業訓練法人を作り、30社が採用した新入社員の研修を合同で行っています。公共の職業訓練所の教室を利用し、期間は3カ月間。各社からの参加者は同期生といった間柄になりますし、横のネットワーク形成にも最適です。これは各県でやれる仕組みではないかと思っています。
村岡 現状どこの地域の小中学校でも2〜3クラスくらいなら教室に空きがあるでしょう。場所があれば教育訓練はできるはずです。ぜひ皆さんと一緒に考えていきたいです。

 

震災時、ガレキの山に救助の道を作ったのは建設業者

内田 建設業協会としての防災への取り組みをお聞かせください。東北6県で防災の協定を結ばれていますよね。防災計画やマニュアルは、東北6県すべてで整備されているのでしょうか。
村岡 いいえ、指定地方公共機関としては秋田と宮城のみです。整備できているのは全国でも12〜13都道府県ではないでしょうか。
 平成18年の豪雪では、とくに秋田市の被害が大きかった。その時、県側から我々に「災害本部に入ってほしい」と要請がありました。民間では初めての話だったと思います。ただ、立場的にボランティアだったので、それでは直接的な活動ができないからと、総合防災課へ申し入れをしたんです。建産連として協定を結んでいるのが防災課で、そういった経緯もあって指定地方公共機関の認定を受けるのはスムーズだったのかもしれません。
内田 そのほか、防災に関するご意見はありますか。
村岡 東日本大震災の報道では、もっと建設業のことを書いてほしかった。ガレキの山にまっ先に救助の道を作ったのは建設業者です。道を切り拓いたからこそ、亡くなられた方々のご遺体を収容できたんです。当時、自分の親兄弟が亡くなっても、地元の建設業者は葬式も後回しにしてガレキ処理に向かった......。そんな話はいくらでもありますが、そういった事実は誰も書いてくれません。
内田 自衛隊に関する報道が多かったのは、自衛隊が広報専門の部隊をいつも引き連れているからと言われますね。
村岡 我々も国土交通省に対して「マスコミ対策が絶対に必要」と申し入れました。建設業者も立場的に強くなって、マスコミを動かせるようになるといいと思います。
内田 記録に残す専門の人がいるといいですよね。1枚の写真で伝わることもありますから。
村岡 当社ではガソリンスタンドも経営しており、震災直後、燃料の早期輸送の指示を受けてスタンドから燃料を全部抜き取り、その日のうちに被災地に運びました。また、我々は他産業に比べ重機やトラック、人手などを抱えているので、震災直後にはさまざまなモノを集めるよう要請がありました。例えば、棺桶や骨壺といったものまで。
内田 そういった活動は国民には知られていません。もっと建設業の情報発信力を強化して、イメージアップにつなげることができれば、若者が目指そうと思える業界になるのかもしれません。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

 

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