基金の活動

インタビュー|鹿児島県建設業協会

語り手 (一社)鹿児島県建設業協会 会長 川畑 俊彦
聞き手 (一財)建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 数年後に控える本格的な人材不足。建設産業に若者を取り戻そうと、いま業界が一体となって取り組んでいます。近年、相次ぐ自然災害にみまわれている九州地区でも、国民の安全な暮らしを守る建設産業を維持する上でも人材確保は喫緊の課題です。本稿では、鹿児島県建設業協会の川畑会長に、人材確保・育成に係る現状と課題についてお聞きしました。(このインタビューは平成27年7月に行われたものです)


川畑会長

内田 鹿児島では、5月に口永良部島で噴火がありましたね。人命に関わる被害がなかったことは何より幸いでした。建設業関係者の被害はなかったのでしょうか。
川畑 口永良部は人口130人ほどの島。元々建設業者はおりませんが、噴火当時もいくつかの工事が動いていましたので、そういった現場にも緊急時には待避するよう予め指示を出していました。当日も全員無事に避難しています。事前の訓練が生きたのだと思いますね。
内田 今回の噴火では、島民の島外避難も含め、全体的に手際が良かったという印象があります。
川畑 島の至る所にセンサーが張り巡らされており、火山噴火予知が出されてから、24時間ほどは余裕があります。しかし、これが桜島だったら住民は5,000人にもなりますので、避難は大変だと思います。大正3年の噴火もシミュレーションをしたところ、当時は冬に噴火したので風向きは市内と逆を向いていましたけれども、これが夏だと市内に向けての風に変わります。その場合には鹿児島市内に80センチ程の降灰が積もると予想されています。桜島の噴火の際、島民をいかに逃がすか、膨大な量の降灰をどう除去しどこに処分するのか、その手伝いを建設業がどこまでできるか、事前に考えておかなければいけない課題です。
内田 防災は鹿児島市にとっても大きな課題でもあります。
川畑 鹿児島支部では、毎年1月12日に市との合同で、ASPやドローンなどの最新設備を入れ防災訓練を行います。今年から県内の工業高校生1クラス40人を招待し、彼らに土嚢積みも体験もさせています。
内田 「地域の安全を守る」建設業界の真価が問われていますね。

いま担い手三法を誤れば〝絶滅職種〟にも成りかねない
若者に選ばれる業界、会社へ

内田理事長

内田 ところで、いま建設業で働いている人のうち55歳以上の割合が35%になっています。今後5年から10年の間にこの層が一斉にリタイアしてしまう一方で、これを埋めるだけの若い人の雇用ができていない。これから本格的な担い手不足が始まるわけですが、それへの備えは待ったなしの状況です。
川畑 県内でも、働き手の高齢化は深刻な問題です。業界一体となった取り組みを国の行政や政治が応援する中で、担い手三法が成立しました。国土交通省も、きめ細かく、市町村長を集めて周知する等法律を的確に運用していくための力の入れ方には並々ならぬものを感じます。売り手である建設業界、買い手である公共発注者そして、政治や行政が同じ問題意識を持って担い手の確保に取り組んでいる、これは他産業にないことだと思います。それだけに、今度は我々建設業界自身が市町村への働きかけなど担い手三法の運用が的確に行われるように取り組んでいかなければいけない。
 いまここで、建設業界が取り組み方を間違えたら、"絶滅職種"になってしまう、私は会員にはいつもそう言っています。
内田 協会の役割が非常に重要となりますね。5年後くらいから始まる本格的な人手不足の時代には、労働者が、働く会社や産業を選別する時代になります。雇用した若者をしっかりと育て上げて良い仕事の出来る一人前の戦力にする。一方で原価管理、予算管理を徹底して受注した工事から確実に利益を上げて社員をきちんと処遇する。文字通り技術と経営に優れた企業でなければ人は来ないし生き残れない。地域の建設業界を、人手不足時代をたくましく乗り越えていける産業にしていくことも協会の仕事になるでしょうし、その取り組みへのサポートを振興基金も強化していきます。
川畑 現在、協会にはAクラスの会員企業が155社あります。4年前に知事が就任した当時、しっかりとした経営を続けていくためには、100社で良いのではと言っておられました。適正な企業数はどの辺かという問題もこれから避けて通れないのかもしれません。

担い手確保への取り組みを絵に描いた餅にしてはならない

内田 協会でも独自の事業として 建設産業担い手確保・育成事業 を行っておられて、今年の5月から30名募集されていますが反響はどうでしょうか。
川畑 県単独で実施している事業のことですね。ハローワークに求人票を出すのですが、まだまだ応募者は少ないです。応募数の問題は想像以上にハードルが高いのです。
 昨年度は、厚生労働省(以下、厚労省)の地域人づくり事業に手を挙げ実施しましたが、事業の対象が新卒者ではなく、学校を出たが職に就けなかった人の救済。つまり、中途採用でしたので、新卒募集のタイミングとも合わず、結局消化できた予算は半分ほど。数カ月単位の研修期間の給料をどうするかという問題もありました。他県も苦戦したと思います。新卒者へも、同様の手厚い手当があれば予算も有効に使えたでしょう。
 今年は県の単独事業として受託しており、新規雇用者を対象としています。この事業はうまくいけば来年、再来年も継続できます。
内田 それはぜひ、継続していただきたい。
川畑 しかし、技能労働の担い手の問題は専門工事業が抱えています。鹿児島県では躯体系の業界は建築協会に属しており、私たちの建設業協会との関わりが少ないため、今のままでは協会として直ちに、ここと一緒に取り組める状況にはありません。
内田 今年度、鹿児島県建設業協会は振興基金の 「平成27年度地域連携ネットワーク支援事業の予備調査」 に手を挙げておられるので、この調査の中で協会と専門工事業界との関係構築を進めていただければと思います。
川畑 鉄筋と型枠等の技能労働者確保への対応は、人材育成対策室長の下に個別にチームを置いています。重要な処遇改善として週休2日への取り組みがあります。ただ、専門工事業界では日給月給で働く人たちが多くおり、こうした職人さん達に、週休2日や土曜休日を訴えても収入の減少に直結するので、今のままでは絵に描いた餅と言われるだけです。
内田 週休2日の実施には、週5日労働でやっていける賃金が大前提になるということです。
川畑 そうです。半面、賃金を手厚くするほど元請も、下請も経営が厳しくなる。改正品確法の的確な運用を徹底するしかありません。
内田 適正な下請代金を払うだけの利益を上げられる元請会社、適正な賃金を技能工に払えるだけの利益をあげられる専門工事会社になるという課題への取り組みが同時に求められます。

まずは、早期離職を止める
若者をしっかり育てる仕組みを全国につくる

川畑 離職率の全国的な数字を拝見しましたが、建設業に就職した若者達のうち、高卒だと3年以内に約半数が早期離職していますね。
内田 1年以内では4分の1の、約25%が辞めている。もったいないことですし、こんな状況を見ると後輩達も尻込みするでしょうし、親たちも敬遠してしまいます。この早期離職の状況を止めることが最初の課題だと考えています。今は、昔ほど現場に人が多くないので、先輩が新人に教える余裕がない。そのため、現場にいても1人になっている。これではいつまでたっても腕に職が付きません。その先への展望が見えないまま辞めてしまっている実態があります。それで、全国各地での教育訓練の仕組みづくりを応援しようと、「 建設産業担い手確保・育成コンソーシアム (以下、コンソーシアム)」を設立しました。 富士教育訓練センター のように、大規模な仕組みを全国に作る必要はなく、もっとコンパクトな訓練の仕組みを各地域に作れればいいと考えています。建物は造らなくても良い。空いている職業訓練校を借りるなり工夫はできると思います。
川畑 建設系専門学校を活用する方法もあります。薩摩には地域社会の中で先輩が後輩を教え、育てる「郷中教育」があります。それぞれの各地域の実情に合わせた多様な訓練の仕組みを作れればいいですね。
内田 東北6県が合同で予備調査を実施していますが、その中で訓練施設として地方整備局の技術事務所を活用出来ないか検討しています。地整は全国にありますし、局によっては技術事務所に宿泊施設もある。今後の推移に注目しています。また、広島県内の躯体業者さんが協力して「 広島建設アカデミー 」という名称で知事認可の職業訓練法人を運営しています。費用が掛かる建物は自前では持たずに借りる。一方、職業訓練法人として、厚労省から訓練費、そこに派遣する講師の費用の補助金を得ています。賢い仕組みだと思います。
川畑 それはいいですね。県内にも統廃合された学校が余っておりそれを活用できれば良いなと考えている。ただ、現状では空き校舎と言っても簡単には使わせてくれません。
内田 群馬県の沼田市では、市と建設業界が協力して廃校を利用した"建設職人のまち"をつくろうという試みが始まっています。
川畑 ハードについてはある程度の仕組みはできるでしょう。ソフト面を作るのが難しい。
内田 今、共通で使えるカリキュラムや教科書、教材なども本コンソーシアムで作成しています。富士教育訓練センターで講師を育成する取り組みも始めました。コンソーシアムの事業も、厚労省の建設労働者緊急育成支援事業も5年間の事業になっています。これらの事業が終わったとき、何かが残らないと意味が無い。訓練の仕組みや、経営者と学校との密接な連携が作られ、建設業で働く技術者、技能労働者が一人前になるまでを、普通に訓練が受けられる仕組みをしっかりと作っていきたい。
川畑 広島建設アカデミーでは雇用した後の訓練を行っているのですか?
内田 現在は会員企業の新入社員の合同新人研修を行っています。会員企業も一社単独では毎年採用があるわけではなく、採用があっても1人か2人。合同でやると何人もの同期生もでき、仲間同士で情報交換もできる。これによって定着が高まったと聞いています。コンソーシアムの取り組みの中で新人研修以外への拡充も検討されています。

厳しい中でもやれることはある 続けていくことが大切

内田 会長の会社では社員の確保はどうされていますか?
川畑 私の会社では、去年から高校で募集する際は、そこを卒業した先輩を行かせているんですよ。先輩から給料や実態を伝え、自社の現場で見学会もする。効果はあります。今年は若い人が3人も来ました。
内田 それはいい試みですね。建設業界と工業高校との関係はできているのですか。
川畑 関係はできていますが、工業高校の卒業生は地元にほとんど残らないのが現状です。東京や大阪の大手に引っ張られていく。2、3年連続して学校へ求人の要請をしていても1人も来てくれないという会社もあります。コンビニの無い所には行きたくないということを聞きますが、県内大手の建設会社であっても、会社の所在地が地方だとなかなか来てくれないのが実態です。
内田 雄大な霧島の麓なら、住むのには良さそうなのですが。
川畑 県内に残りたいという学生も、その多くが公務員を志望しているのですから難しい。
内田 親御さんたちは子供達以上に地元に残したいという気持ちが強いとよく聞きますが。
川畑 しかし、親御さんも少しでも高い給料を望まれている。大手と地元では2、3万円は違う。それに、大手は採用時期に合わせて求人に動いています。地元企業は求人のスタートが遅いから、採用したいと申し出たころにはもう済んでいるという状況もあります。
内田 実態は本当に厳しいのですね。
川畑 ただ、求人案内を続けること、そして苦しいときでも採用を続けていれば学校も次第にその会社を信頼して良い生徒を優先的に紹介してくれるようになります。先輩を学校に派遣することも、先生からのアドバイスです。
内田 厳しい中でもやれることはあるんですね。会員企業にそうした取り組みが広がることを期待しています。
 ところで、協会のホームページで、「キンスペS」という20分程の動画を拝見しました。内容をきっちり詰めた良いシナリオです。是非、なるべく多くの中学校や高校の生徒に見てもらったらいいと思いました。このビデオを見て建設業に入職しようという若者が出てきそうな感じがします。
川畑 1人の労働者を追いかけ、1日の生活を見せる。高校生や大学生にとっては興味深い話です。是非、見てもらいたい。3年前から測量機器を県立高校4校に寄贈しています。今年はトータルステーションを寄付しました。11月に「高校生のものづくりコンテスト」の全国大会が九州で開催され、鹿児島県も会場になります。九州ブロックの予選大会では鹿児島の高校が1位となりました。我々も全国大会で優勝を目指してほしいと願っています。

本当の意味での平準化
軌道に乗り始めた今だから 次は「時期」を見直すべき

取材中に噴火した桜島。噴火は1年間に平均600回以上、今年に限っては1,000回を超える。全国で110の活火山があり、内11が鹿児島県。世界の1%ほどに及ぶ。

内田 資料を見ると鹿児島県内の公共工事の状況は厳しいですね。発注者別では、国や公団からの工事がありますが、県市町村が極端に少ないのはなぜですか。
川畑 昨年度、県の公共投資は、普通建設事業費で約1,600億円でしたが、3月の補正で200億円近く減額された。国庫補助金や交付金が少なく、災害が少なかったことも影響しています。
内田 一般には、ここにきて日本の建設業界が十分潤っているという認識が広まっています。
川畑 そうですか。県内の公共工事について言えば、実態は東高西低で我々は苦しんでいます。いま漸く品確法の運用指針が動き出し、建設業界自身の担い手確保への取り組みも緒に就いたばかりです。国の財政が厳しく、今後公共工事の大きな伸びを期待することが難しいということは十分理解していますけれども、せめて、品確法や担い手確保への取り組みが軌道に乗るまでは安定した公共工事の確保が是非必要です。
内田 会長がおっしゃるように、協会員の末端まで、しっかりとした意識が生まれ定着しようとしている今はとても大事な時ですから。
川畑 ええ、我々執行部だけではなく、会員各自も厳しい状況をしっかりと世の中に訴え続ける必要があるでしょう。今回の運用指針も、基本的には地域社会資本の維持管理が考慮され、複数年契約、一括発注、共同受注など、安定受注が見込めるものですが、本格的な維持管理の発注時代には至っておりません。我々は安定を図る意味から補正予算を要求しているのです。正直に言ってここで公共工事が減少すると担い手確保への努力の大きな足枷になるなという印象を受けています。
内田 もう少し時間が必要です。
川畑 さらに重要な問題として年間を通しての平準化の確保があります。これがなければ、品確法の運用指針も決して円滑に進まない。年度が変わる度に予算だけでなく人事異動や発注制度の変更もあります。年度が変わって4月から次の工事にすぐ着手できるわけではない。工事によっては時期をシフトできるよう、仕組みから抜本的に変えてもらいたい。
内田 確かに、年度の変わり目がもたらす空白期間への対応を考えなければなりません。
川畑 公共投資が大きく増えることは現実的にとても難しい。工事量が安定的に確保される中で平準化を進めてもらえばいい。そのためには、会計年度も含めて時期の問題は改善しないと。我々は通年で人を雇用できることを望んでいるのです。
内田 多くの国民は、相変わらず"仕事と予算の拡大"を要求する建設業界をイメージしておられるでしょうが、建設業界が望んでいるのは、先の見通せる公共工事の発注量と平準化であり、それによって安定した雇用を実現していくことを目指している。建設業界のこうした主張を明確にしていけば、もっと国民や地域の住民の共感が得られると思います。本日は有り難うございました。

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