一般社団法人電子情報技術産業協会(以下、JEITA)は、電子機器、電子部品の生産、貿易及び消費の増進を図ることにより、電子情報技術産業の総合的な発展と、わが国経済の発展と文化の興隆に寄与することを目的とした業界団体である。国内産業に先駆け、IT・エレクトロニクス業界でのEDI(Electronic Data Interchange)導入をリードしてきたJEITAの矢野晴一氏に、CI-NETの地域企業への展開についての話を伺った。
私が日立製作所に勤めていた1980年代の初め、まだパソコンや携帯電話が普及する以前の話です。社内には生産効率化のために資材の受発注の段階からペーパーレス化、電子化をする必要があるとの声が高まっていました。
当時、日立製作所のような、製品開発と販売を行うセットメーカー各社が抱えていた悩みは、資材調達に社内・社外の手続きが多くて時間を取られ、世の中の動向、消費者のニーズに対してタイムリーに製品を送り出せないことでした。そこで社内の業務処理を自動化し、取引先との業務も電子化して効率化を図る必要があったのです。しかしこれを各社個別に実施すると取引先側に各社対応の端末が設置される事になります。普及拡大のためには企業間の業務プロセスを標準化して、どんな端末でも各メーカーの注文を受けられるようにする必要があったのです。
そこでJEITAの前身であるEIAJ(日本電子機械工業会)にその考えを伝え、セットメーカーと部品メーカーが足並みを揃えて、業界として取り組むことになりました。幸いなことにEIAJは構造的に発注者と受注者が同居しており、お互いの立場が理解できます。この利点もあって、1年ほどかけて実証実験を経ながら、1989年に「EIAJ-EDI標準」の実用化が始まり、現在では注文件数の8割くらい、発注金額の9割ほどがEDI標準化されています。
よく耳にするのが、生産性の向上はさておき、EDIの普及が最大の目的になっているケースです。EDIは手段であって目的ではありません。業界としての認識不足や、経営者の方が実感していないことも弊害になっています。一番大事なのは、業界としてのコンセンサス。業界を挙げて取り組まなければいけないという、意思統一です。そこが抜けていてはうまく進まないでしょう。
私たちも定期的にセミナーを実施したり、EDIを簡易に実施できるツールを無償提供するなど、地道な活動を続けています。業界各社の戦略として個別にやるのか、業界団体が音頭を取ってやるのか、都道府県ごとに取り組むのか。共通してやるような状況になれば否応なしになるし、導入のスピードも違ってくるでしょうね。
EDIを推進する業界団体の集まりの中には、中小企業を自認する方もいて「中小企業の導入が進まない」と悩んでおられます。でも私は、「中小企業」と一括りで考えても難しいと思っています。中小企業とはいえ抱えている課題も、置かれている状況も千差万別です。以前、東京多摩地区の電子部品や素材加工関連の中小企業10社の社長に集まってもらい意見を聞いたことがあります。その時に感じたのは、彼らは注文情報を欲しがっているわけではないということ。例えば塗装会社の社長は「いつ塗料が必要になるのか、生産計画の情報が知りたい」と......。つまり、個々の企業で欲している情報は違いますし、「これが中小企業向けCI-NET導入のパッケージです」と言ってもあまり意味はありません。建設業にしてもいろんな業種業態がありますし、それぞれに合った仕組みを作らないと広がらないと思います。
矢野センター長
もう一つのポイントが、これからの建設業界の見通しです。CI-NET導入によって紙代が安くなるとか、通信費用が安くなるとか、そんなことをメリットとしてアピールするよりも、これを導入しないと時代に取り残される、生き残っていけないことを声を大にして言うべきです。
建設業界では、これから人手不足になるのは確実です。建設投資も増え、近い将来、企業の電子化による経営の効率化が重要な課題になるのは明らか。そんな時に、初めてCI-NETに考えが及ぶのかもしれません。生産性の向上、経営の効率化と結び付けて考えるとCI-NET導入のメリットがより浮き彫りになります。
東日本大震災以降、建設需要が高まり、人材不足が叫ばれているようです。製造業でも同様の動きがあります。せっかく受注のチャンスが到来しても、工場のキャパシティや、設備不足などの理由で受けられないケースがあります。もし、その仕事にピッタリの能力を持った工場の情報がデータベース化されていれば、そのチャンスを見逃さずに済むかもしれません。データベースの共有化は具体的な検討事項になっています。建設業でも職人を探したいという時に、CI-NETに登録している企業情報から外注する企業を探す、そんなニーズもあるのではないでしょうか。
例えば、東北で災害が起きた時に九州の重機が余っていれば、それを活用するとか、防災計画と連携できるような仕組みがあるといいですね。そういった情報をデータベース化できるのも電子化のメリットであり、アピールポイントだと思います。つまり、CI-NETの導入で得られるデータを集積することで、そこから取捨選択、解析などを加えて、さらなる業務の効率化、コストダウン、将来の見通しなどに利用できるのではないでしょうか。
それぞれの産業の特性を見ながら進めていく。「こうすれば推進できる」という特効薬的なものはなく、やはり地道な活動が一番でしょうね。ただ、風向きが変わってきたことは、中小企業の経営者の方々も感じ取っているのではないでしょうか。
景気が低迷している中ではなかなか手が出しにくいことでも、今年に入って景気が上向きになっていますし、建設需要の高まりもあります。新しいことに挑戦するチャンスかもしれません。
■CI-NETの現状、最近の動き、今後の課題
国土交通省土地・建設産業局 建設市場整備課専門工事業・建設関連業振興室