人材確保・育成

建設産業の活性化 ~建設産業活性化会議中間とりまとめ~

専門工事業者の共同職業訓練校 「広島建設アカデミー」の役割と存在意義

職業訓練法人 広島建設アカデミー

 職業訓練法人「広島建設アカデミー」は、昭和55年に広島建設共同職業訓練協会(平成元年より現在の名称)として発足した、全国でも珍しい複数企業による「共同の職業訓練校」です。広島県内のとび・土工、型枠大工、鉄筋、左官、クレーンなどの建設専門工事業者24社で構成され、会員企業の新入社員研修を実施するほか、工業高校への出張教育にも取り組んでいます。同アカデミー会員企業の経営者の方々、そして研修を終えたばかりの新入社員の皆さんにお話を伺いました。

 

「地元で採用し、育てる」ために新入社員を集めて合同研修

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──複数企業が共同で新入社員の研修を行う「広島建設アカデミー」の仕組みは、他の地域のモデルとなりうる仕組みですね。
福井 我々は地場産業ですから、地元で採用し、育てていくべきだと考えています。中小企業の大半は、新入社員を採用しても1~2名、採用しない年もあり、一社が単独で体系化された新入社員教育を実施するのはなかなか難しい面があると思います。
 当アカデミーは専用の訓練施設を持っていません。座学は、東広島市にある公共の職業訓練センターを使い、実技は、当社の加工場を利用しています。工具類なども、どの会社にもあるものしか使っていません。つまり、どの地域でも、少しみんなのために汗をかこうという会社があれば、同様の教育訓練システムは構築できるのです。
 複数の企業が共同で取り組みを進めるわけですから、大事なのは互いの信頼関係です。現在の福井理事長で4代目になりますが、当社は、発足当初からアカデミーに参加し、事務局である福井建設さんとは厚い信頼関係にあります。福井建設さんには物心両面でお世話になってきました。単なる事務局ではなく、みんなから信頼され、引っ張っていく「リーダー企業」の存在は非常に大きいと思います。
福井 職業訓練法人の認定には、定款を定めたり、事業計画を作成したりという事務手続きがありますが、そんなに難しいとは感じていません。助成金を受ける上で、職業訓練の認定には、訓練生が5人以上という要件がありますが、訓練生の確保においても、複数の企業が集まるメリットは大きいものがあります。助成金では、送り出し元の会員企業にも一定額が支給されます。

社屋

──訓練校で基礎的な専門知識や安全の知識を身に付けてから現場に出るので、経営者と当人の両方に安心感がありますね。
 採用面でも訓練校の存在はアピールポイントになります。企業訪問の時にも学生に説明していますが、きちんと教育訓練が受けられるということは、入社する際の安心感につながっているようです。
中野 採用にあたっては、学校とのパイプ・信頼関係を築くことが重要ですが、一社では毎年求人票を出して採用していくことは難しいと思います。現在アカデミーでは、工業高校と連携し、学校に出向いての実習教育も行っていますが、こうした活動を通じて学校との関係性が保たれている面も大きいと感じています。


“押し売り”から始まった 工業高校への出張教育

修了式

6月7日、本年度の新入社員17名に対する約2カ月半に及ぶ広島建設アカデミーの研修が無事修了し、事務局である福井建設(株)の会議室にて第35期生修了式が行われた。同社の社長であり、同アカデミー理事長の福井正人氏が壇上に立ち、「君たちの選んだ仕事は、地域の歴史に携わることができる誇らしい仕事。しかし、同時に、地域が災害などに襲われた時に、真っ先に駆けつけて先端で動く仕事でもあります。これからも己の技術力を高めるために日々勉強に励み、一日も早く一人前になれるように頑張ってください」と挨拶し、新入社員を激励した。

──工業高校への出張教育にも取り組まれたきっかけを教えてください。
福井 アカデミーの参加企業は、積極的に新卒を採用し、育てていこうという考えを持った会社が中心です。工業高校への出張教育を始めたきっかけは、ミスマッチの解消です。実際、入社してみると自分が入社前に持っていたイメージと違ったという理由ですぐに辞めてしまうケースがありました。そこで、どんな仕事なのか実際に現場を見学する取り組みを始めたのですが、部活動で行けないという生徒もいて、それならこちらから人員・資機材を持ち込んで学校に“押し売り”しようと始めたのがきっかけです。その際に会社単位ではなく広島建設アカデミーとして、「とび・型枠・鉄筋・左官」の4職種を用意しました。学校で建築や土木を学んでも、鉄筋が結束線で組まれていることすら知らない。コンクリートそのものは知っていても型枠を知らない。回数を重ねるに従って学校の信頼も得て、継続的に実施できるようになりました。これがきっかけで会員企業に入社した生徒もいるんですよ。

──若者を建設業に取り戻すためには、仕事の紹介や魅力のPRと同時に、他産業と比較して待遇面などがどうなのかを考える必要があります。各種データから「賃金が低い」「労働時間が長い」といった結果もあり、こちらの改善もポイントですね。
福井 社会保険にも入らず、ただ安く工事を請け負って、経営が苦しいなどという会社は業界から退場すべきでしょう。真面目な会社が伸びて、そこが雇えばいい。他産業との比較の話が出ましたが、社会保険に入るのは当たり前のこと。常々行政にお願いしているのは、ルールを守れない会社にはきちんとペナルティーを与えるべきだということです。
藤谷 今、仕事量が急激に増えてきていますし、もちろん残業や休日出勤に対しても正当に上乗せして支払っています。
福井 当社では定期昇給もあります。ただ、業界全体を見渡すと、労務単価が上がって月収ベースでは他産業と変わらなくなってきているようですが、ボーナスの差額があるために、年収ベースにすると、まだ他産業に追いついていません。日給月給制の会社もまだ少なくないのが実情です。

──登録基幹技能者制度の普及は技能者の地位向上を後押しするでしょうね。
福井 登録基幹技能者制度については、元請企業にしっかりと認知される必要があります。例えば、登録基幹技能者の活用が元請企業の加点評価になり、営業的に使えるようになれば、我々も育成に力を入れることができますし、若い人にとっても目標や将来像が見えてきます。大手ゼネコンでもスーパー職長制度などを設けて報奨金を出しているのは、有能な技能者と専門工事業者を囲い込みたいと考えているからだと思います。
 まずは、県や市などの公共発注者に登録基幹技能者をしっかり活用・評価してもらいたいですね。現在は、元請企業が登録基幹技能者を活用することが評価される仕組みになっていません。ですから我々下請企業も登録基幹技能者に手当を支給したくても、思うようにいかないのが実情です。




インタビュー

研修期間を終えて、新入社員の皆さんの感想


新入社員の皆さん

 「父が大工ということもあり、父の背中を見て育ち、小さい頃から大工を志望していました。研修では、現場ですぐに役立つことをたくさん学ぶことができました。この会社で経験をたくさん積んで、いつかは父を超える立派な大工になりたい。それが夢であり、最大の目標です」 河内 克さん

 「農業高校出身なので、建設業界のことはほとんど知らずに入社しました。それだけに約2カ月半という長期間の研修はとても有意義なものでした。新入社員にとってこの制度は有難い制度ですね」 泉 恵介さん

 「高校は建築科で学びましたが、実技は製図と測量だけ。だから入社して現場に入る前に現場実習をすることができて大変助かりました。いきなり現場に行かせられたら、かなり不安に感じたと思います」 岩藤 勝巳さん

(左から 福井建設(株) 河内 克さん、泉 恵介さん、岩藤 勝巳さん )





 

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