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経営に活かす原価監理

経営に活かす原価管理 第2回|原価の構成 変動原価と絶対原価

地域経済研究所 コストコントロール部会 石岡秀貴 高田守康

 第1回の記事で、原価管理には二面性があることを説明しました。その一面は、施工前に行う契約管理です。工事に必要な下請け、資材、リースの見積や自社リソースを積み上げて、単価×投入数量で工事の予算を見積もる方法です。現状多くの会社で用いられている実行予算制度は、正にこの契約管理が中心となっています。
 しかしいったん施工を開始すると、不確定要素に満ち溢れている現場では、進捗を妨げる不測の事態が数多く発生します。いったん進捗が遅れると、賃率×投入時間で発生する労務費やリース料は、当初の実行予算を簡単に壊してしまいます。この進捗の遅れに対応するため、実行予算は単価や数量がふかされて積み上げられています。
 このように現状多くの会社の原価管理は、片手落ち状態であり、当初の実行予算の差異を追求し、説明に終始するだけの建前管理に陥りやすいことを述べました。
 ここから踏み込んで、本質的な原価管理(=現場から最大の利益を掘り起こすこと)を実現するには、どうしたらいいのでしょうか? それにはまず、原価の本質を知ることから始めたいと思います。これは、小難しい原価計算では、全くありません。イメージの中で、原価の発生要因を分類できるだけで、十分です。


 工事原価の構造

 原価を大きく3つに分けてみましょう。これは、材料費・労務費・外注費・経費といった会計的な分類ではなく、全く別の概念と観点からの分類です。原価の発生要因を明確にするために創った造語だと思って下さい。
 まず、右図を見てください。全体の合計が、工事の請負金額です。その中に3つの原価があり、これを差し引いたものが、粗利益です。
 原価の大幅な低減について話をすると、「そんなこと言っても、かかるものはかかる。現場を知っているならそんなことは言えないはずだ!」とよく言われます。確かに現場では絶対にこれだけは発生する、という原価が絶対原価です。
 絶対原価を更に下げようとするとどうなるか? 例えば、下請けに赤字で請け負わせる。残業代等を払わずに労働させる。リース屋からの請求書は、日数を大幅にカットする。さらには材料のごまかし等、違法行為や違法スレスレ、いずれもロクな手段ではありません。いくら下げようと努力しても下げられない原価、そして、全くロスのない理想的な現場運営のもとでも発生する原価、それを「絶対原価」と銘打ちます。
 2つ目の変動原価とは、現場運営の差異や個別条件のもとで発生する、正当な追加コストのことです。その発生には、色々な要因があります。例えば、地元住民による施工日程の制限や時間制限、施工方法の指定、雨続きや台風で施工できない、大雪で施工効率が著しく落ちる。他にも無数の外部要因が原因で発生する追加コスト、それを「変動原価」と銘打ちます。
 ここが、「現場は自然が相手で、机上の計画通り行くわけがない」とも言われる所以です。しかし、この変動原価は、抑制することはできても、0にすることはできません。つまり、追加コストですが、必要原価であって、必ずしも悪ではありません。
 3つ目の「浮遊原価」も、絶対原価の上に積み重なる追加コストです。それは一見、変動原価と同じに見えます。何が違うのでしょうか? 変動原価は、現場代理人の責任の範囲外、いわば外部要因で発生するもの。浮遊原価は、現場代理人や本社の管理者、経営者の責任によるもの、いわば内部要因で発生する原価です。
さて、浮遊原価は一体どのようなタイミングで発生し、どのような性質をもつものなのでしょうか? 以下に具体例を挙げてみます。

手が悪くて、施工スピードが上がらずに全体工期が予定以上に遅れる
段取り不足のために、前工程と後工程の繋ぎ目で、余計に時間がかかる
労務や機材など投入資源が、過剰な場合と不足な場合がある(工程の平準化ができていない)
クリティカルパスがわかっていないので、最短工程が望めない
打合せ都合による工事空白時間、下請け待ち、機械待ち、監督待ちが多発
技術力不足による施工スピードの低下や施工ミス、特に手戻りは最悪
着工までの準備期間や施工完了から検定日までの期間が長すぎる
配置技術者が多すぎる
(自己設定による)管理項目が過剰、管理水準が必要以上に高い

と、ここまでほんの一部の要因を挙げましたが、一つひとつの原価の揺れについて要因と対策を挙げていくと、1冊の書籍になるぐらい膨大なボリュームになるので、ここでは割愛します。浮遊原価が発生する原因を一言でいうと、計画能力の不足です。つまり、内部要因による追加コストなのです。
 それでは一般的な実行予算で、変動原価や浮遊原価を管理できるでしょうか? 残念ながら仕組み的に、どうしても無理だと思います。予測も想定もできないことに対して、責任を負わされる現場代理人は、予防的に実行予算をふかしたり、絶妙な言い訳で自己防衛に終始することになってしまいます。

 


 真の原価管理とは?

 この現状を踏まえて、真に原価管理するために必要なことは、何なのでしょうか?

 絶対原価は、落札時点で決定するので、正確に計算して受け入れる。変動原価に対しては、予測を働かせできるだけ予防抑制をする。そして浮遊原価に対しては、全力で低減に努めること。理想形は、浮遊原価を根絶することです。これまで浮遊原価が500万円だったとすると、浮遊原価を根絶することで500万円の粗利が増えるのです。
 このように絶対原価・変動原価・浮遊原価を正確に把握して、変動原価を予防抑制し、浮遊原価を根絶することが最も大事なのです。粗利を最大化するために、全社で取り組む不断の努力とスキルアップこそが、真のコストコントロールなのです。

 最後に、その浮遊原価を叩くには、どうしたらいいのでしょうか? それは、浮遊原価の性質を見るとわかります。浮遊原価は、全てこちらの計画、段取りの甘さのスキをついて、時間のムダやムラと共に発生します。ということは、管理すべきは、金額だけではなく、計画や段取りなどの時間管理、工程管理なのです。時間をコントロールできる工程計画スキルを持つ以外に、浮遊原価を管理し根絶する手段はありません。
 次回から、この工程管理スキルについてご説明します。



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